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3−3 苗字



「う〜ん...」


もる子さんはポリポリと頭をかきます。

その表情は不思議と不満が入り混じったように、どこか納得いかないといったものでした。

なぜか当たらない攻撃、行く手を阻む半透明のお花。

今まで目にしたこともない謎の存在に、私の頭にも「?」ばかりです。


「どうですこと。もる子さん」


「あれ?私、名前言ってたっけ?」


「うふふ、ですわ。ワタクシたちが三日三晩何もしないで屋上で夜露に濡れていたわけではありませんわ。少しばかりですが、調べさせていただきましたの」


「へ〜!」


「アナタでけではありませんわ。そちらのゴスロリさんのことも。調べられる限りは鍍金めっきに調べさせましたわ」


「それ、あんまりいい趣味とは言えないよ〜。怖いって!」


「お誕生日から趣味から好きな食べ物から、家庭環境に友人関係、全部全部調べましたわ〜。それに...。」


語りを意味深に止めたパーマさんの笑みが、不敵に鈍く光ります。


「どうしてこの学園にやってきたかということも、ですわ。瀧笑薬たきにこみさん」


もる子さんが全身をピクリと震わせます。

一瞬だけパーマさんを見つめる瞳が鋭く光ったように見えました。

しかし彼女の表情は、先程までの笑みとは何も変わりません。

ですがどこか能面のように張り付いた、引きつったように見えました。


「ふーん...そっか。知ってる人なんだ」


「それがいかがしましたの?」


「いや、別に」


「あらあら、そうですこと。じゃあ続きと行きましょう瀧笑薬さん。それとも、」


唇に指を添えたパーマさんが少しばかりの妖艶さを含んで、嫌らしく口角を上げました。


「やはりお逃げになりますの?瀧笑薬さん」


もる子さんはカクンと顔を下に向けました。

栗色の前髪で私からは表情は見えません。

ですが決して彼女はいい表情はしていなかったでしょう。

少しばかりの静寂をこえて、ポツリと放たれた言葉がそれを物語っていました。


「...ぶな」


「え?なんですこと?瀧笑薬さん?もっと大きな声で」


「その名前をお前らが呼ぶな」


自らを押さえつけたように笑みを崩さなかった彼女の口が一文字に結ばれていました。

目つきも先程までとは対極です。

パーマさんを睨みつけるようなその瞳は、黒黒と怨嗟に染まっているようでした。

もる子さんの豹変ぶりに怯んだパーマさんが、ビクリと体を震わせると同時に些細ささいさん、鍍金めっきさんは共に体幹を低くしました。

しかしそれよりも速く、もる子さんはパーマさんだけしか視界に入っていないように一気に距離を縮めます。


両手を翳しながら二人の間に割り込んだのは、金髪ツインテールの鍍金さん。

先程、もる子さんと些細さんを遮ったように半透明のお花を展開します。

ですが、もる子さんは全く意に介しません。

目の前に表れたお花の花弁を鷲掴みにすると、それを引き剥がすようにして毟り取りました。


鍍金さんはまさかの出来事に目を丸くして、一歩も動けませんでした。

いえ、動く隙もありません。

花弁を毟り取った手をそのまま鍍金さんの鳩尾あたりに叩き込みます。

その瞬間にも一瞬だけお花が垣間見えましたが、いままでのそれとは違い、ひどく色は薄いまま空間に散っていきました。

もる子さんの一撃に、鍍金さんのツインテールはぺたりと床に落ちました。


「ふいう...」


束の間、もる子さんの背後に銀色の毛先が躍り出ます。

もる子さんの首筋を狙った一撃です。

しかし、彼女の言葉が紡がれる間もなくそれを片手で掴み取ります。


「はなして」


固く握られた彼女の手はその一言で解放されました。

同時に振り向くもる子さんは間合いを詰めて些細さんに徒手空拳で挑みます。


「よけるよ」


些細さんはもる子さんの手を足を、難なく避け続けます。いくらやっても攻撃は当たりません。

ですが、些細ささいさんもその猛攻を避けるだけで一向に攻勢には出られません。

私はもる子さんの一撃一撃が振るわれる度に声を上げそうになりました。

そして遂に誰がどう見ても、些細さんのお腹にもる子さんの拳が突き刺さったように見えました。


「あぶな...!」


私は小さく声を上げました。

ですがそれは杞憂だったのか、いえ明らかに不自然にもる子さんの拳は些細さんを避けるように軌道を変えます。


私は少しばかり肩を撫で下ろすように息を吐くと、それと同時に目線を感じました。

些細さんです。

もる子さんをいなしながら、こちらを見つめていたのです。

私はハッとして改めて現状を思い知ります。

私はもる子さんと一緒にいて、今彼女が戦っている相手は私のことも目の敵にしている事を。


些細さんはもる子さんに構わず、私へと間合いを詰めます。

私は何もできずにただ頭を抱えて目を瞑りました。


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