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ep4.オペレーション・アマノイワト

■後神暦 1325年 / 春の月 / 地の日 pm 10:00


――拠点 製造所


 ゴウンゴウンと音を鳴らし、金属版が左右に動き、時折火花を散らす。


 いつも思うけど、製造所って本当に凄いよね。

 元素を無理やり組み合わせて、原子から分子を作り出していくらしいけど、傍目(はため)からは大きな3Dプリンターが動いてるようにしか見えなんだよね。


 うーん、超技術。


「ミー姉ちゃん何作ってるの?」

「新しい(じゅー)?」


「あらら、まだ起きてたの? 一応銃も作ってるけど、これは玩具(おもちゃ)だよ」


「玩具なんてどうするの? またお店でもやるのかしら?」


「ううん、ミヤバ様の息子さんを部屋から出すのに使うよ」


 ミヤバ様や使用人さんたちに話を聞いたけど、息子さんはかなり優秀。

 ヨウキョウの教育機関で学べることのほとんどを既に終えている上に、自身で”何か”の研究のようなことまでしているらしい。



「わかったわ! 一緒に遊ぶのに使うのね!」


「半分正解、初めにこれを使うのは僕たちだね」


「え? なんで?」


「だってさ、僕たちって言ってしまえば知らない人なワケでしょ? 人によるかも知れないけど、いきなり部屋に来て『遊ぼうよ』って言われても警戒しない?」


「まぁ、そうね……でもどうして、あたしたちが玩具で遊ぶの?」


「近くで誰かが楽しそうに遊んでたら気にならない? 僕の前世で洞窟に引き籠っちゃった神様を引っ張り出すのに洞窟の前で宴会をしてさ、それで気になった神様が覗きに出てきたって神話があるんだよ」


「でもちょっと見たら戻っちゃわないかしら?」


「そうだね、神話でも最後は強引に引っ張り出したみたい。流石にそれはできないけど、”僕に秘策あり”、だよ。

名付けて天岩戸作戦オペレーション・アマノイワト!」


「「ふぁ~」」


 おっと……双子は僕とティスの会話に飽きてしまったのか、もう眠そうだ。

 明日は天岩戸作戦オペレーション・アマノイワトの決行日、僕たちも休もう。


 僕はふらふらと歩く双子をつれてポータルから宿の部屋へ戻った。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 am 11:00


――ゾラ屋敷 子息の部屋前


「さて、良い子のみんな! 用意は良いですか~!?」


「「はーい!!」」


「その話し方どうしたのよ……?」


「これ系のことはノリが大切なの、ティスも協力してよ」


 用意したのは四つ。

 ベーゴマ、プラスチック製の竹とんぼ、水鉄砲、そしてクロキノールと言われる”おはじき”を進化させたようなボードゲームだ。


 目的は皆で楽しく遊ぶ、だけど僕のモットーは『本気で遊ぶ』、子供だろうと妖精だろうと手加減をするつもりはない、全員覚悟するといいよ。


 …

 ……

 ………


「……何故だ」


 おかしい、用意した玩具で実際に遊んだことはないけど、ルールを知っている分、僕に一日(いちじつ)(ちょう)があると言って良いはずだ。

 なのにベーゴマではオーリに勝てない、クロキノールもティスに勝てない、常に3位をキープとはどうなってるんだ。


 ま、まぁ、僕は大人ですし、子供たちに花を持たせるのは大事なことだよね!



「……ミー姉ちゃん、あれ」


 打合せ通りだ。

 周辺視野が広いヴィーが袖を引き、()が部屋から出てきたのを教えてくれる。

 食いついたね、大袈裟にリアクションした甲斐があったよ。


 僕たちの中では一番身体の大きい僕が部屋に背を向けている。

 何をしているか覗きたかったら部屋から出てくるしかない、それに……



 ――ピシャン



 魔法で姿を隠したオーリが(ふすま)を閉めて退路を断つ。

 作戦完了ミッション・コンプリート……異世界の天岩戸(あまのいわと)、ここに成ったね。

 敬礼でもしたい気分だよ。


 ドヤ顔のオーリを撫でつつ彼に向き直る、まずは自己紹介からだ。



「こんにちは、僕はメルミーツェっていうんだ、お母さんのお友達だよ」


「母様の……? あ、初めまして、や、(やつがれ)はクレハと申します」


 (やつがれ)とは随分と古風な……歳はオーリとヴィー(この子たち)より、少し年上かな?

 おどおどしているけど、見た目はミヤバ様にそっくり、つまり美少年だね。



「良かったらクレハくんも一緒に遊ばないかな?」


 少し強引ではあったけど、同年代のオーリとヴィー(あの子たち)のお陰か思っていたほど警戒はされず、クレハくんはこちらの提案に頷いてくれた。

 そこからは、ベーゴマ、クロキノールをもう一巡して、今は子供たちだけで屋敷の庭で竹とんぼ、水鉄砲で遊んでいる。


 もちろん、使用人さんも付いてきたが、外で遊ぶクレハくんを見て感極まっているようだ、いや、正確には年相応にはしゃぐ姿にだろうか……


 ミヤバ様、クレハくん、使用人さんたちの話を総合すると、引き籠りの答えは割と単純だった。

 コミュニケーション不足、これだ。


 クレハくんはゾラ家が執政府に勤める家系であることを理解して、必要な知識を必死に学んでいるけど、本当は植物に関する仕事に興味がある。

 義務と興味の板挟みで、かと言って一番身近であるはずの肉親に相談できず、結果として殻に閉じ籠ってしまった。


 ミヤバ様もクレハくんが”何か”に興味があることは知っていたし、息子に政治の道を強制するつもりはないと言っていた。国の益になれば興味のあることを応援したいと思っている。ただ、それを言葉にしていない。


 日本でも共働きの家庭で起きがちな、ちょっとした想いのすれ違いだ。



「ティス、ちょっとここ任せて良い?」


「いいけど、どこ行くの?」


「製造所、そんなに時間かからないと思うから」


 屋敷の広さも、問題を拗らせた原因だろうね……


 自ら尋ねにいかないと、まともに顔を合わせることもない。食事だって使用人さんたちが自室まで持ってきてくれる。だったら、無理やりにでも一緒にいる時間を作ればいい。



――ゾラ屋敷 ミヤバ私室


「猫姫殿、これは何でございましょう?」


「食卓ですね」


 僕が用意したのは、足の短いアルミ製の折り畳みテーブルだ。


 この屋敷に文机(ふづくえ)はあったが食卓の類は見当たらなかった。

 初日に来た時も、お茶菓子は足付折敷(あしつきおしき)で出されたので、恐らく食事も同じだと思う。



「今日からクレハ様と一緒にご飯を食べられては如何でしょうか?」


「はて? 腰元(こしもと)からクレハが部屋から出てくれたと聞いてございますが、それとどう関係するのでございましょうか?」


「クレハ様とお話して、とても聡明な方だと感じました。

ただ、それ故にゾラ家のお勤めを気にされ過ぎているみたいですよ。

ミヤバ様が仰っていた、興味のあることを応援してあげたい、それをクレハ様へ言葉にしてあげる必要があると思います。

もし食事中の会話が不作法でしたら、食べ終わった後の少しの間だけでも、お話をする時間を作ってあげられませんか?」


「左様でございましたか……ご助言、深謝致します」


 独りぼっちのご飯って寂しいものだよね。

 ほんの少しで良いからこの親子のすれ違いが解消されれば良いな。

 さて、僕も庭に戻ろうか。


 …

 ……

 ………


「ミー姉様! おかえりなさい!」


「「―!!!!」」


「あー……これはミーツェの問題よ、自分で何とかしなさい」


 クレハくんに懐かれたのは良いけど……

 オーリとヴィーが独占欲からくる嫉妬と、友達にその感情を抱く後ろめたさで変な表情(かお)になってるよ……


 うちはうちでコミュニケーションが必要だね、almA。

 僕は恐らく最年長の浮かぶ多面体に助けを求める。


【クレハ イメージ】

挿絵(By みてみん)

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