ep2.アヤカシへ2
■後神暦 1325年 / 春の月 / 星の日 am 10:00
――リム=パステル近郊 街道
賑やかな街から離れ、広大な草原に一直線に伸びる街道をalmAが牽く荷車でゴトゴトと進む。
「こうして皆で荷車に乗るのって久しぶりね」
「だねぇ、マッチョ集団に囲まれてないし、実はちょっと旅行気分なんだ」
「でも準備に2日って大丈夫だったの? 隣の国なんだから遠いんじゃないの?」
「うん、だから里帰りついでにショートカットしよう」
僕がこの世界で目覚めて使えるようになった能力は大枠で2つ。
”編成の力”、”拠点の力”、どちらもゲームに登場する技能やソシャゲ特有の育成や生産をこの世界で再現する力。
その内、”拠点の力”については亜空間のようなところに拠点があり、そこに出入りすることが出来る力と僕は解釈している。
拠点への出入り口は僕自身がいる地点に一時的に出現させる他は、任意で合計35か所までピンを刺した場所に恒久
的に扉を出すことができる。
その一つがツーク村のオーリとヴィーの家に設置したものだ。
ただ、双子の家の扉のサイズでは荷車を通すことができないし、僕が一時的に出した扉からの出入りは最後に扉を出した場所でしか行き来ができない。
だからちょっとした裏技を使おう……
1.僕が出す扉から拠点に入る。
2.ツーク村の子供たちの家に設置した扉から出る。
3.村の外でもう一度、僕が出す扉から拠点に入る。
これで最後に扉を出した場所の上書きができる。
「あーなるほど、防衛戦に街へ戻った方法と同じことするのね」
「そうそう、荷車は拠点に置いてさ、里帰りも兼ねてツーク村にいこうよ」
「「パパとママともお話する!」」
「そうだね、お墓参りもしようねー」
~ ~ ~ ~ ~ ~
――ツーク村 双子の部屋
街道で人の目がないことを確認し、ツーク村に繋がるポータルへ移動した。
以前、花畑からリム=パステルへ戻るときは急いでいたこともあって、それほど気にならなかったが、部屋は空気は籠り、独特の湿った臭いがした。
「うわっ……やっぱり埃被ってるね」
「そうね、あたしたちは先に掃除してるから村長のことろ行って来たら?」
「そうするよ、戻ったら手伝うから待っててね」
「「いってらっしゃーい!」」
いってらっしゃい。か。
何だか双子の父親を見送るときみたいに言ってくれたよね。
少しはあの子たちの『親』に近づけたかな? そうだったら嬉しいな。
ちょっとだけ温かい気持ちになった僕はalmAに跨り村長宅へ急いだ。
――ツーク村 村長宅
久しぶりにも拘らず、ブラスカさんは温かく迎えてくれた。
「おぉ、戻ってきてたのか? アドリアから聞いたぞ、星喰いの日は大変だったようだな。俺たちも力になってやれなくてすまなかった」
「いえ、あんなことになるなんて予想できませんよ」
「それで、今回はどうしたんだ? 里帰りか?」
「実は色々あってヨウキョウに行くことになったんです。ヨウキョウへ向かう途中にツーク村に寄れるみたいだったのでお墓参りも兼ねて里帰りしてきました」
「そうか……お節介かもしれんが、ヨウキョウに行くなら森から遠い道を選んで行け、その方が厄介ごとに巻き込まれる可能性が減るからな」
「どういうことですか?」
「ヨウキョウ近くの森林地帯は霊樹精が潜んでいると言われていて、この国とも、ヨウキョウともどちらの領土ではない、不可侵領域なんだ」
おぉ! エルフ!!
定番だけど今まで出会うことのなかった種族だね!
「エルフが守る神聖な森だから近寄っちゃいけないってことなんですね」
「神聖? 何を言ってる、古代種は忌むべき存在だ」
古代種……前にモーヴ一族のバリスさんから聞いたキメラと同じ三大忌避だ。
霊樹精がそれだったのか、村長があんな顔するなんて僕の知ってるエルフと違ってもっと禍々しいものなのかな?
「わかりました、森は避けて迂回しながらヨウキョウを目指します」
疑問は残るし、興味がないと言ったら嘘になるけど、危うい存在には近づかないのが一番だ。
とりあえず、村に戻った報告も出来たから家に戻ろう。
――双子の家
「「おかえりなさーい!!」」
「ただいまーって、もうこんなに綺麗になってるなんてすごいね!」
「戦うほどの力はなくても風魔法ならこれくらいのことはできるのよ」
ふふんと鼻を鳴らすティス。
中々のドヤりっぷりだが、確かに村長宅へ行っていた短時間でこれだけ掃除できるのは素直に凄いと感心する。
オーリとヴィーも頑張ったようで、鼻の頭を汚しながら笑顔で走り寄ってくる。
「「ねぇねぇミー姉ちゃん!」」
「ん? どうしたの?」
「あのお兄ちゃんにご飯誘われてないよね……?」
「行かないよね……? 大丈夫だよね……?」
ひぇ……忘れてた……ツーク村にはこの子たちのヤンデレスイッチがいるんだった……
防衛戦で射撃技術が成長した二人のスイッチが入ったら本当に流血沙汰になる、それは本当の本当に笑えない。
「大丈夫! 久しぶりに帰ってきたのに僕が行くワケないでしょ?」
……良かった、瞳にトーンが戻っていく。
でも、「久しぶりじゃなかったら行くのかな?」「その時は……」とコソコソと二人が話しているのはきっと気のせいだろう、僕は聞いていない。
…
……
………
夕食も終え、双子が寝たのを見計らってティスに古代種について聞いてみる。
危ういものには近づかないとは言ったものの、やはり気にはなってしまう。
「霊樹精ね、あたしもダフネおばーちゃんから聞いた程度だけど、世界に色んな種族が生まれる以前からいた種族らしいわよ。ずーっと昔から存在した種族だから古代種なんだって言ってたわ」
「そうなんだ、どんな種族なんだろうね」
「すっごい綺麗みたいよ。ただ、冷徹で容赦なく他種族に襲いかかるとも聞いたわ」
怖っ……でもティスの話なら見た目は僕がイメージしてるエルフと一致するね。
「古代種って括られてるってことは他の種族もいるのかな?」
「いたはずよ、えっと……何だったかしら……あ、炎鱗精! そんな種族もいるらしいわ。それに、あたしたちも古代種と同じ時期から存在する種族らしいけど、古代種とは呼ばれてないのよね」
「へぇ~なんでなんだろう?」
「さぁ、ダフネおばーちゃんも昔、魔人族と旅をした時に聞いた話って言ってたから、又聞きのあたしにはさっぱりね」
「そっか、今度ダフネリアにも聞いてみるよ。ありがとうティス、そろそろ寝ようか」
今いる種族より以前に存在していた種族か……でも今は忌避される存在で、”潜んでる”って噂されるくらいだから数も少ないってことだよね。
自然に衰退した? それとも、今の種族に追いやられた?
後者なら前世の歴史でもそんなことあったよね、あまり気持ちの良いものではないな。
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 春の月 / 獣の日 am 05:00
――翌日 ツーク村近郊 街道
「ふぁ~、こんな早くに出発する必要あったの?」
「あるよ、ティスもこの子たちが村で銃を撃つとこ見たくないでしょ?」
「あ~……そうね、ミーツェの判断は正しいわ……」
天使みたいな寝顔のうちの子だけど、特定の相手には悪魔みたいになっちゃうからね、そんなのミー姉ちゃん見たくないですよ……
「迂回してヨウキョウを目指すから少し急ごうか、almAお願いね」
ツーク村の青年も、霊樹精も、『君子危うきに近寄らず』だよ。
そうだよね、almA。
僕は荷車を引く浮かぶ多面体に同意を求める。




