8-1 また申請通らなかったんですか!?
「え〜!部活の申請また通らなかったんですか先生!?」
放課後の第二軽音部部室兼、きらら部部室。
もる子さんは机に身を乗り出して顧問の叙城ヶ崎先生に抗議しました。
「うーん。通らなかったと言うよりはね瀧笑薬さん」
「なんで駄目だったんですか!?」
「それがね、瀧笑薬さん」
「そうですわ!活動内容も問題なしでしたのに!」
もる子さんに乗っかって蛍日和さんも声を荒げます。
その後方にはいつものお二人。
従者としての役目を全うするように、些細さんと持さんがいました。
「何がいけないんですか!?」
「そうですわ!叙城ヶ崎先生!」
「えっとね。ふたりとも、」
「もる子さん!まさかとは思いますが、これは生徒会の陰謀ではありませんでして!?」
「はっ!蛍日和ちゃん!まさかそういうことなのかな!?」
「きっとそうですわ!ワタクシたちが選挙に出られないように妨害工作をしているに違いありませんわ!」
「ぐぬぬ!卑怯だぞ生徒会!」
「いえ、もしかしたら生徒会だけでなく、風紀委員も噛んでるかもしれませんわよ!ほら!この前言ってたではないですか!刺客を差し向けると!」
「はっ...!まさか、先生自体がその刺客...ってこと!?」
「あのね蛍日和さん。先生のお話、」
「やっぱりこの前の先生のあれは襲撃だった!?」
「違いありませんわ!」
目にも止まらぬスピードで間違えているであろう方向に突っ走る二人。
部活が認可されない理由は絶対違うところにあると思いますが、そんな考えはほんのちょっぴりも無いようで、捏造から生まれた記憶をいつの間にか真実に変えて行く様はとっても滑稽に感じました。
叙城ヶ崎先生も笑顔ではいてくれていますが、妙に表情筋がピクついて見えます。
きっとこういう時は誰かが止めなければいけないのでしょうが、私には止められる自信はありませんでした。
蛍日和さん一味のお二人も、一方はピンク狂信者、もう一方は口下手悪鬼羅刹と来ていますから、多分もうどうしようもありません。
そんな事を思っていたとき、狂信者、いえ持さんが声を上げました。
「もるちゃんさん!何を言ってるんですかっ!先生に失礼ですよっ!」
「でも!持鍍金ちゃん、これは明らかに陰謀だよ!政府の陰謀だ!私は国家権力には屈しないよ!」
「違いますよっ!これは権力の横暴ではありませんっ!」
「でも!」
「いいですかもるちゃんさん!申請が通らなかったのはなぜか?もっと論理的に考えてくださいっ!私たちに足りていないものは何かっ!」
ピンク色に犯されていると思われた持さんでしたが、どうやら今はまともなようです。
彼女の説得は続きます。
「足りないもの?」
「そうですっ!」
「うーん...。届けは出したし、活動内容もきらら系になるために色んなことに挑戦するって決めたし、顧問は叙城ヶ崎先生だし...」
「ちっちっち。もるちゃんさん。まだ足りないものがあるんですよっ」
「足りないもの?」
「はいっ!提出書類に私たちの名前が書いてありますよね?そこの部長の欄って、どうなってます?」
「え、江戸鮭ちゃんだけど」
「...えぇ!?」
私は寝耳に水を五リットルくらいかけられたレベルで驚きました。
部員になることはまだしも、最終目標にも賛成していない私がどうして勝手に部長になっているのかと。
しかし私の驚嘆なんかは誰の耳にも入ってはいないようで、微かに些細さんがこちらに首を傾けたくらいでした。
「そうですっ!鮭ちゃんさんが部長になっているっ!これがいけませんっ!足りない...ッ!足りないんですよっ!圧倒的なまでに...ッ!きらら系の実績がね!」
「ま、まさかそういうこと!?」
「はいっ!それにピンク色成分とメガネと軽音部成分も...ッ!」
「それは持鍍金ちゃんの好みじゃないの?」
「そうですよねっ!叙城ヶ崎先生!」
「持鍍金ちゃっんってたまに私たち以上に突っ走るよね」
「ワタクシもそう思いますわ」
私は呆れてものも言えませんでした。
ひとり興奮した持さんに、ぽつりと些細さんが呟きます。
「自覚なし」
須臾の静寂に、隙があったと見た叙城ヶ崎先生は、ここぞとばかりに再開しました。
「持鍍金さん。ぜんぜん違うんで落ち着いてくださいね」
「じゃあやっぱり陰謀ですか!?」
「瀧笑薬さんも再発しないでくださいね。いいですか?先生の話はきちんと最後まで聞きましょうね。皆さんのきらら部が認可されなかった理由はとても簡単なことです。それは」
「それは?」
もる子さんがゴクリと唾を飲む音が、私の耳にまで届きました。
「既に名前も活動内容も同じ部活があるらしいんですよ」
続きは本日




