ep6.鬼っ子
■後神暦 1325年 / 春の月 / 天の日 pm 02:00
――オルコ家 門前
クレハくんの火魔法に足る力についてはまだ解決策は浮かばないけれど、まずは御前試合へエントリーをしなくては始まらない。
僕たちはゾラ家の屋敷から都市の中心部を挟んで対角側……
日本で言えば自衛隊にあたる組織、護国府に勤める者が多く住む地区の一角で、ひときわ威圧感を放つ屋敷の前にきている。
ここはオルコ家の屋敷。
護国府に勤め、ミヤバさんが”野蛮な女”と評したのはオルコ家の奥方その人だ。
御前試合に出るには護国府に申し出が必要だ。
ついでにクレハくんの幼馴染にペアを組むお誘いができて一石二鳥なこともあり、ゾラ家と我が家の家族全員で赴いたワケだけど……ミヤバさんは何とも気乗りしないご様子……
「はぁ……いつ見ても雅さの欠片もございませんね」
確かに壁を見てもゾラ家とは対極の質実剛健と言った感じ。
ぶつぶつと文句を言いつつ屋敷の敷地内に入っていくミヤバさんに続くが、門番を顔パスで通れることが少しだけ引っかかる。
ゾラ家と同じくらい広い屋敷を進み、木製の引き戸の前でミヤバさんが立ち止まる。
「ユウカク、入りますよ」
「うむ」と高い声音の返事の後、中へ入る。
部屋は全面板張りの道場のような造り。
奥には平均的な成人女性より少し大柄で額に角が2本、薄桃色の髪の女性と、その女性をそのまま幼くした僕と同じくらいの体格の女の子が座っていた。
「大人数ですみませんね、こちらは妾の親戚のところから来た客人とそのご家族でございます」
「初めまして、ブラン=メルミーツェと申します」
失礼のないように最敬礼でお辞儀をする。
クリっとした目で顔の系統で言えば可愛い系だけど、如何せん体格の良さが威圧感を放っている。
失礼があって怒れるのは嫌だ。
「ふっ……ふふふ……はははっ、やっぱりそうでございますよね~」
「え?」
「わえがユウカクじゃ! そっちは娘のレイカク!!」
嘘でしょう……こっちの小さい方が奥方?
「たいっっっへん申し訳ございませんでしたー!!」
僕は流れるように土下座をキメて見せた。
それはパイロンさんの土下座に引けをとらないほど見事だと自負できる。
「仕方のないことでございましょう、ぷ……こんなお豆のような女が母親と思えないのは無理もないことでございます……ふふ……レイカク、母を替えたくなったら、いつでもうちにいらっしゃい」
「うるさいのぅ! 着飾ってばかりで着膨れした女狐に言わとうないわ。
どうじゃクレハ、お前さんもこんな女嫌じゃろう? うちの子になっても良いんじゃぞ」
「いえ、我が家は円満な家庭でございますよ、こと最近は特に、ねぇクレハ」
「うちは元から円満なんじゃがー? のうレイカク」
あ、分かった、この人たち仲良いな。
よく見たら、座布団だってお客様用の良い物っぽい。
門番の顔パスもきっと頻繁に来てるからだ、それなら初めから言ってよ……
大人のじゃれ合いに飽きたのか、大柄の女性、改めレイカクちゃんは立ち上がりずんずんとクレハくんに近づいていく。
「かか様たちで話すんでしょ? あーしはもう行っていいっしょ? クレハいこ!」
クレハくんの手を引き部屋を出ていく様は、同年代の子供同士だが、
体格差があり過ぎて鬼ショタ……いや、”オネショタ”としか言いようがない。
ただ、その光景は純粋な意味で微笑ましいものに見えた。
前世の親戚の姉ちゃん、オネショタが理解できないって言ってごめん。
ディープなところは未だ理解が及ばないけれど、メルミーツェになって良さが少し解った気がするよ。
「オーリとヴィーも一緒に遊んでくる?」
首を振る双子は僕の両サイドにぴったりとくっついて離れない。
知らない家では一時的に大人しくなる子供あるあるかな?
「さて、それで今回はどうしたんじゃ? まさか客人まで連れて遊びにきただけではあるまい?」
「えぇ、此度は御前試合にクレハが出たがっておりまして、それを貴女にお願いしに来たのでございます」
「は!? ちょっと待て、お前さん良いのか? だってクレハはあれじゃろ?」
クレハくんの魔法のことを知っているのであろうユウカク様は心底驚いたようで、ミヤバさんへ身を乗り出し、丸い目を更に丸くさせている。
「そこはこのミーちゃんと約束をしてございます、きっとクレハを開花させてくれると妾は期待してございます」
「ほう……お前さんがそこまで言うか、猫の娘さん、メルミーツェと言ったの、何者なんじゃ?」
「ふふ、情報に疎いとは嫌でございますね~、ミーちゃんはアルコヴァンで錆鉄の……――」
「待ってー! 待ってください!! 僕はアルコヴァンでブラン商会と言います小さな商会で商いをしている者です!!」
何言おうとしてくれてるんですか、勘弁してください。
これ以上、厨二名が広まるのは絶対に嫌だ!!
「最近ちょっと、ミヤバさんのご家庭の事情をうちの商品でお手伝いできたので、それでご信頼頂けたのかと」
「ほう、家庭の事情をか……の、のうメルミーツェ、わえの家の困りごとも解決できるものか?」
「……内容によるかとは思いますが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、わえの娘、レイカクじゃが、見た通り可愛いじゃろ? つい数年前までは何処に行くにも『かか様、かか様~』とついてきてくれたのじゃが……最近の、一緒に寝るのを嫌がるのじゃ……
部屋に行ってもの、勝手に入るなと怒るのじゃ……」
萎れた花のように首を落とすユウカク様と対照的にミヤバさんはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
ダメですよ、高貴な人がそんな顔したら……
それはそれとして、レイカクちゃんはどう考えてアレだよね……
「ちょっと早い思春期ですね、時間が経つまで諦めましょう。
後、少し過干渉にも感じますのでベタベタするのは控えましょう」
「そんな無体な! のうミーちゃん! なんとかして欲しいのじゃ~!!」
いや、そんな泣きつかれても……って、痛い痛い痛い! 力強い!!
子供のようにしがみつくユウカク様の力は異常としか言いようがなく、まるで胴体を万力で締めあげられてるようだ。オーリとヴィーも引き剝がそうとしてくれているがビクともしない、このままでは両腕の骨をもっていかれる……
「な!? ミーちゃんは妾が呼んでいる愛称でございますよ!?」
違う、今話すべきはそれじゃない……助けて……
「わ、わかりました……クレハくんの習練を僕と一緒にやって、かか間接的に母の威厳を娘さんにみみみ見せるのは如何でしょう……?」
「そうか! そうじゃの! やるのうミーちゃん、今後わえのことも気軽にユウちゃんと呼ぶがいい!」
万力から解放され正常に戻った血流が一気に頭から引いていき眩暈がする。
嘘でしょう? ムルクスさんより力強いよ、何マッチョって呼べばいいのさ……
「だからミーちゃんは妾が……――」
「かか様! あーし、クレハと御前試合出ることにしたー!!」
ミヤバさんの再度の主張は戻ってきたレイカクちゃんの大声に搔き消された。
だけどそれでいい、その話はきっと不毛だ。
現状、僕のタスクって……
1.怨弩の被害の真偽を確かめる
2.クレハくんの魔法の特訓
3.オルカ家の家庭事情の解消←new
クレハくんは上手くレイカクちゃんを誘えたみたいで良かったけど、
2と3のタスクはどうすればいいんだろう……?
僕も泣きつきたいよalmA……
そんなことをしても何も変わらないと浮ぶ多面体は僕に言っている気がした。
【ユウカク イメージ】




