4−7 食べ盛りは能書きを聞かない
べちん
私が二人の戦いに背を向けていると、鈍い音が聞こえました。
音の正体は勿論、質候さんの竹刀の音。
そしてそれが些細隣さんの頭に直撃した音でした。
叩かれた彼女は頭を押さえながら、崩れるように地面に膝をつきました。
質候さんは切っ先を些細隣さんの目の前に突き立てて高笑いをします。
「ははは!見たか些細隣!これで一本だぞ!」
些細隣さんは痛みに耐えながら、質候さんを睨みつけるように見上げます。
そして、
「ごめんなさい」
と、ちいさく頭を下げて質候さんに謝罪をしました。
「わかれば良い!さて次は部長こと蛍日和!貴様の番だ」
「あらら、些細〜、頭痛くないですの?」
「持のガードあったから。だいじょうぶ」
「よしよしですわ〜」
「聞け!阿呆ども!」
蛍日和さんは些細隣さんを撫でる手を止めると質候さんに体を向けました。
私からは表情は見えませんが、彼女の背中からはどこか決意をまとったような雰囲気が漂っていました。
ですがそれどころではないくらい、私の真横から鬼気迫るといったレベルを超えた怨嗟が渦巻いています。
「東北ちゃんだけズルい、撫でられてズルいっ!花盛切っとけばよかった...」
隣でガジガジ指先を齧るツインテールは置いておきまして、今は蛍日和さん。
彼女がどう仕掛けるのかに注目です。
「部員が一本取られてしまっては、私が出るしかありませんわね」
「はっはっは!やってみろ蛍日和。お前の能力だってこちらはわかっているんだぞ」
「そうですのね。じゃあ、遠慮なく...やらせていただきますわ」
蛍日和さんがスカートのポケットから小さなホワイトボードを取り出します。
同時に質候さんが間合いを詰めます。
そして些細隣さんが、持鍍金さんが叫びます。
「「「だめ!」」ずぅわ!」
蛍日和さんが後方へすっ飛びます。
いえ、蛍日和さんがというよりは、すっ飛んできた質候さんに巻き込まれて。
二人はしばし宙に浮いてから、団子になってアスファルトで身を削りました。
質候さんも蛍日和さんもピクリとも動きません。
「長い!!!」
そう叫んだのはもる子さん。
勿論、質候さんを吹き飛ばしたのも彼女でした。
自分にかかってくると思った質候さんが先に蛍日和さんを襲い、それを守った些細隣さんと戦って、自分だけ置いてけぼりにされたもる子さんは業を煮やしに煮やし、イライラを発散するかのごとく質候さんの背後から強烈な一撃を加えたようでした。
ドン引きする私を余所目に、既に質候さんから興味を失ったもる子さんは次なる獲物を求めて焼き鳥屋さんへと駆けていました。
今日もまた風紀委員の目的は果たされないまま放課後は過ぎていくのです。
「おじさん!焼き鳥!もも!十本!」