4−2 星みっつ
「ふふふ、驚きまして?鍍金は何でもやる女でしてよ?ちょっとした話だろうが何だろうが筒抜けですわ〜」
私の隣で、自慢げに蛍日和さんが笑いました。
「はは...はあ...」
持鍍金さんは少し自慢げに胸を張りながら続けます。
「現生徒会に取って代わって私達が天下を取る。とってもいい作戦だと思いますっ!ですが障害がないわけではありません」
「と、いうと...?」
「選挙に出る条件ですっ!」
「条件...ですか?」
「はいっ。現生徒会は鮭ちゃんさんも知っての通り学園のルールを変えました。制服登校を原則にしましたし、髪色、髪型、アクセサリーその他諸々の自由を一部生徒の特権としたのですっ。いわば生徒会の言いなりです。それと同時に生徒会選挙に出る方にも制限をかけました。それは一定の支持のあるきらら系っぽい活動をしているということ。つまり、個性を持っている人だけが生徒会に入れると」
「でもそうしたら...」
「はい。髪型や髪色なんていったきらら系のアイデンティティといった部分を根こそぎ奪われてますから、大体の学生は生徒会には入れませんっ。その権利すらないんです。ですがそうしたら余りにも独裁的すぎて声を上げる方々もいることでしょう。ですから、生徒会の息がかかった権力を持つ活動をしている者たちっ。つまり『星みっつ』の学生を生徒会立候補者として立候補させて、現生徒会メンバーと競わせたんです。いわば八百長ですね」
「な、なるほど...」
「『星みっつ』の条件はとても過酷です。今は一部の上位部活動や風紀委員会くらいです。私達、第二軽音部だってやっと星ふたつです。ですからまず私達がすることはっ」
「『星みっつ』...になることですか...?」
「その通りですわ!」
蛍日和さんは立ち上がり、びしっとポーズを決めました。
「ワタクシたちは夢を追い求めるために星みっつになって、学園内できらら系の天下を取るんですわよ!」
私の方に強く強く指を向けてなんともご満悦です。
話を聞く限り、どうすれば生徒会になれるかはわかりました。
ですが一番の問題として私は生徒会に入る気はありませんし、生徒会長なんてもってのほかです。
彼女たちはトントン拍子に話を進めた気でいるのかもしれませんが、私は全くそうでありません。
私はただ平和に毎日毎日たのしくキラキラとした高校生活が送れれば充分なんですから。
「なんか面倒くさいな〜」
私がそんな事を思っていると、花壇の後ろの茂みから声がしました。
もる子さんです。
「あら、もる子さん。いらっしゃいましたの」
「うん。聞いてたけどさ〜。なんか、星がどうたらとか...面倒だな〜って思っちゃった。それに私と江戸鮭ちゃんに敵意剥き出しだったし?そんな人達の話に乗るのもあれだな〜って」
「ですから、それは勘違いですわ」
「じゃあ、私の苗字を呼んだことは?」
「それも勘違いですわ。ワタクシが言いたかったのはアナタがなぜ学園にやってきたかの理由を知っているから協力しようってことでしてよ」
「へ〜、そうなんだ。信じられないけど」
「信じてもらうしかないですわね。それに、これが生徒会長への近道でしてよ?」
「あのさルールとかどうでもいいから真っ向から全員倒せば生徒会になれるじゃん?さっきの蛍日和ちゃんたちみたいに」
二人は冷ややかに睨み合います。
もる子さんは笑顔を崩しませんが、目つきだけはとても鋭く光っていました。
まさに一触即発。
先程の惨劇がまたも繰り広げられるのではと頭をよぎります。
私が二人を交互に見ながらワタワタとしていると、蛍日和さんが口を開きました。
「ですがもる子さん。例え生徒会を全員倒したとて、学生の皆さまが認めなければそれは生徒会とは言えませんですわよ?」
「あ、そっか!じゃあ選挙はでよう!選挙で全員ぶっ飛ばせば大丈夫だね!」
「そうですわ!」
何が「そうですわ!」なのか私にはわかりません、が何故か先程まであんなに敵対していたのにもる子さんと蛍日和さんは意気投合気味。
現に両手を合わせて笑い合っています。
二秒前の目つきとは真逆に瞳を輝かせて。
「そっか〜!そうだね!うん!全員ぶっ飛ばしても皆に認められなきゃ駄目だもんね〜!さすが蛍日和ちゃん!」
「納得してもらえて良かったですわ〜」
私は彼女のあまりの転身ぶりに眉をひそめます。
「あの...もる子さん、もっとこう、穏便に...」
「だってさ江戸鮭ちゃん!そんなルール守ってたら卒業しちゃうよ私!だからさ、ぐうの音も出ないくらいに全員ぶっ飛ばせば解決じゃん!選挙で、ね!?」
「いや、あの...そうではなくて...もる子さん、さっきまで怒ってたのにいいんですか...?」
「えー?だって江戸鮭ちゃん。生徒会ごと乗っ取るには五人必要でしょ?いち、に、さん、し、ご。ほらぴったり!」
「そうですけど...そうではなくて...」
「江戸鮭ちゃん!いい!?」
彼女は私の顔にぐいっと近づけて言いました。
「私たちの最終目標はこの学園を変えること!生徒会はぶっ飛ばすけど、それは通過点だから!」
私はその勢いに、小さく首を縦に振ることしか出来ませんでした。




