ep21.メルミーツェ=ブラン
■後神暦 1325年 / 春の月 / 獣の日 pm 07:50
――汚染地域の浄化から数日 ウカノ邸 応接室
「2日遅れになってしまいましたが、本当にお疲れ様です。
まさか一回の浄化で全ての汚染が消えるなんて流石に思ってなかったです」
「はい、アレクシアの力ですよ」
「……そうですか。ところで今回件で議会、つまり国からアレクシアちゃんやメルちゃんにも報奨がでることになったです」
報奨か……居候もさせてもらって食べる物に困ることもなければ仕事の人間関係も良好。
あの子たちまで預かってもらっている、これ以上何を望めばいいんだろう。
「すみません、思いつかなくて……」
「言うと思ったです。それなら商会を立ち上げてみないですか? ベリルさんやパイロンさんと相談していたんですよ。まずはスラムでやっている酒造や発酵食品をカーマインとインディゴ商会の下請けとして初めてみないですか?」
「今でも僕を含めてスラムの人たちを雇ってもらってるのに、それをやると両商会の利益が下がりますよね?」
ちょっと悪い税金対策で似たような方法があったけど、この世界に法人税みたいな概念があるのかも分からないし、そもそもそんな事をする人たちではない。
でも自分たちと別の商会を下請けとして使うなら商品の売値を上げない限り、単純に利益が減る。
商魂逞しいウカノさんらしからぬ提案だ。
「私らしくないと思ったです? 顔に出てますよ。
これは報奨、私たちからはメルちゃんの独立のきっかけを、国にはその資金を出して貰えばいいんです」
「……僕なんかができるんでしょうか?」
「いいですかメルちゃん、謙遜が過ぎると嫌味にとられることもあるんですよ。
さっきも浄化はアレクシアちゃんの力と言いましたが、メルちゃん自身は何もしなかったワケではないはずです。それこそ懸命に戦ったはずです」
ハッとした、前世に同じことを言われたことがある。
あの時はなんて返せば良かったか分からなくて黙ってしまった……でも今回は言うべき言葉が分かる。
そうか、こんな簡単なことだったんだ。
「ありがとうございます、頑張ってみます」
「それでいいです。孤児院も大きくしたいんですよね? それに子供たちが学べる場も作りたいとパイロンさんに語ってたんですよね? ならいっぱい稼がないといけないですよ。メルちゃん、商魂燃やしていくですよ!」
そう言って涼しげな目を細めるウカノさんはとても頼りになるアニ……姉貴だ。
各一族当主の人たちは個性が過ぎるが、根っこは部分は当主足りえる人格者なのだと強く思った。
同時に僕がこの世界でできた繋がりを守り、スラムの孤児たちのように届く範囲だけでも手を差し伸べようとするなら、少しでも当主たちの強さに近づかなければならないと痛感した。
「じゃあ、残るは商会名ですね。小規模商会の場合、一般的には家名をそのままつけますが、メルちゃんの家名は?」
「え? ないです」
「……ないですか。それならその手続きもしないとですね。なんて名乗りたいです?」
名乗れって言われても……
カーマイン、セルリアン、インディゴ……なら僕は白?
「ホワイトでどうでしょう?」
「あ、それはダメです。昔、脱税や諸々で取り潰しになった一族と被ってるです」
「マジですか……じゃあ、ブランで……」
取り潰し食らうホワイト一族ってどうなの?完全にブラックじゃん。
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 春の月 / 天の日 am 10:00
――商会立ち上げから3週間後 スラム近郊
「ねぇザック、家ってさ、3週間で建つものなのかな?」
「わかんねェけど、レイコフの旦那やカーマインの代表が建ててくれたんだろ? そんくらいのことはできんじゃね?」
「ねぇザック、ちなみにこの家どう思う?」
「かっけェじゃん」
だよね、この件ならそう言うと思ったよ。
和風建築の家にそれを囲っている外壁はゴリゴリの洋風……
この世界って天丼が流行ってるの?
商会立ち上げに当たって自宅を持った方が良いと言われたので、スラムの近くの土地を買えないか相談をしていたが、どこから聞いたのかレイコフさんやってきて家ごと建てると言ってくれた。
更に何故かウカノさんがレイコフさんに張り合って建築に援助をしてくれた。
結果、異世界和洋折衷ハウスが出来上がった、どうしてこうなった?
「「ミー姉ちゃん! おうち! おうちの中入りたい!!」」
双子にせがまれ、門扉を開けると縁側が見える……
元日本人には馴染みがあって良いとは思うけど、縁側から見える景色がレンガ造りの外壁ってどうなんだろうね? そこは白壁とか生垣とかじゃないの?
……いや、建ててもらってそんなこと言ったらダメだ、風情として受け入れろ。
それに、この子たちも喜んでるし、家を建ててもらえるなんて普通はありえないことだ。
間取りは食事ができる広間に個室が二つ、それにポータルの扉を隠しておける小さな鍵付き個室、所謂2LDKSの平屋。
当主の二人は『こんなに狭くていいのか?』と聞かれたが、僕からしたら十分過ぎる広さだ、それにスラムに邸宅なんかがあったらおかしいでしょうに……
「良い家だね、そのうちツーク村の家も今度掃除しに帰ろうね」
「「うんっ!!」」
最後の仕上げはやっぱりコレだと思う。
これは僕……本当はほぼalmAに加工してもらったけど、僕が作ったプレート。
シンプルな長方形にブレッシング・ベルのレリーフを入れた自信作だ。
「何してるの? ミーツェ」
「僕の故郷では玄関先にこんな感じで家族の名前を掲げるのが一般的なんだよ」
まぁ、昨今は防犯的にそれも少なくなったけど。
外壁もあるし、一度やってみたかったんだよね。
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メルミーツェ=ブラン
ティスタニア=ブラン
オリヴァ=ブラン
オリヴィ=ブラン
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「へぇ、素敵ね、良いと思うわ!」
あ……しまった……almAの名前入れるの忘れた……
……許してくれるよね?almA。
僕はないはずの浮かぶ多面体の視線に怯えた。
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■この時期に新たな物語がスタートします。
【風の配達人~鼠のセイルと妖精アマリリス~】
https://ncode.syosetu.com/n5984jc/
ミーツェが建てた孤児院で暮らす少年の物語です!




