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閑話.続・教育に悪い大人は粛清した方が良いのだろうか?

時系列が少し戻ります。

ep10、魔物討伐へ出発した初日~翌日の道中を

少しだけ詳細にしたお話です。

――――――――――――――――――――


■後神暦 1325年 / 春の月 / 地の日 am 10:00


 ヨウキョウの地形は山が多い、街道は起伏が少なくなるよう山々を縫うように通っているそうだ。

 その為、怨弩(えんど)の汚染地域までは直線距離で2日程度の距離に落ちたが、街道を進むと1.5倍の時間がかかるらしい。


 それにヨウキョウの魔獣や魔蟲のほとんどは山や森から出てくることはないそうで、距離が延びるとしても街道を通る方が途中の戦闘がない分、返って目的地まで早くつけることが多いとも聞いた。



「変わった魔導具だな、西ではそのようなモノに荷を牽かせているのか?」


「いえ、これは……――」


 馬からかけられた声に応えようと振り向いて固まってしまった。

 声の主は御前試合でクレハくんたちを圧倒した女性だった。


 味方なので警戒すること自体失礼なのだが、強者が持つ存在感にたじろいでしまったのだ。

 その強さを実際に体感したレイカクちゃんも背筋が伸びている。



「ん? どうかしたのか?」


「あ、いえ、失礼しました、これは僕の故郷のモノですが一般的ではないですね」


「そうなのか。おや? その子らは御前試合のときの……そうか、君たちも選ばれたんだな。あれだけ強かったのだ、当然だな」


 そう言って涼やかに微笑む兎人族の女性は、御前試合の気迫溢れる姿とは別人のようだった。

 ともすれば母性すら感じるほどだ。


 それから彼女と暫く話ながら道中を進んだ。

 名前をハクトさんといい、今回は連れてきていないが、ワケあって孤児になった子供を保護し、二人旅をしているそうだ。


 今回の討伐への参加も路銀稼ぎの面が強いらしい。



「ほぁ~~!!」

「たかーい!!」


 クレハくんたちだけではなく、オーリとヴィーもすっかり懐いて馬に相乗りさせてもらっている。

 ハクトさんの前後に乗っている様は現代のママチャリに乗る子供のようだ。



「次はオリヴァが前になるか? オリヴィ、代わってあげてくれないか?」


「「はーい!!」」


 なんだろう……面倒を見て頂いてとてもありがいたいのだが……その姿、そして母性、子供たちの懐き具合、なんだかミー姉ちゃん嫉妬しちゃいます。



「どうした? ミーツェ、お前も乗るか?」


「いえ、大丈夫っス……」


 普通なら、凛々しい美人との相乗りなんて喜んで受けるべきなんだろうけど素直になれない、大人なつもりでも僕もまだ子供なんだなと思い知らされたよ……


 ため息をつき、武器の確認をしているうちに初日の移動も終わり、野営の準備に取り掛かった。



――野営地


「ミー姉様、これは天幕ですか? 変った手触りの布ですね」


「うん、ナイロンって言ってね、軽くて見た目以上に丈夫なんだよ」


 皆にせがまれてハクトさんと食事をした後、就寝の為にテントの張り始める。

 骨組みの少ない小さめのテントだが、僕を含めて子供五人と妖精一人が寝るには十分な大きさだ。



「すごいねミー姐! アルコヴァンにはこんな天幕があるんだね!」


「今回の討伐が終わったらレイカクちゃんにあげるよ、だから今日はもう寝ようね」


 始めてみるタイプのテントにクレハくんとレイカクちゃんは興奮気味だが、そろそろ休まないと翌日に影響する。

 子供たちを中に入るように促して、魔導具のランプを消した。


 …

 ……

 ………


――深夜


(ミーツェ、ミーツェ……)

(うん、起きてるよ、外に誰かいるね……)


 眠り始めて数時間、ザリザリと地面を擦る音に僕とティスは目が覚めた。

 外にはalmAが待機しているが、明確な敵意を以て襲われない限り攻撃はしない。

 つまり先制攻撃するなら、それは僕の役目だ。


 気配からして魔獣の類じゃない、人だ……

 ショットガンのチューブマガジンを切り替えてゴム弾の銃弾(ショットシェル)をバレルに装填する。


 あって欲しくなかったけど、対人用に2本のチューブを切り替えて弾を変えられる銃を持ってきて良かった……それにしても誰だ?


 テントの入口をめくり、屈んで中を除き込んできたのは鬼人族の男性。

 しかも見覚えがある、御前試合にいた紫電一刀流(しでんいっとうりゅう)の男だ。

 銃を構える僕と目が合い、『あっ……』と言いたげな表情で固まっている。


 いや、『あっ……』じゃねぇんだわ、うちの子たちに何しようとしたんだ?

 喰らえ、粛清ゴム弾レクイエム。



 ――!!!!



 至近距離の発砲に子供たちも飛び起きた。

 男はゴム弾が下腹部にあたり、声も出せないまま仰向けに倒れている。

 僕は立ち上がり、男に銃口を向けたが既に気絶しているようだ。



「今の音はなんだ!? 何があった!?」


 駆けつけてくれたのはハクトさん。

 銃を知らない彼女も僕が男に武器を向けていることは理解してくれたようで、事情を聞く為に男を蹴り起こす。



「で、お前はどうしてこの子たちの天幕の近くにいるんだ……?」


 ハクトさんは刀に手をかけ、目を覚ました男に詰問するような口調で問いかける。


「あ、いえ、子供の寝顔は愛らしいので少し見たくてですね……」


 男は歯切れ悪くごにょごにょと口籠る、解った、こいつ小児性愛者だ……


「ほう……」


「触ったら殺傷」


 親指で首を掻っ切るジェスチャーをする僕と、今にも刀を抜きそうなハクトさんを前に相手は命乞いに近い平謝りの後、内股で逃げて行った。



「済まなかった、昼間にあ奴が邪な目でお前を見ていたので注意はしていたのだが、事が起きる前に止められず辛い思いをさせたな。だが無事で良かった」


 そう言って頭を撫でてくれたハクトさんの顔は母親のそれだった。

 悔しいが母性については完敗だ、僕も(ほだ)されてしまいそうだ。



 ん……?いや、ちょっと待って、狙われたのは僕だったの……?


 負ける気はしないけれど、あの男に迫られると思うとゾッとする。

 もっと徹底的に撃っておけば良かったと少しだけ後悔した。


 翌日、変態野郎は部隊から降ろされ独りでアヤカシへ戻るよう言い渡された。



 やっぱり、悪い大人は粛清するべきだよねalmA。

 僕は荷車を牽く浮かぶ多面体に自らの決意を内心で述べた。

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