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ep1.pm 03:00 行動開始

■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 pm 03:00


 魔物討伐からの帰路でアヤカシの異変に気付き急いで戻ってきた。

 距離的にレイカクちゃんの家であるオルカ家にはいけなかったが、母親のユウちゃんさんがゾラ家にいたのは幸運だ。



「それじゃあ、わえは征く。オルコ家に連なる者としての責務を果たす」


「……ユウカク、(わらわ)も連れていってください。それに判っているのでございましょう?」


 僕には二人の会話の一部が意図を汲み取れない。

 護国府に関係するユウちゃんさんが鎮圧に動くのは解る、

 しかし、ミヤバさんがそれに同行したがる理由が分からない。

 それに最後の二人の間でしか通じなさそうな会話。



「…………はぁ……わかった、じゃが一方しか行けぬぞ?」


「感謝します。もし居なかった場合は妾一人ででも、もう一方に行きます」


「あの……すみません、誰かを探しているんですか?」


 このまま聞いていても疑問の答えが出ないまま二人は行ってしまう。

 悠長にしている時間もない為、僕は直球に質問をすることにした。



「ごめんなさい、ここでは言えないのでございます」


「じゃあ、その人の特徴を教えてください。ミヤバさんたちが行けない方には僕が行って確認してきます」


 言えない理由は気になるけど重要じゃない。

 今、大切なのはオーリとヴィー(この子たち)にトラウマの再現を見せないこと。


 危険な街中をミヤバさんだけで”誰か”を探し回って、万が一最悪の出来事が起こってしまえばクレハくんにも消えない心の傷ができる。


 そうなればオーリとヴィーはきっと自分たちと重ねてしまう、それはダメだ。



「ミヤバ、わえはミーちゃんの話に乗った方がよいと思うぞ」


「……探し人は霊樹精(エルフ)と狐人族両方の見た目の特徴を持った女性です」


「ミーちゃんは魔人族を見たことはあるかの? 魔人族より耳が尖っていて、華奢な体つきが霊樹精(エルフ)の特徴じゃ。ミヤバの探し人は尖った耳と狐人族の耳、両方をもった女で歳のころはわえらと同じくらいじゃ」


 エルフ耳とキツネ耳の女性……それってハーフってことだよね……



「わかりました、僕はどこに行けばいいですか?」


「街の地図がございます」


「わえらはここに、ミーちゃんはここに向かって欲しいのじゃ」


 ユウちゃんさんが街の地図を広げ印をつけたのは街の中央から東側、彼女たちが向かう西側とは正反対の場所だ。

 ゾラ家が位置しているアヤカシの北側に戻ってくるときに火の手が上がっていたのは街の西側、これからユウちゃんさんたちが向かう先になる。



「印をつけた二点は急激に成長した木々に飲み込まれてるのでございます」


「ここは何かあるんですか?」


「技術関係の者たちが多い区画だからわえらも詳しくないが、一つだけ、今は動いていない怨弩(えんど)の矢を作っていた施設があったはずじゃ」


 怨弩(えんど)の……一気にきな臭くなったね……


「その様子だと矢のことについて知っているのでございますね、ですがヨウキョウは既に怨弩(えんど)を破棄しています。どうか信じて欲しいのでございます」


「……はい、信じます。お二人とも少しだけ出発は待って頂けませんか?」


 僕は一度、屋敷を出て人目につかないことろから拠点に戻り装備を持ち出した。

 そしてゾラ家で待っている二人にも荷車から持ってきたと嘘を吐き、いくつかの装備を渡した。



「これはなんじゃ?」


無線機(トランシーバー)です、遠くに離れていても連絡ができます。アルコヴァンでも実際に使ったのでアヤカシ(この街)でも使えるはずです。僕が行く方に探してる人が居たらこれで連絡をします」


「ふむ、便利じゃの。よし、では征くぞミヤバ」


「えぇ、それとミーちゃん、無理なお願いなのは承知でございますが、妾の探し人ともしも戦うことになっても……殺さないで欲しいのでございます……」


 元よりそのつもりだ、僕は人を殺すことを今でも忌避している。

 出来ることならそんなことしたくない。



「はい、そうなったら逃げてお二人を呼びます」


 ミヤバさんは少しだけ安心した表情になり、二人は屋敷を出て行った。


 さて、次は僕たちだけど……


「ティス、ゾラ家(ここ)で皆と待っていてくれない?」


「は? どうしてよ、あたしも行くわ」


「オーリとヴィーも聞いて欲しいんだけど、街が燃えてる光景はきっと辛いことを思い出しちゃうと思うんだ。それに、もしクレハくんたちが危なくなったら僕を呼んでくれないかな? ティスに()()渡しておくからさ」


「……隠しておかなくていいの?」


 ティスに渡したものはピンだ。

 本音を言えば、拠点の力だけは限られた人たちにしか知られたくないけれど、今はそんなことを言っている場合ではない。



「使わないならその方が良いけど、万が一の場合はそれでポータル出して無線機(トランシーバー)で僕を呼んで。何を置いてもすぐに戻るから」


「ミー姉ちゃん、すぐに戻るんだよね?」

「またいなくなったりしないよね?」


「もちろん! もう防衛戦(あのとき)みたいなことは絶対しないよ、約束するね!」


 不安を与えないように精一杯明るく答える、僕の行動指針は家族の幸せと自身の生存だ。

 霊樹精(エルフ)が争いを仕掛ける理由は分らない。

 仮に僕の予想通りだったとしても、うちの子たちの心身ともに健やかな成長の為に止めてやる、もちろん死ぬ気もない。



 いくよ、頼りにしてるからねalmA。

 僕は浮かぶ多面体に飛び乗った。

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