贋作 3匹の子ブタ
むかしむかしあるところに、年老いた武士ブタがいました。彼には子ブタが3匹いたのですが、自らの脳筋を恥じて学をつけさせました。
やがて大学を卒業した子ブタたちは、一級建築士になりました。みんなして独立を願ったので、武士ブタは3匹を応接間に集めました。
「1本や2本では折れてしまう矢も、3本あれば折れる可能性が減る。とはいえ、君ら方向性が違うから協力して会社つくるとか、一緒に住むとか、向いてないよね」と。
「はい。父上のおっしゃる通りで」と長男。長男の名前は「あんちゃん」です。
「まー、事業の協力に関しては、案件によっちゃーアリっすけど」と次男。次男の名前は「ちぃにいちゃん」です。
「まずは、それぞれ地盤を固めてからかしら?」と末っ子長女。名前は「こゆき」です。
「んじゃ、それぞれ家を建てて事務所を構えなさい。生前贈与で援助はするけど。住宅ローン減税と団信が適応されるから、住宅ローン必須ね?」
武士ブタは、数多の合戦で得た領地へ、子ブタたちを送り出しました。
あんちゃんは、自分の家を茅葺で作りました。
ちぃにいちゃんは、自分の家を総檜で作りました。
ふたりは多趣味なので、休みの日になるとYouTubeの配信や食べ歩き、ライブ活動をしたりして、楽しく過ごしました。
英国風ガーデンハウスに憧れるこゆきは、自分の家をレンガで作りました。暖炉と煙突を置くために、耐震性も土台から万全です。休日はガーデニングに全力を費やしています。
ある日のことでした。
旅のオオカミが、3匹の子ブタが住んでいる領地を偶然通りかかりました。オオカミの視界には、茅葺できた家がうつりました。
中からおいしそうな若いブタの匂いがします。
オオカミは舌舐めずりをすると、ドアをノックして言いました。
「やいブタ!! ドアを開けろ!!」
3匹の子ブタは、屋根裏の蚕部屋から、毛並みの悪い狼を見下ろしました。
「うちの領地の者じゃねえな」
やがて、オオカミは大きな歯を見せて言いました。
「居留守を使うなら、この家をひと吹きで吹き飛ばしてやるぞ!」
そしてオオカミは、子ブタの家をひと吹きで吹き飛ばせ……ませんでした。
あんちゃんが作った茅葺の家は、正しく言うと「茅葺屋根の合掌造り」です。オオカミの肺活量でどうにかなる代物ではありません。
「よろしい、ならば戦争だ」
オオカミは、灯油をばら撒いて火をつけてきやがりました。3匹はとりあえずちぃにいちゃんの家にワープしました。
ちぃにいちゃんの家は、堀にかこまれた寝殿造りな日本家屋です。
3匹は堀の水をワープさせ、懸命な消化活動を続けました。
オオカミは、放火の現行犯で逮捕されました。
数ヶ月後、釈放されたオオカミが小道を歩いていると、ちぃにいちゃん家の堀が見えました。
腹ペコオオカミは堀を見るなり「中にブタがいるにおいがする!」と思いました。そしてよだれを垂らしながら「今夜のディナーにするから、ヨシっ!」と思いました。
どうも、学習能力が足りないようです。
オオカミは、堅牢な門を叩いて言いました。
「やいブタ!! ドアを開けろ!!」
物見櫓から双眼鏡をのぞいたちぃにいちゃんは言いました。
「あれ? この間の放火魔っすわ。あんちゃん、こゆき、どーする?」
「この家、罠がいっぱいあるんでしょ? 発動してるとこ見たいから放置で」
「こゆき……オレ、お前が怖いわ」
子ブタたちのスペックを甘く見ているオオカミは、鋭い牙を見せて笑いました。
「居留守を使うなら、こんな家、ひと吹きで吹き飛ばしてやるぞ!」
オオカミのひと吹きで、子ブタの家は吹き飛びま……せんでした。実はオオカミは合掌造りの古民家ならまあまあ吹っ飛ばせるほど肺活量を鍛え上げたのですが、堀にかこまれた総檜の神殿造りには通用しません。
面白くなった子ブタたちは、プークスクスしながらオオカミの眼前にワープしては、一目散に逃げました。
怒り狂ったオオカミは、小道を下って、小川をジャンプし、いくつかの結界をぶち破って子ブタを追い続け、いよいよ子ブタを捕まえようとしました。
しかし、子ブタたちはギリでレンガの家の中に逃げこんで、オオカミに捕まえられる前に家の扉を閉めました。
3匹の子ブタは、オオカミが自分たちを食べようとしている事実を知り、ちょっと理解に苦しみました。
「豚肉食べたきゃ、スーパーで買えよ」と。
オオカミはその日一日、何も食べていませんでした。三者三様に小賢しい子ブタたちを追いかけまわしてているうちに、まともな思考がストライキしてしまったのです。
空腹は、生物を狂わせます。英国風ガーデンハウスからただよう3匹の子ブタのにおいに、「何としてでも子ブタどもを捕まえて、血湧き肉躍るごちそうにしよう」と思いました。生食パーリィ! イエッ!!
オオカミはドアを叩いて言いました。
「やいブタども! ドアを開けろ!!」
3匹の子ブタは鍵穴からオオカミの胡乱な目を見て、戦慄しました。煽りすぎたのか、ヤベェ奴がもっとヤベェ奴に進化しています。潔癖なお父ちゃんにバレたら、お尻ぺんぺんされるかも?!
オオカミは、鋭い牙を見せて言いました。
「こんな家、ひと吹きで吹き飛ばしてやる」
オオカミは息を吸い込み、奥義ゴッドブレスを見せつけました。
堀に囲まれた寝殿造りは無理でも、合掌造りを吹っ飛ばせるほどに、肺活量を鍛え上げたオオカミです。
「限界を突破せよ! オレの肺活量! 子ブタの家など、吹き飛ばせ!」
最後に大きく息を吐き出すと、レンガ造りの英国風ガーデンハウスは庭ごと吹き飛んでしまいました。
オオカミは歓びに踊り狂いました。
「我が生涯に、一片の悔いなし!」
「うるさい! このタワケがぁっ!!」
高々と左手を挙げるオオカミを、衝撃が襲いました。折れた煙突をぶん回し、オオカミを殴打するはこゆきです。
「あたしの! 夢の家と! 庭と! 事務所をよくもっ!!」
「ゴフッ!!」
煙突の瓦礫が破片になるまで、殴る! 殴る! 殴る!
ヒット アンド ヒット アンド クリティカルヒット!
もはやピクリとも動かなくなったオオカミが平たくなるまで殴ると、こゆきは無言で皮を剥ぎはじめました。
ガタガタ震えて抱き合う、あんちゃんとちぃにいちゃん。
次にこゆきは、大きな鍋に熱いお湯をたくさん沸かしました。オオカミの皮をグツグツ煮て、干して、目玉と割れた頭蓋骨と玄関に飾って、みせしめにするのだと、はにかみました。
その後、保険会社とやりあった末に完全勝利したこゆきは、新しくガーデンハウスを作り直しました。
よりキュートに、よりナチュラルに、よりファンタスティックに。
物騒な玄関が闇系のお客さまに受け、大繁盛したのは、言うまでもありません。
こうして、3匹の子ブタたちは仲良く力をあわせて、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。