6−4 ぬるりと表れた刺客
「あたし、質候さんに連れてこられた祈っいうんだけどね」
「え、あ...はい。はじめまして...どういったご要件でしょうか...?」
「そのね、風紀委員会からの刺客ーって名目だったんだけど...うん。なんか、な、うん。どうしたらいいのかと思ってね」
「あ、え?ああ〜...質候さんが言ってたあの、刺客さん...ですか...えと、あ〜...ど、どうします?」
「どうします、と問われてもな...。じゃあ取り敢えず名乗りだけでも...練習させられたし」
「練習とかあるんですか...。ど、どうぞ」
「あ、ども。風紀委員会からの刺客ナンバーいち。スピリチュアル系部活動『占い部・侑來來』部長、二年の祈綯袖だよ」
「よろしくお願いします。江戸鮭です」
「質候さんから伺ってる。伺ってたんだけど、どうしようかね」
「...どうしましょうかね...」
「ね」
あちらでは一触即発、こちらでは意味のわからない不思議な空気に、今や室内は混沌としています。
持さんに助け舟を出して貰えないかとチラと彼女を見ましたが、先程までいた机の向かいに姿はありません。
恐る恐ると後を見ると、死に体と化している蛍日和さんの上にぴったり重なって寝そべっていました。
何をしてるのかは知りません。
知ろうとも思いません。
助け舟はありません。
助け舟どころか船も無ければ人もいません。頼れるのは自分だけです。
「じゃあ、占ってもらえます...かね?」
「あたしはいいけど...いいのかな」
「あ、駄目なら大丈夫です...よ。急ですし...」
「いやいや。あの、ね。あたしは良いんだけどね。ほら、風紀委員会から頼まれてるからさ、成果というかそういうのも一応報告入れないといけないしね」
「あー...結構細かいんですね...。でもまあ...質候さんがこれですし...」
「そうねぇ...。まあいいだろ。あたし戦うとかそういうの向いてないし。そんじゃあ、何占う?」
「それじゃあ...名前とか...」
「名前?」
「はい...今ちょうど、新しい部活を作ってるというか、何部にしようかの会議というか...きめてるんですけれど...」
「そうは見えないけどね」
「ですよね...」
「で、何をする部活にしたんだい?」
「まだ全然決まってなくて...それで、」
「名前を先に決めようかってか。ふふん。面白いね。OK、じゃあきめよっかね」
祈さんは私をじっと見つめます。
彼女の瞳はまた、キラキラと菱形を描いていました。
それから順番に、取っ組み合う二人を、寝そべる二人を。
顎に手を当てて、ふんふんと鼻にかかった声を鳴らした彼女は、もう一度私の方へと向き直りました。
「キミたちはあれだな。とってもバラバラだな」
「バラバラ、ですか...?」
「うむ。天下を取りたいってヤツと、元通りにしたいやつ。好きな人とべっとりしてたいやつ。ずっと思い出を大切にしたいやつ。ただ日常をすごしたいやつ。皆違ってる。でもそれがいいね」
「わあ...わかっちゃうんですか...?」
「私の能力だね。『のうめん』って名前なんだ。自分でつけたんだけどね、結構お気に入り」
「のうめん...」
「ホントは見えないものを見えるように、見えるものを見えないようにする能力なんだよ。深層心理や思い出なんか覗き見させてもらった。だから占いはその応用だね。ま、最近じゃ専らその人が持ってる能力の本質を見て名付けとかしてるけどね」
「あ、じゃあ些細さんの名付けっていうのも...」
「些細か。『易読仮名』だね。イケてるっしょ?結構お気に入りだよ。ま、それは置いといて、君らの部活の名前だったね」
「あ、はい。そうでしたね...」
「う〜...じゃあ、きらら部ってことでどうかな?」
「きらら部...ですか?」
「うむ。キミたちはバラバラだといった。だがとてもキラキラしているよ。アホなことで馬鹿騒ぎできるいい仲間だね。まるで第一世代のきらら系みたいだよ。だからそんな日常の幸せを忘れないように、『きらら部』だ。単刀直入、シンプルが一番だからね」
祈さんはニカリと笑いました。
私もつられて少しだけ笑みを浮かべました。
「ありがとうございます」
「いいよいいよ。それよりも後ろの惨劇を止めたほうが良いんじゃないかな?」
祈さんは私ごしに、わざとらしくもる子たちを確認する素振りをしました。
「...そうします」
私は掴み合って膠着しているお二人さんに声をかけました。
「もる子さん、些細さん。一旦ストップで...」
「もすこし」
「ちょっとまってね江戸鮭ちゃん!...あれ?その後ろの子誰?」
もる子さんは質候さんと一緒にやってきた祈さんに気づいていなかったようです。
ですがさすがもる子さん。
彼女を認識した途端に、こんな状況にもかかわらず挨拶をしました。
「こんにちわ!私、もる子!一年一組だよ!よろしくね!」
「よろしく。私は祈、占い部の祈だ。もる子君、つかぬことを聞くけどいいかい?」
「なんですか?」
私の隣をすたすたと、祈さんの小さな背丈が通り過ぎました。
靡く黄緑の髪は風に乗る速度を上げて、もる子さんに向かっていきます。
そして彼女の髪だけでなく、身体も、長い白衣も風に乗って宙を舞いました。
「争いごとは得意かな?」
続きは本日。