ep3-2.pm 05:27 メルミーツェside
■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 pm 05:27
――アヤカシ東地区 ???地下
探し人の特徴を伝えた途端、態度を豹変させた青年はまるで生き物を扱うように木を自身の周りに伸ばしこちらを威嚇する。
「答えろ……その人を探してどうするつもりだ?」
「お世話になっている人に頼まれました、それに探し人を害するつもりはありません。僕に探すように頼んだ人も『殺さないで』と言っていました」
「それは誰だ?」
誰って……言って分かるの?
でも曖昧な答えだと本当に襲いかかってきそうだ。
名前を教えて『知らん』とか理不尽なことは言われませんように……
「ゾラ家のミヤバさんって人です」
「ゾラ……だと……? お前! やはりあいつらの差し金か!!」
青年は束ねた枝をこちらに向かって勢い良く伸ばす。
槍のように鋭利な先端に貫かれれば僕も串刺しの仲間入り……そんなの絶対に嫌だ。
ショットガンで”槍”を撃つ、1発では足りず2発、3発と続けて撃ちようやく破壊できた。
M1887をモデルにしたと思われるこの銃の装填数は5発、つまりスキルの威力が乗る弾数は残りの1発、予備の銃弾はベルトに10発、このペースで攻撃されたら弾がもたない……
「ちょっと待ってよ!! 何で怒ってるのか全然わかんないよ!!」
「お前はゾラがあの人たちに何をしたか知っているのか……?」
「知らないよ! 僕は隣国から依頼があって来たから、この国で昔何があったかなんて知ってるはずないよ!」
あれ? 情緒がヤバいけど、話をする程度の理性はあるのか?
だったら話し合いで解決しようよ、認識の擦り合わせは社会人の基本だぞ!!
青年は相変わらず怒りの表情ではあるが話をする余地はあるようだ。
安堵した僕は少しだけ内心悪態を吐いてしまう。
「お前、古代種が忌避されているのは知っているか?」
「……うん、近づくなって周りには言われたよ」
「キメラは?」
「アルコヴァンでも差別されてる、ねぇ何の話してるの?」
聞き返してはみたが予想はつく、嫌な話だ……
「ボクは古代種でキメラだ」
だよね、霊樹精と猫か何かの魔獣とのハーフってことか……
でも僕にとってはどちらも忌避するものじゃないんだよな。
「古代種は初めて会ったけど、キメラの人は知り合にいるよ。
少なくとも僕にとってはどちらも差別される人たちだとは思えない」
至って本心だ。
それが伝わったのか青年の顔から怒りは引いていき、柔和な表情に変わっていく。
恐らく本来穏やかな人なんだろう、こっちの表情の方がしっくりくる。
「そうか、君はちょっと変わってるのかもしれないね、それなら尚更ゾラになんか加担しちゃダメだ」
「どういう事……?」
臨戦態勢を解いた僕は青年が持ってきてくれた椅子に座り、彼と向かい合った。
彼は自分の事、ヨウキョウで昔、霊樹精に何が起こったかを教えてくれた。
彼は名前はカルミア、ただこれは本名ではないそうだ。
産まれはヴェルタニアで、そこは魔人族以外の種族の扱いは酷く、特に古代種である霊樹精は奴隷以下の生活を強いられる。彼の母親は娯楽の見世物として魔獣に身体を犯され、そして産まれたのが彼だったと教えてくれた。
その後は母親が幼かった彼を命懸けでヴェルタニアから逃がし、運良く忌み森に辿りついたそうだ。
聞いているだけで胸くそ悪い話だ……
彼を助けて絶望の中にあった彼に寄り添った人物が僕が探していた人らしい。
名前をサーシスさんと言い、カルミアの名前をつけたのも彼女だそうだ。
「花が好きな人でね、カルミアの花言葉は”希望”なんだってさ。あの頃は皮肉に思ったけれど今は心から気に入っているよ」
もう一人の母親を想うような優しい顔でそう言ったカルミアは、サーシスさんからの伝聞なので想像も混ざることを前置きしてヨウキョウで起きたこと話し始めた。
「結論から話すとね、霊樹精を追い出したのはボクらを利用する為だよ、そしてサーシスはゾラの血筋なんだ」
ミヤバさんの態度や聞いていた特徴から可能性の一つとして考えてはいたけど、やっぱりそうだったんだ……でもどうして身内を追い出すようなことをしたんだろ?
理解できない内容に自然と首を傾げてしまった。
「不思議そうだね、霊樹精を追い出すように偉い人達が民衆を扇動したそうだよ、サーシスの父親もその一人だったんだってさ」
「……なんでそんな」
「サーシスの母親はゾラの妾だったんだよ、当時のヨウキョウは霊樹精との共存を目指していたみたいで、そのアピールのつもりだったんじゃないかな?」
最低だ……家族って、子供って、もっと慈しむものじゃないの?
「それで追い出された、つまりヨウキョウの国民じゃなくなった霊樹精は長い間、”材料”にされてきたんだよ……結界って知ってるかな? ここに来たってことは怨弩は知ってると思うけど、効果の弱い穢れを一時的に生み出す魔導具、それが結界なんだ」
待って、それって怨弩の矢の作り方と同じことしてるってこと……?
一気に血の気が引いていくのを感じる……
目を見開いて口も半開き、きっと今の僕はマヌケな顔をしているだろう。
「解った? 魔法に頼れないボクたちは元々強靭な鬼人族には勝てない。結界を使って結界の”材料”として狩られてきたんだ。幸い森は広いからボクたちは滅ばず、数も増えた、それでも定期的に何人も攫われ続けたんだ」
「じゃあどうして今になって反乱を……?」
「結界は魔法を弱くするだけ、だったらそれ以上の出力を得ればいいんだよ。
それを手に入れたことと、先日、怨弩が落ちたでしょ? あれはヴェルタニアに攫われた同胞が鏃になったそうだよ、詳しくは分からないんだけどね。
つまり、ボクたちは二つの大国から狩られる立場にあるんだ、だったら抗うしかないじゃないか」
あぁ……最悪だ、僕の感性だと道理は霊樹精にある。
でも手段には賛同できない、それに僕なら別の選択肢を提案できる。
「ねぇカルミア、皆で逃げない? どの国からも脅かされない場所に僕なら連れていける、双方たくさん人が死んだよ、このままだとそれはもっと増える」
「誰にも脅かされない地か……いいね、それ。でもごめんね、それは出来ない」
「なんでさ!? 恨む気持ちは解るよ、でも死んだらお終いなんだよ!?」
「そう、死ぬんだよ。
さっき言ったよね、結界を超える出力を得る方法を手に入れたって、そんなもの代償なしに使えるワケがないでしょ?」
「……大丈夫だよ、僕の知り合いに奇跡みたいな魔法が使える人がいるんだ、代償が何か知らないけどきっと治せるよ、だからさ……生きようよ」
「ダメだよ、それじゃあ死んだ同胞が浮かばれない。それにサーシスの想いも無碍にすることになる」
「僕もそれは認められない、辛い想いをしてきたんでしょ!? だったらその最後は戦って死ぬんじゃなくて、幸せに生きて穏やかな最後じゃないと報われないでしょ!?」
「そうだね、じゃあボクを止められたら君に賛同するよ、サーシを止める説得も協力する。……だからかかってきなよ、”白猫”ちゃん」
……あっそ、だったら絶対負けられないよ。
僕たちは立ち上がり再び臨戦態勢を取る。
こんなに頑固な人は前世でも今世でも初めてだよalmA。
僕は浮かぶ多面体を呼ぶために大きく息を吸う。
【カルミア イメージ】




