ep20.錆鉄の猫姫とアルコヴァンの聖女2
■後神暦 1325年 / 春の月 / 海の日 am 09:00
――リム=パステル東門前
予定の2週間より早く10日で準備を整えれたのは良いけど……
「なんか……思ってたより規模が大きいね……」
「えぇ、スラムに通い詰めだったミーツェは知らないと思うけど、聖女と猫姫の護衛ってことで志願者が凄かったらしいわよ……雑貨屋に直談判にくる人もいたんだから……」
「なにそれ怖い。それに僕、護衛する側なんだけど……」
汚染地域までは約2日、そこから数日浄化をしながら滞在し街へ戻る。
それを数か月間繰り返す予定らしいけど、この物資と人員は過剰では?
だって一個小隊くらいの規模はあるよ……もしかして一回で終わらせる気でいるの?
「村に戻る途中までついてく俺としては荷物も預かってもらえるし、道中危険もなくて最高だけどな。
猫姫さまさまだ」
「アド……それ帰っても絶対ツーク村で広めないでね……もし広めたら街で娼館いこうとしてたことブラスカさんに言いつけるから」
「おまっ……なんで知ってるんだ!?」
見た目の成長が早くたって子供が娼館なんて10年早いです。
ザックに伝言をお願いしてモーヴ一族には根回し済みです。
「嬢ちゃん、頼んだ俺らが同行できなくてすまないな」
「いえ、一族の当主方が総出だと街が混乱するのは理解してます。
それにムルクスさんが当主方を代表して指揮してくださいますし」
本音を言うといくら良くしてもらってる仲でもVIPだらけの一団なんてプレッシャーしかない。
偉い人たちは報告を待ってもらうくらいが丁度良い。
「そうか、すまんな。ムルクスがいるから問題ないと思うが、危なくなったらすぐに撤退してくるんだぞ」
こうして謎の一個小隊は出発した。
~ ~ ~ ~ ~ ~
リム=パステルを出て数時間、特に問題なく進めてはいるけど……
やっぱりこの集団は仰々しくないかな?
「ねぇティス、僕たちの荷車の前後に馬車4台づつの縦列と、それを囲む馬に乗った武装したマッチョたちってどう思う?」
「そうね、どこかの村を滅ぼしに行きそうね」
だよね、価値観が一緒で嬉しいよ……
それにalmAが牽く僕たちの荷車に機銃を載せたのはまずかったかもしれない……
大型の魔物が出たときの切り札として作ったけど、この集団に機銃はやり過ぎた。主にビジュアル的に。
「これならミーツェが目的地にいってピン刺してきた方が良かったんじゃない?」
「うん、シエル村が壊滅したって報告した手前、拠点に繋がるこの能力は隠してたけど、もう少しやりようあったのかもって後悔してるよ」
ギルトの人たちがポージングを見せつけてくる以外は良い人だって分かってる、現にオーリとヴィーも懐いているしね。
だけどこの見た目とこの数……どう考えても世紀末の野盗集団なんだよなぁ……
他の商会から参加した後方支援の人たちが捕らえられた人みたいになってるよ。
■後神暦 1325年 / 春の月 / 黄昏の日 pm 02:30
――怨弩着弾地域 外周
「予定より時間がかかったわね」
「人数も多かったし、仕方ないよ」
「でもその分安全だったわね、だって襲ってくる魔獣の方が可哀想に思えるくらいだったわ。劇画調のギャグマンガがあったらあんな感じになるのかしらね」
「オーバーキルだよね」
目的地を目指して今日で3日目、アレクシアの言う通り道中はこの上なく安全だった。
魔狼や魔兎などの魔獣に遭遇することもあったが、整然と隊列を組んで進んでいたギルドの屈強なマッチョたちが豹変し、小学生のサッカーのように魔獣に向かって突撃、からの瞬殺。文字通り八つ裂き、いっそ魔獣が哀れだ。
「でもここからが本番だね」
「えぇ、しっかり守ってね!」
怨弩が着弾したかつての平原……
地面が抉れ草は枯れ、夕暮れのように薄暗く魔物も見える。
僕たちの役目は汚染された地域の外側からアレクシアが浄化しながら進むのを護衛すること。
見た感じ、汚染地域にいるのは魔粘性生物だけで大型や僕が知らない魔物もいなし、数も以前に比べてずっと少ない、きっと防衛戦が異常だったのだろう。
この空間はマナが歪み魔法が使えないらしいけど、そもそも魔法が使えない僕には関係ないので先陣は僕たちが買って出た。それに先頭の方が射線を気にする必要がないので都合が良い。
機銃に弾帯をセットして準備完了……
「対戦車ライフル並みの銃弾の連射……喰らうといいよ」
――!!!!!!!!!!!!!!!!
轟音と共に爆発するように魔粘性生物は四散していく。
荷車に設置された機銃を撃ちながら進む様はalmA戦車と言うべきか、これがあったら防衛戦のときも犠牲者が少なかったかもしれないと考えてしまう。
金属の他に窒素化合物が欲しくて肥料や染料まで用意して欲しいとお願いしたときは頭のおかしい子を見るような目で見られたけれど、お陰で遠慮なく銃弾が使える。
後続のアレクシアが乗る馬車は周囲を浄化しながらゆっくりと進み、汚染が消えた範囲の魔物をギルドのマッチョたちが容赦なく蹂躙していく。
浄化は何回かに分けて数か月がかりと聞いていたけど、このペースなら本当に今回で終わるのではないだろうか?
そもそも浄化はこの世界でどれくらい希少なのか、その使い手がこの規模をどれくらいで浄化するものなのか分からないが、魔物と戦う雄叫びに交じって歓声が聞こえてくるのでアレクシアが規格外なのは間違いないだろう。
機銃の轟音に雄叫びと歓声、その中に聖女コールや猫姫コールが混ざっているのはきっと気のせいだ。
――野営地
「ガハハ、凄まじかったな! 吾らの出番がないではないか!!」
何を仰る、魔物をぶちのめす貴方の部下をしっかりと見ましたよ……
「でも以前より魔粘性生物が脆く感じたんですが気のせいでしょうか?」
「いや、恐らく気のせいではないぞ。聖女の力で弱体化したのか、それとも逆で星喰いの影響で強化されていたのか、それは分からぬが……なんにせよ倒しやすいのは良い事だ!」
「そうですか……そうですね」
ムルクスさんでも分からないんだ……街で待っている人たちに早く浄化が終わった報告ができるのは良い事だけど、わからないことが増えていくね。
特に星喰い、みんな当たり前に受け入れてるけど、決まった周期で必ず何かが起きるなんて異常だと思うんだけどな……
「今は考えても答えはでないか、とりあえず今日はもう寝よう」
今は目の前のできることをやるしかないよねalmA。
僕は浮かぶ多面体にもたれ眠りに落ちる。




