閑話.教育に悪い大人は粛清した方が良いのだろうか?
時系列が少し戻ります。
ep13の冤罪騒動からep14の怨弩が撃ち込まれるまでの
半年の間に起きたの出来事です。
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「うーん……やっぱり止めようかな……」
「どうして? 街の近くとは言え、オーリとヴィーと森に行くんだから護衛はいた方がいいでしょう?」
「今日依頼するって連絡もしてるし、そうなんだけどさ……」
パイロンさんと共同で建てた孤児院は親を亡くした子供だけではなく、ネグレクトを受けている子供も受け入れている。中には揉めることもあるが、それはモーヴ一族が納めてくれている。
もちろん、どうやって納めているかは怖くて聞けない。
スラムのストリートチルドレンも随分と減ったのは良い事だけど……
孤児院の運営はお金がかかる、これなんだよね。
パイロンさんや街の人たちからも援助をしてもらえているけれど、限りある資金は子供たちが健やかに成長できるように、なるべく食費に回したい。
なので家具については手作りで節約しようと思い至った。
その為の木材を調達に行きたいのだが……
「依頼のお金だってミーツェの腕折ったお詫びでギルド長が出してくれるのよね?」
「脱臼ね、そうなんだけどさ……」
問題はそこじゃないんだよティス。
あのボディビル空間にオーリとヴィーを連れていくのは憚られるんだよ。
真似するようになっちゃったらどうするのさ。
「ねぇ、やっぱりウカノさんのおうちでお留守番しててもらえないかな?」
「「やだぁぁぁ!!」」
だよね……
「大丈夫よ、あたしも何かあったらちゃんと言い聞かせるわ。ミーツェ、過保護はダメよ」
「んぐ……わかった……」
そう言われる返す言葉がない、僕は渋々この子たちを連れ、狩人協会の扉を開けた。
――狩人協会受付
「メルミーツェ様ですね、会長からお話伺っています、少々お待ちください」
わぁ、受付嬢さんしっかりしてる、前世の社会でも通じそう。
ギルドってもっとこう……ざっくりしてるんじゃないの?
「待たせたな! よく来た猫の!」
お決まりのラットスプレットに弾けるボタン……それ毎回誰が直してるんですか?
「会長! キレてる! キレてるよ!」
「大殿筋で街壁壊せそう!」
黙ってもらって良いですか?
お尻で街壁壊したら最早それは人間ではないんですよ。
「今日は護衛の依頼だったな! 依頼料は気にするな! ただ……護衛はこいつらでいいか?」
ムルクスさんが親指で指さす先には狼人族の男女。
この場に似つかわしくない細身の体系だ、違う、むしろこっちが本来多数派のはずだ。
僕も毒されてきているのか……
「はい、大丈夫です、むしろお願いします」
「そうか! 助かる! 害はないがこいつら、ちょっと特殊でな。だが汝らに迷惑をかけないようには言っておく」
なんだろう、すごく嫌な予感がする……
――リム=パステル郊外 森林地帯
「運搬用の馬車まで貸してくれるなんて気前いいわね」
「そうだね、ウカノさんの権限で許された伐採数は5本まで、なるべく厳選して切っていこう」
この日の為に柄の長いチェーンソー作ったからね、エンジン式ではなくアストライト動力のモーター式だから音も静かだよ。
チェーンソーとかサーキュラーソーってロマンあって僕大好き。
「じゃあ、僕たちは伐採する木を探しますのでこの子たちの護衛お願いします」
「はい! お任せください。伐採後の運搬もお手伝いしますのでお声がけください」
傭兵のボーナーさんとティットさん、物腰は柔らかいし実力もムルクスさんの折り紙付き、今のところ問題はなさそうだけど『ちょっと特殊』の言葉が引っかかる。
それにボーナーさんはヴィーに近づこうとしないし、ティットさんはオーリに近づかない。
やっぱり少しだけ不安だから早めに切って早めに帰ろう……
~ ~ ~ ~ ~ ~
「これにしよう、ティス、少し離れててね」
チェーンソーのモーターを起動するとキュィィンと高音を鳴らし刃が回転を始める。
エンジンの音も良いが、モーターはこれで良い。
本来のチェーンソーは刃元から当てないと跳ね返りが起きる危険性があるらしいが、
今回は槍の柄にチェーンソーを付けたようなゲーム仕様の形なのでその心配もない。
”オルカ”を編成して腕力面も完璧だ。
刃を押し当てると木屑を勢いよく飛ばし、メキメキと音を立てながら木は倒れる。
伐採した木は運びやすいように何分割に切り分けた。
「よし! まず1本目」
「すごいわ、あっと言う間ねー」
「でしょー? almA、牽引お願いね」
木材を積むため、一度あの子たちの待つ馬車に戻るが、飛び込んできた光景に理解が追い付かなかった。
「あの……何してるんですか? 子供の前ですよ?」
ボーナーさんがティットさんを押し倒し、服の中に手を入れている。
「ち、違うんです! オレが転んでティットにぶつかった拍子で!」
「……よし有罪。オーリ、ヴィー、ちょっと目瞑っててね」
チェーンソーのモーターを回す。
「本当です! ボーナーは男女問わずこうなってしまうんです!」
何それ、ラッキースケベ体質ってこと……?
ん……男女問わず?
「実はワタシもボーナーとは逆で触られてしまうと言うか……」
はいはい、ラッキースケベられ体質ね……
なんて人たちを護衛につけてくれてんだ、あのキングゴリマッチョ……
「……分かりました。でも、くれぐれもこの子たちに手を出さないで下さいね!」
2本目を切り倒し戻ったときには尻もちをついたボーナーさんの股間に転んだティットさんの顔が埋まっていた。
マジでチェーンソーでぶった切りますよ?
遭遇した魔獣も鮮やかに倒し、木材の積み込みも手伝ってくれて仕事も丁寧。
外見が子供の僕に対しても礼節をもって接してくれる人柄も素晴らしい。
だけど、その評価を体質が吹き飛ばす……なんて不運な人たちだ……
街へ戻る際に過去のパーティーでの男女間トラブルで、
”パーティークラッシャー”と呼ばれていることを話してくれたが『そうですか』以外の言葉が出てこなかった……
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――翌日 狩人協会
「わざわざ来てもらってすまんな!」
だからボタン……
「肩にちっちゃい馬車乗せてんのかい!」
「よっ! 筋肉横丁!!」
黙れマッチョども、筋肉横丁ってなんだよ……通りごと粛清するぞ?
「それでだ! 先日の二人を孤児院の警備で雇ってやってくれぬか!?」
「ごめんなさい、無理です、勘弁してください」
「待て! 聞いてくれ、あいつらの体質は知ったと思うが、どうも先日の護衛で子供相手だと普通に接することが出来たようなんだ!」
「まぁ……確かにそうですね、僕も大丈夫でした」
「だからだ! あいつらは体質のせいで仕事も中々回ってこなくてな……だから頼む!!」
怖い怖い怖い怖い! ポージングしながら迫ってこないで!!
「わ、わかりました! パイロンさんと相談します!」
僕はムルクスさんとバックのマッチョ集団の圧に負け、
逃げるように狩人協会から立ち去った。
――ウカノ邸 客間
「それで筋肉に迫られて逃げてきたの?」
「うん、それでボーナーさんたちを雇う流れになってさ」
「あたしは良いと思うわ、良い人たちだったじゃない」
そうだけど、孤児院の子供たちの情操教育は大丈夫だろうか……
「オーリ! きれてる! きれてるよ!」
ポージングをキメるオーリにコールするヴィー……
ほらね、さっそく問題起きてるんだけど……?
子供ってすぐ真似しちゃうよね……前世のお父さん、お母さん……
貴方たちもこんな気持ちだったのでしょうか?
子育てって難しいねalmA……
僕は浮かぶ多面体に脱力しもたれかかる。




