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ep2-1.pm 03:49 レイカクside

■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 pm 03:49


 執政府に勤める者たちが多く住むこの区画は碁盤の目のように整然としている。

 普段は迷わなくて良いのだが、わえらの住む区画と違って主要な場所へ最短で行ける道がない。


 角を曲がる度に駆ける速度を落とすのは緊急時には致命的じゃ。

 それにミヤバも既に息があがっておるな……



「おいミヤバ、遅いぞ! 急がんといかんのは解っておるじゃろう!?」


「はぁ……はぁ……ごめんなさい、わかってございますが、足がついてこないのでございます……」


 うぅむ……あ奴がしおらしいと調子が狂うのう。

 気持ちは解るがの……仕方ない。



「ひゃ! ユウカクこれは!?」


「こうした方が早いじゃろ、急いでいるんじゃ我慢せい」


 本音を言えば愛しい我が子にしかしたくないんじゃが、事は一刻を争う。

 ミヤバを”お姫様抱っこ”をしたわえは天駆(てんく)で空を駆ける。

 ()()()()()()()で屋敷を跳び越え一直線に西を目指す。



「煩わせてしまってごめんなさい、マナまで使わせてしまって……」


「かかか、わえがこの程度で消耗するとでも思っておるのか? まったく、心外じゃ」


 嘘を吐いた、天駆で駆け続けるのは正直消耗する。

 先に何があるか分からない状況で悪手なのは分かっておる。

 しかし友を置いて先に行っては気になってその後の戦いに集中できん。


 西側の区画には(やしろ)も多い、上手く経由してマナを蓄えながら向かうべきじゃろうな。

 それと……今のうちにミヤバには話しておかなければならんじゃろう。



「のうミヤバ、お前さんの気持ちは解る。しかしもし()()()()が居たとして、そして退くことがなければ……わえは躊躇いなく斬るぞ」


「わかってございます……ただ、ほんの少しで構いません、言葉を交わす時間を作って頂けませんか?」


「無論じゃ、わえも斬らなくて済むなら斬りたくはない」


 これは全て本心じゃ、わえはヨウキョウに仇を成す者から国や民を護る刃。

 しかし、未来ある者や力なき者を斬るのは辛い、旧知の者を手にかけるのは尚更じゃ。


 それに恐らく、あの人らが退かなければミヤバは自身の手でケリをつけるじゃろう。

 こ奴の炎は特別じゃ、見た目は弱弱しいが恐ろしい熱を孕んでおる。

 小さく、放てる距離も短いうえに速度も遅い炎をどうやって当てるか……


 わえは幼いころに一度だけ見ている。



 ――抱き着いて燃やす。



 あの事に反発した一部の過激な霊樹精(エルフ)に襲われたわえをミヤバは自身も大火傷を負いながらも助けてくれた。

 あんなことは二度とさせたくはない、それにあの人らにその炎を向けるなんて悲し過ぎるじゃろう……それならば、せめてわえが斬ってやる、お前さんが恨むなら受け止めよう。


 碁盤の目になった区画を抜けた、これ以上は天駆は不要じゃな。

 西の区画に繋がる大きな通りへ降り、ミヤバを抱えたまま駆ける。

 遠目からでも広範囲が燃えているのが分かった、もたもたしている猶予なぞない。



 ――止まれ!!



 目的地まであと少し、それを妨げたのは二人の霊樹精(エルフ)

 奴らは長命故に肉体の加齢が極端に遅い。

 外見で判断は難しいが恐らくこ奴らは若い、纏う空気が高齢の霊樹精(エルフ)のそれとは違う。

 ならばわえ一人でも対処は容易じゃろう。



「わっぱの霊樹精(エルフ)がわえを止めるか? 見逃してやるからアヤカシ(この街)から()ね」


 ミヤバを降ろし、わっぱどもを睨みで牽制する。


 若者がいるということは霊樹精(エルフ)は衰退していない。

 未来ある者はここで退け、むざむざと命を散らすな。



「奪い続けたお前たちが今度は見逃す? ふざけるな!!」


 奪い続けるだと?

 何を言っておる、確かにヨウキョウは霊樹精(エルフ)を追い出した過去があるが、以降は不干渉を貫いておったわ。


 しかし、こ奴らにそれを言っても聞く気はないじゃろうな、仕方ない……



「……こい、わっぱども。お前さんらのそれは蛮勇であることを教えてやろう」


 刀を抜き、切っ先をわっぱどもに向ける。


 見たところ武器は短刀のみ、当然か……霊樹精(エルフ)は風に愛された種族、白兵戦など最終手段じゃろう。

 つまり懐に入られると成す術はない。


 間合いを詰めるわえに霊樹精(エルフ)は魔法を放つが問題ない。

 突風に鎌鼬、風を束ねた矢、何れもわえの天駆は貫けぬよ。


 角を立てた天駆で全ての風は軌道を変え、わえに当たることはない。

 やはり若い、直線的過ぎる、老獪な霊樹精(エルフ)だったらこうはいかなかったじゃろう。



「ナメるなぁぁぁ!!」



 ――!?


 凄まじい突風に天駆ごと押し返される。

 そんなに威力を上げれば、あっという間にマナが枯渇するぞ、ヤケクソか?


 しかし、予想とは逆に風は収まることなくわえを押し続ける。

 おかしい、森でもない此処で奴らがマナを補給しながら戦えるはずがないんじゃ。

 それにあ奴ら、血を吐きながら魔法を使っておるぞ……限界までマナを使ってもそんなことになるなんて見たことも聞いたこともない。



「……お前さんら、何かやっているな?」


「オレたちは生きて帰るつもりなんてハナっからねぇんだ!!」


 その眼、あぁそうか、死兵のつもりか……

 何をしたか知らんが、命を燃やして戦っているのは分かる。

 それに、そんなになって魔法を使うのは辛いじゃろう……


 天駆で跳び上がり、そのまま空を駆けた。

 奴らには突然、空を飛んだように見えたじゃろう、対応が追い付いていない。

 手前の霊樹精(エルフ)を頭上から袈裟斬りにしながら着地し、奥の者へ間合いを詰め今度は逆袈裟に斬り上げる。



「……楽にしてやる」


 こ奴らは死ぬ。

 しかし、苦しみながら逝くのは憐れじゃ。


 わえは二人の若者の首を刎ねた……


 戦を仕掛けるまでは理解する、敗けるつもりはないが何かそうする理由があるんじゃろう。

 しかし! 若者を死兵にするとはどういう事じゃ……!

 霊樹精(エルフ)の老いぼれどもは何を考えておる、未来を捨てたのか?



「征くぞ、ミヤバ……」


 戦火があがる西地区、行けば何かわかるじゃろう……



 鞘を握るわえの手には自然と力が入っていた。

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