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7−4 あなたに似合うお召し物



一撃を止められたもる子さんに白線が襲いかかります。

足元を狙ったように伸びた白線。

それを軽々と後方へと飛ぶことで避けたもる子さん。

白線は床にぶつかるとまるで光が屈折ように向きを変えて、教室を覆う蜘蛛の巣の一本となりました。

次の一撃、白線は私に向かって迫ります。

私には避けようもない速度です。

「ひっ」と硬直した身体で放った一言を遮るように、もる子さんが私の前に現れて、白線を叩き落とします。

しかし白線は一本ではありません。

先生の手首、服の袖から無数の腕のように私に向かっていくつもいくつも伸びました。

もる子さんはそれを叩き落とし、いなして、防戦一方です。

一瞬の隙でもあればきっともる子さんは突っ込んでいくことでしょう。

しかし、そんなものはありませんでした。


しばらくそんな攻防を続けていると、余裕綽々、もる子さんと違って教壇に立ったまま姿勢すら変えることもない先生は言いました。


「先生、さっき最後の条件っていいましたけど、ごめんなさいね。最後じゃなかったかも」


「え〜。先生。条件多すぎ〜」


「ごめんなさいね。先生ちょっとはしゃいじゃってて」


「も〜」


「でも瀧笑薬たきにこみさん。楽しいでしょ?」


「うん!」


「それはよかったです」


「でもね、先生」


そう言いかけると、もる子さんはもう一度叙城ヶ崎先生の懐に飛び込みます。

間合いを詰めて正面からの単純な一撃、先生も最初と同じように前面に防御のお花を展開しました。

しかし、もる子さんはインパクトの直前に先生の側面へと回り込みました。

防御も攻撃も圧倒的な先生でしたが、反射する白線の速度はあったとしても身体的な認識速度や動き方ではもる子さんに軍配が上がるようです。

先生ももる子さんの一撃を防がなければ危ないと思ったのか、一瞬だけ遅れて側面に二枚目のお花が咲きました。

しかし、もる子さんの狙いは一撃必殺ではなかったようです。

袖から伸びた白線の束、それを両手で掴み取りました。

そしてそのまま勢い任せに引っ張ると、白線の根本とも言える部分が全てスッポリと抜け落ちたのです。

教室中に張り巡らされた白線も張り詰めたままで入るものの力を無くしたのか、もる子さんにも私にも向かってきません。


「あらあら。瀧笑薬さん。スゴイ」


「えへへ。たくさん広がってても出てるところは先生の手元だったから!」


「よく見極めましたね」


「これも能力ってやつですか?」


「そうですよ。きらら系能力です。『自愛召物おめしもの』って知ってますか?」


「聞いたことあります!汎用能力?ってやつですか?」


「正解です!よく知っていましたね瀧笑薬さん。にじゅうまるですね」


「えへへ〜!ありがとうございます!でも、これでおしまい!」


もる子さんは右腕を引きました。

先程は花盛に阻まれた一撃必殺でしたが、持さんの花盛を突き破ったこともある威力に間違いはないはずです。

今度は渾身の力を込めて拳を振り抜きます──


「──常衣更着つねきさらぎ』」


「うぇ!?」


叙城ヶ崎先生の鳴らした指パッチンとともに、もる子さんが白い煙のようなものに包まれました。

そしてあっという間に彼女の姿は見えなくなったかと思うと、次の瞬間には煙が消えました。

するとそこには、


「ひ、ひえ〜!なにこれ!?」


目や鼻や口といった顔の一部と髪の毛、そしてあられもないことにお腹や太腿が顕になった、包帯でぐるぐる巻きのもる子さんの姿がありました。

自身の姿に驚くもるこさん。

動こうにも手は後ろに、脚はまるで二人三脚の如く二本をひとつに巻かれていて立っていることがようやく、といったようでした。


「いったでしょ瀧笑薬さん。にじゅうまるだって。はなまるには程遠いですよ」


叙城ヶ崎先生は得意げに指をクルクル回しながら言いました。


「汎用能力、花盛にも自愛召物おめしものにも段階がありますからね。そこまではまだ詳しくなかったようですね。これもお勉強ですよ」


そう言い残すとぴょんぴょんと跳ねることしかできないもる子さんを余所目に、叙城ヶ崎先生は私の方へと真っ直ぐに歩き始めました。


「自愛召物の能力の段階は全部で四つです。詳しくはまたどこかで話しますけれど、第一段階から順番に黒選くろえらび白線しろざかい灰践はいぶみ無染むとんちゃく


したしたと先生のパンプスの音が近寄ってきます。


「さっき先生が瀧笑薬さんに使っていたのは二段階目の白線。今使ったのが第三段階の灰践と第四段階の無染です。四まで使える人は中々いませんからいい経験ですよ。それから」


足音がやみました。

先生は既に私の眼前で、ニッコリと微笑んでいました。


「江戸鮭さんにに使ったのが第一段階の黒選」


スルリと伸びた先生の腕、その袖口から白線がぬるりと姿を見せました。


「江戸鮭さん。覚悟してね?」


先生の手が、私の方に触れました。


「──させて下さいね」


「...え?」


「ん〜!わっ!」


そのとき先生の後方で、もる子さんの叫びとともに、何かが破れる音がしました。

私を見つめていた先生はその声に驚いて振り向きました。

しかし、時既に遅く彼女はぐるぐる巻きの両手両足の拘束を力ずくで破って先生の目の前に迫っていたのです。

花盛を一撃で粉砕するもる子さんの一撃が。


「まって!!」


私はここ一番に大声で叫びました。




続きは本日投稿いたします。

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