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ep2.初めての異文化交流

■後神暦 1323年 / 秋の月 / 天の日 pm 03:00



「***! ***!」


「待って、痛い痛い! 髪引っ張らないで!」


 どうしてこうなった?

 水色髪の妖精は僕が逃げないよう髪をグイグイ引っ張る。

 作り物みたいに綺麗な顔なのに想像できない力強さだ。

 それはそうと前髪は止めて……おでこ広がっちゃう……


 どこに連れてこうとしてるんだろう?

 表情的に敵意はなさそうだけど、言葉が通じないから不安でしかたないよ……


 そうだ”テラス”だ! プロフィールに表層感情を読み取るって書いてた!

 どうせ視えてるみたいだからステルスは無意味だ、”アクラブ”を外して”テラス”に変更。



 待機時間90秒……

 ――Ready



 えっと……感謝……打算……興味…………悪意や敵意はないみたいだね。

 ……ん? 打算?


 あからさまな悪意はないがどちらとも取れる感情は困惑する。

 それに彼女は止まってくれない……流されるまま森を抜け、少し背の高い草原に出た。



「わぁ……」


 思わず息を呑んだ、青々とした草原に一部だけ草ではなくキノコで円形に縁どられた花畑。

 開花の季節を無視した多種多様な花々が咲くそこは幻想的な光景だった。


 フェアリーサークルってやつ? 花の種類もすごい多いね、まさにファンタジー……

 ここに連れてきたかったのかな? お礼ってこと?



「***ー! *******」


 水色髪の妖精が声をかけると花畑から別の妖精がわらわらと集まってくる。

 ここに咲く花のように色とりどりの髪色と羽で飛び回る姿は素直に綺麗と言える。



「******」


 水色髪の妖精は「ここにいて」と言いたげなしぐさを繰り返す。



「ここにいろってこと?」


 言葉と一緒にしぐさもつけて返すと彼女の顔が明るい表情になる。


 肯定……感謝……打算……期待……

 当たってたみたいだね。だけど打算って本当に何なんだろう?

 ちょっと怖いんですけど……



「ティスタニア! ティスタニア!」


 妖精は自分を指さして、そう言った。



「ティスタニア?」


 この子名前かな?

 自己紹介してくれるのはちょっと嬉しいな。

 僕はどうしよう……前世の名前を名乗った方がいいのかな?

 ……いや違うね、たぶん。



「メルミーツェ……メルミーツェだよ、よろしくね」


 始めは面食らったし言葉の壁はあるけど、これはこれで良い出会いかな?



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――ティスタニアとの邂逅から三か月



■後神暦 1323年 / 冬の月 / 獣の日 am 11:40


 花畑の妖精族との関係も良好、当初の目的だった野菜の苗については順調とは言えないけど、こっちの森で食べられる植物もたくさん教えてもらったし、すっかり肉食から菜食生活になっちゃったね。


 そして何より……



「ミーツェ、ダフネおばーちゃんが呼んでるわよ~」


「うん、わかった。ティスも一緒にいく?」


 ここに来て何度も思うけど、言葉で意思疎通できるってやっぱりいいなぁ、人付き合いのリハビリになる。


 ティスタニアともお互い愛称で呼び合うくらいには仲良くなれたけど、最初は本当に大変だったな……

 僕もティスたちも必死に身振り手振りでさ、ふふ。

 まだわからない単語もあるけれど、日常会話なら問題なくできるようになった。


 学者や学生のプロフィールのキャラクターをセットしながら勉強したのが良かったのかも。

 ”パロ”、”スミントス”、”ビェルカ”、ありがとう。もちろんティスもありがとう。


 ティスには言葉以外にも色々と教えてもらった。


 まず、この世界には魔法が存在する。

 魔法は体内に溜めたマナと呼ばれる力を対価に発動するそうだ。

 マナは自然界に漂う空気みたいなものでどこにでもあるものらしい。


 ただし、取り込めるマナは種族ごとに違うらしく、妖精族は特別な花畑からしかマナを補給できないそうだ。


 取り込める量は個人差があり、補給なしでは長くても数日で枯渇するらしい。

 なので妖精族はフェアリーサークルからあまり遠くへ離れられないそうだ。


 妖精族は風と水魔法の他に幻を魅せたり、逆に看破する魔法が得意だそうだ。

 ティスにステルスを見破られたのも妖精族だったかららしい。


 その他は条件が揃えば”呪い”の類を解くこともできるとも言っていた。

 それと大変残念なことに、僕は魔法が使えいようだ……

 マナすら感じられなかったあの日、妙に優しかった妖精族の気遣いを僕は決して忘れない……



 これまでのことを思い返しながら暫く花畑を進み、目的地に着いた。



「ダフネおばーちゃん、連れてきたわよ~」


「来たな子猫」


「メルミーツェだよ、それにこれでも大人だよ」


 妖精族長老ダフネリア、絹の様に白い髪に凛とした顔立ち。

 数百年を生きているらしいけれど、その見た目はティスとそう変わらない。

 『おばーちゃん』と呼ばれているのには未だに違和感がある。


 ダフネリアは神妙な表情で言う。



「実はお前に頼みたいことがある、星喰いは知っているだろう?」


「知らないよ?」


 いや、本当に知らない、さも『常識ですよ』みたいな顔されても困る。


「…………」


「ダフネおばーちゃん、ミーツェは”内側”から来てこっちのこと知らないって言ったじゃない」


 妖精族は僕がいた無人島のある湖は世界の内側に繋がっていると信じていた。

 実際は島があるだけだと、教えたときに初めは信じてもらえず「嘘つき」呼ばわりされたのは忘れてないよティス。



「そうか、悪かった。では順を追って話すが……」


 ダフネリアの説明では、こちらでは太陽のことを日神星(にっしんせい)、月は夜神星(やしんせい)と言い、年に一度、日神星が徐々に暗くなっていく日があってその現象を星喰いと呼ぶらしい、恐らく皆既日食みたいなものだと思う。


 星喰いの日には世界の”何処か”で”何か”が起こるらしい。


 そして7年前のこと……

『4年後に救世主が現れる』、『救世主が現れてから3年間は困難な出来事が起こるかもしれない』。

 それらに備えよ、と神託があったそうだ。



「神託って?」


「神様の声が頭の中に聞こえてくるの、急に聞こえるからビックリするのよ!」


「ティスがその神託を聞いたの?」


「いいや、妖精族の皆が聞いておるよ。そして今年が神託で備えるよう言われた2年目なのだ」


「次の3年目に起こるかもしれない何かへの備えが頼みってこと?」


「そうだ、何もなければそれで良いが、我々が一番警戒しているのは魔獣の氾濫はんらん。スタンピードだ……」


 スタンピード……ゲームとかラノベで魔物がどばーっと出てくるあれ?

 ティスや妖精族の力になりたいとは思うけど魔獣の大群に勝てるのかな……



 ――ん?



「あれ? 救世主は? その人は助けてくれないの?」


「妖精族には現れていないな、恐らく別の種族なのだろう」



 何それ理不尽……どうしようalmA……

 僕は浮かぶ多面体を無意識に抱きしめた。



【ティスタニア イメージ】

挿絵(By みてみん)

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