Another side1.愚か者1
サファン視点になります。
時系列は少し戻り、ep13の冤罪騒動の決着次点からになります。
ミーツェたちがスラムの酒造所を建て直している期間に、
サファンは何をしていたかの話となります。
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■後神暦 1324年 / 秋の月 / 天の日 am 01:10
――衛兵隊指令所 拘留室
くそくそくそくそくそくそっ!!
なぜ! どうして! 私がこんな目にあっている!?
牢に入れる? ふざけるな!!
私はモーヴ一族当主、レイコフ=カッツェ=モーヴの一人息子、サファン=カッツェ=モーヴだぞ!?
なぜキメラ野郎の言葉をみな信じる? おかしいだろ。
民衆を導く有力一族の言葉を信じて然るべきだろ。
腹立たしい、何もかもが腹立たしい。
実子を守らない親はクズだ。
卑しい血のクセに私を裏切ったバリスはゴミだ。
それにあのクソガキ……私に暴力を振るいやがった。
衛兵隊長も見て見ぬふりをしたことは忘れないぞ。
絶対に復讐してやる……私を侮った奴らは全員地獄に叩き落してやる。
特にあのクソガキは何度も理不尽を押し付けてきやがって……
幼いが容姿は整っているからな、顔をくちゃくちゃに歪ませて女に産まれてきたことを後悔するほどの地獄を見せてやる……
地べたに額を擦りつけて詫びても許さん。
「絶対に許さん……絶対に許さん……絶対に許さん……」
――ドンッ
「うるさいぞ! 静かにしていろ!!」
あぁ、この衛兵も復讐の対象だ。こいつに家族はいるのか? 子供は?
レイコフのように子供を守れない親になった時、どんな顔するだろうな?
想像しただけで絶頂しそうだフハッ……
明日になれば私の部下が私の身代わりで罪を証言するだろう。
そうすればバリスは証言は偽証、レイコフは信用を失う。
だが、それだけで済ますワケがないだろう?精々精神勝利で浮かれていろ。
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1324年 / 秋の月 / 地の日 pm 08:30
どういうことだ!! もう4日目だぞ!?
なぜ私の部下はこない!?
そうか……衛兵隊が揉消しているんだな?
そうだよな、お前らの落ち度になることはできないよな、浅ましい。
「おい! 私の部下が来ただろう!? 真実も隠すとは恥を知れ!!」
「何を言っている? 貴様の部下どころか誰も面会にきていないぞ」
なんだと? 今なんと言った?
誰も来ていない? 嘘を吐くな、お前には人としての矜持もないのか?
「そんな事あるワケないだろぉぉぉ!! いいから部下を通せ!!!!」
「おい! 暴れるな!! 誰か来てくれ投獄前の罪人が暴れている!!」
――…………
……なんだこれは? 拘束具か?
なんて屈辱だ、私は……いや、俺はサファン=カッツェ=モーヴだぞ!?
絶対に許さん、最早こんなことを許す国の司法すら許すことはできない。
――全てに復讐してやる……
「こんばんワぁ~」
なんだこの女は!?
どうして檻を開けれる? 見るからに衛兵ではないぞ。
それに見たこともない種族だ、どことなくあの裏切り者と似てるが……
「なんだお前、お前もキメラなの……ングッ!!」
「その呼び方は好きじゃないワぁ~」
「わ、わがっだ……」
私を片腕で浮かせるなんてとんでもない怪力だぞ、本当に何者だ?
「貴殿は何者なんだ? 目的はなんだ?」
「そうねぇ、アナタをスカウトにきたのよぉ~、つまり味方ってことになるワぁ」
「スカウト? どういう事だ?」
「ヴェルタニアは知ってるでしょ~? そこの然る方が貴方の軍事の才能を借りたいそうでねぇ~、それで私がきたってワケ」
「意味が分からない。ヴェルタニアは魔人族至上主義だろ? 私が才能に恵まれているからといってどうして奴らが知っている?」
「私が報告したもの~、ほらぁ」
――!!
顔が変わった!? しかもこいつ……私の屋敷で見たことがある……
「間者か……?」
「ん~、ちょっと違うけどそれで良いワぁ。貴方、復讐したいんでしょ~? きっとそれも叶うと思うワぁ」
得体の知れないこいつを信じていいのか?
しかし、私がこんなところに居て良いはずがない。それに間者を従えてるならばそれなりの者なんだろう。
……いいだろう、乗ってやる。もしも時は斬り伏せてくれる。
「わかった、貴殿と行こう」
「良かったワぁ、じゃあコレ。はい、貴方の刀でしょ~」
「助かる。では強行突破だな」
「そんなことしなくて大丈夫よぉ~」
どういうことだ?
衛兵がこちらに気づいていない……この女の魔法か?
「はい、脱出ぅ~」
「凄まじいな、貴殿の魔法か?」
「ん~一応そうなるかしらぁ~」
要領を得ないな、まぁいい。国が私を認めないならば私も国を認めない。
国も、レイコフも、バリスも、メルミーツェも、全てに復讐してやる。
これは不当に私を貶めた奴らへの正当な報復だ。
「ところで貴殿の名前を聞いても良いか?」
「ラミアセプスよぉ」
一瞬、女の目が捕食者のように見えた。
私は無意識に腰の刀に手をかけた。




