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ep9.御前試合

■後神暦 1325年 / 春の月 / 黄昏の日 am 10:10


――御前試合当日


 アヤカシ中心部に建つ寝殿造り(しんでんづくり)の立派な建物、かつての御所だったここで御前試合は行われる。庭には玉砂利(たまじゃり)が綺麗に敷かれ、まさに平安雅(へいあんみやび)といった雰囲気だ。


 限られた者しか入ることが許されないようだが、今回はゾラ・オルコ両家の付き添いで入ることを許された。


 ティスたちは残念ながらお留守番だ。


 主殿には御帳台(みちょうだい)があり、各府のお偉い様がいるみたいだが、(とばり)で姿は見えない。僕たちが座る対屋(たいのや)には御前試合の結果を外へ伝える記者のような人もいるらしい。


 元御所の周りでは祭りが開かれ、声援なんかも聴こえてくる。

 来る途中に屋台も見えたのでお留守番の子たちの為にお土産を買って帰ろう。


 試合はトーナメント形式で子供のペアはクレハくんたちの他に一組。

 大半はいかにも武人といった佇まいの人たちだが、中には「記念に出ました」と言わんばかりの所謂”エンジョイ勢”みたいな人も交じっている。


 祭り好きは結構だけど怒られないのかな?


 参加人数の割に試合はハイペースで進んでいき、次はクレハくんたちの試合だ。

 ミヤバさんは祈るように手を合わせている、許可はしたけど心配なのは当然か。

 御前試合で使う武器は刃物であれば刃を落とし、打撃武器だとしても棘などはなく丸みを持たせ殺傷力を削いである。


 それでもまともに当たれば骨は折れるだろうし、絶対に安全なんてことはない。

 だから僕も各種ヒーラーを編成して治療の為の道具も持参した。



「なんじゃ情けない、わえのレイカクがいるんじゃ、怪我などするわけなかろうに」


 流石にユウちゃんさんは堂々としている、ここは就いているお勤めの差なのかな。



「わかってございます、クレハもたった3日で見違えるほど頼もしくなりましたし……それでも心配なのは母心でございます、貴女にはわからないでしょうけれど」


 ミヤバさんは不安な中でもしっかり嫌味を返すのは忘れない。

『なんじゃあ?』とユウちゃんさんが反応しかけたところで試合が終わり、遂にあの子たちの番だ。



 ――始めっ!!


 相手は武人と言うよりは公家(くげ)と言った方がしっくりくる狐人族。

 薙刀を流れるような独特な動きで操っている。


 対するクレハくんたちは、胸元までありそうな長尺の金棒を持ったレイカクちゃんが前衛に立ち、クレハくんが後衛でサポートをするような布陣だ。


 飛び出したレイカクちゃんが大人顔負けの動きと手数で相手に反撃の隙を許さない。



「かかか、そら見ろ、大丈夫じゃと言うたじゃろ? それに元御所(ここ)は結界の力が及んでおる、相手の魔法だって弱まるだろうの」


「結界なんてあるんですね」


「ん? お前さんは感じんのか? マナが上手く循環できない感覚はないか?」


 あーなるほど、僕はマナをそもそも知覚できないから分からないのか。


「どうも僕、鈍いみたいで……結界ってどんなモノなんですか?」


「結界は機密事項だからの、わえらも詳しくは知らんのじゃ。作り方や維持を担ってる者は国でも限られた者のみ、()()()()()()()()と言うやつじゃな!」


 きっと最近覚えたであろう言葉が使えてご満悦の様子のユウちゃんさんはフスと鼻を鳴らす。


「しかし、怨弩(えんど)の穢れの中にいるようで、(わらわ)はあまり好きではございませんね」


「さもありなん」


 僕たちが話している間に、クレハくんが相手の薙刀を払い、がら空きになった胴体にレイカクちゃんが金棒を叩き込む。危なげなく一回戦を突破したようだ。


 僕はユウちゃんさんに協力してもらい、クレハくんに棒術、それも防御のみに絞って教えていた。

 御前試合まで時間がないことも理由だけど、それ以前に武器で攻撃する必要がないからだ。



 その後も試合は次々と行われ、あっと言う間に二回戦目が巡ってきた。

 次の相手は見るからに剣客と言った風貌の鬼人族の男、刀を正眼(せいがん)に構え、じりじりと距離を詰めている。


 じっくりと距離を見定めようとしている相手の思惑など関係ないと言わんばかりに、一回戦と同じくレイカクちゃんが猛然と前に出た、持ち前の怪力からの乱打だ。



「レイカク、天駆を使わんのは何故じゃ? あの手の相手は翻弄してやれば良いものを……」


「天駆なら使ってるみたいですよ、ほら」


 レイカクちゃんのすぐ背後の空間が一部分だけ真っ白になっている。

 それはとても小さい範囲なので、この距離では注視しない限り気づかないだろう。


 相手が繰り出した妙に見覚えがある突きを真横に跳んで避けたところで()()が発動した。



 ――!!!!!!!!!


 爆音と共に対戦相手は勢いよく吹き飛ぶ。


 今回、クレハくんには密閉した小さな容器を渡してある、中身は水だ。

 それを天駆の壁を『コ』の字にしたものを2つ組み合わせて立方体を作り、その中で加熱させていた。


 後はレイカクちゃんの任意のタイミングで立方体の一面を開けることで、バカみたいに圧縮された蒸気が噴き出す。つまりクレイモア地雷のように指向性を持たせ、相手に爆風を浴びせられる。


 息子の成長を喜ぶミヤバさんによって”虚火(うつろび)”と名付けられたクレハくんの魔法の応用だ。


 結界の影響で加熱に時間がかかったみたいだけど、蒸気爆発自体は魔法ではなく物理。

 まともに喰らった相手が心配になる威力だった。


 命に別状はないが、試合相手の鬼人族の男は一撃でノックダウン。

 クレハくんたちは三回戦に進んだ。


 後で知ったが、二回戦の相手の男は”紫電一刀流(しでんいっとうりゅう)”の使い手だったとか……通りで見覚えがある突きだと思った。



 順調に勝ち進んだ二人だったが三回戦目、今までの試合相手とは明らかに別格の兎人族の女剣士に敗けてしまった。


 レイカクちゃんの乱打も難なく捌き、一度見せているとは言え、タイミングの掴み難い二人の切り札である天駆の虚火も見切られた。

 それに、クレハくんならともかく、肉体的にタフなレイカクちゃんですら、峰打ち(みねうち)一発で意識を断ち切られていた、格が違い過ぎる。


 兎人族って肉体強度が高い種族ではないと聞いていたけど、どの種族にもバケモノはいるんだね。



 僕たちのいる対屋(かんせんせき)に戻ってきた二人は悔しさから涙を流している。

 聡明で実年齢より大人びた印象を受けるクレハくんも、

 大柄で大人のような頼もしさを見せるレイカクちゃんも、

 母親に慰められる様はどこにでもいる子供そのものだ。


「立派でございましたよクレハ、母は誇りに思います」

「よしよし、レイカクや、今日はとと様が帰ってきたらご馳走じゃな~」


 自分も過去に経験したこともある光景は、種族どころか世界が違っても母子(おやこ)の在り方が一緒であることを教えてくれる。


 まだ御前試合は終わっていなかったが、気分を変える為と退席し、元御所周りでやっている屋台を巡った。

 始めは泣き顔だった二人も次第に笑顔になっていき、縁日ではしゃぐ子供のように、お小遣いをもらっては屋台を楽しんでいた、ここも世界共通だ。


 かく言う僕も両手いっぱいにお土産を買ってしまった。

 ただ、屋台定番のお面屋でブチ切れた顔の翁面が並んでいたが、流石にお土産にする気にはなれなかった……記念で一つ買ったけど、これに需要はあるのかと異世界の不思議がまた増えた。



 魔除けだったとしても、あんなお面じゃ子供が泣くよねalmA。

 僕は持ちきれないお土産を浮かぶ多面体に乗せた。

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