ep18.防衛戦のその後
■後神暦 ????年 / ?の月 / ?の日 ?m ??:??
――????
……此処はどこさ?
どこまで続いているか分からない真っ白な空間に様々な景色が点々と浮かんでいる。
まるでアルバムのうえに立っているようだ。
平原、湖、森、街、室内……場面も時代もバラバラで関連性も感じない。
上を見上げれば今自分が立っている場所と同じような空間が広がっている。
下を見ても同じ、違いがあるとすれば微かに暗いと感じるだけだ。
室内の景色の中に人が居る、良かった、誰かは知らないけどこんな空間で独りぼっちは嫌だ。
男女四人、中世ヨーロッパのようなドレス、古代ローマのようなキトン、着物を着てる人までいる。
『全然数字が動きませんね、ここ何巡かおかしくありませんか?』
『イベントに乗ったのに上手くいかなかったからって文句言うなよ』
『でもエストの言う事もわかるわ、だって普通なら****の数字が減るはずだわ』
数字?何の話してるんだろう?
――!?
先ほどまで見えていた景色が真っ白になっていく。
まるで絵画を描く過程を逆回しにするように。
それだけじゃない、空間全てが白より白く塗りつぶされていく、もう何も……見えない。
~ ~ ~ ~ ~ ~
…
……
………
…………
ブレッシング・ベル……?なんで?
「目覚めたか、子猫」
「……ダフネリア? ここって花畑? どうして?」
「あぁそうだ。ティスタニアが帰ってきたと思ったら、酷く狼狽してお前が目を覚まさないと言ってな。
みなでここまで運んだ。待っていろ、今ティスタニアを呼んでくる」
ティスが花畑に帰るのはわかる。
花畑にはピンを刺してあるから魔粘性生物と戦っているときにティスを送った温室から行き来ができる。
でも僕がティスたちに運ばれたことが分らない、リム=パステルにはピンを刺していない。
「ミーツェ!!」
「ティス……良かった、無事だね」
「こっちの台詞よ、なんの説明もなしで温室に置き去りだもの!」
「それなんだけど、どうして僕ここにいるの?」
「あの後、温室で待ってたんだけどalmAがミーツェを運んできたのよ。
息はしてたけど呼んでも起きないし、裸だったし、もうワケがわからなかったわ。
だからダフネおばーちゃんに相談したの。服は用意できないから巻いておいたわ」
「――ッ!?」
確かに……植物の蔓が巻かれてるだけ、それだけだ……マジか……
「……僕、どれくらい眠ってたの?」
「今日で3日目ね」
「魔粘性生物はどうなったんだろう?」
「リム=パステルがどうなってるかはわからないわ」
「……戻らないと」
「そうね、皆が心配だし結末がわからないなんて嫌だわ、でもその前に服をどうにかしましょう?」
ごもっとも。
さっそく製造所で一式を揃え、リム=パステルへ向かう準備を整えた。
魔粘性生物と戦う為に元素値を大量に消費していたので、銃を新調する余裕はなく、懐かしのカルシウム棒しか作れなかった。
まぁ、服を作るだけの元素値が残ってたし良しとしよう。
シエル村の人たちに貸して貰う選択肢もあったけど、蔓ビキニでそれを頼むのは何か大切なものを失ってしまいそうで選べなかったよ……
――翌深夜
夜神星が花畑を薄暗く照らし、妖精族のランプが蛍のように点々と光を灯す。
花畑に留まっていた頃は何度も見たが、いつ見ても幻想的な光景だ。
「行くのか?」
「うん、ティスのマナを補充するときにまた戻ってくるね」
「……? 子猫、ブレッシング・ベルはどうした?」
「え? あれ? 本当だ……いつも付けてたのに」
「そうか、出発は少し待て」
ダフネリアからもう一本ブレッシング・ベルをもらい、今度こそリム=パステルへ向けて出発した。
まずはツーク村の双子の家へ行き、村人に会わないよう村を出る。
そこからはalmAに乗って移動を続けた。
長時間乗っているとお尻が更に分割されそうに痛い……
前回はリム=パステルまで5日かかったけれど、今回は荷物もなくティスと二人なので更に早く着けるだろう。
道すがらティスになぜ防衛戦にポータルで温室に送ったか聞かれ、正直に死ぬかもしれなかったことを答えると、もし僕が死んだ場合、拠点がなくなるのではないかと指摘された。
確かにその通りだ、ティスを巻き込みたくなくて取った行動で結局巻き込んでしまうところだった。
結果、こうして生きているけど軽率な行動だった。
花畑やシエル村の人たちを道連れにすることは絶対にできない……
あれ? 自分でやってきたことだが責任が重くないだろうか……?
■後神暦 1325年 / 春の月 / 黄昏の日 pm 06:30
――リム=パステル 東門前
馬車で10日の道のりを僕たちは約3日で走破した。
代償はalmAに跨りっぱなしだった僕のお尻であることは言うまでもない。
「街は無事なようね」
「うん、少し警備の兵隊さんは多いけど、人の往来もいつも通りだね」
「それでどうするの? スラムにいく?」
「いや、雑貨屋にいこう、あの子たちがいるとすれば雑貨屋かウカノさんの邸宅だと思うんだ」
――カーマイン商会 雑貨屋
「ミーツェ!? 本当にミーツェよね!?」
店に入るなり驚愕の声を上げるアレクシア。
それはそうだ、いきなり消えた人間が今度はいきなり現れたら混乱もするだろう。
「うん、よく分からないけど気づいたら遠くにいてさ、戻ってくるのに時間かかっちゃった」
「ちょ、ちょっと待ってて! 双子ちゃんに知らせないと! いや、まずはウカノさんか、とにかく待ってて!」
お客さんを放って店を出てしまったアレクシアに代わり、接客をしながら待つこと1時間、乱暴に店の扉を開けてベリルさんが飛び込んでくる。
よく見たら後ろにウカノさん、パイロンさんもいる、仲良いね。
「嬢ちゃん! 生きてたんだな! どこいってたんだ!?」
「そうですン! ケガとかはないですか!?」
「まぁまぁ、いっぺんに質問されたらメルちゃんが困ってしまうですよ」
「ご心配をおかけしました。
気づいたら街から離れた場所にいたので急いで戻ってきました、ケガはありません、お尻が痛いくらいです」
「捜索隊が組まれていたんですよ、レイコフさんなんてモーヴ総出で探そうとしてて、さすがにそれは止めたです」
良かった、営業を止めて総出なんて心苦し過ぎる……ウカノさん、GJです。
「でもこのタイミングで戻ってくれたのは街にとっても朗報だ」
「朗報……?」
「それは話すと長くなるです。今日のところは邸宅に戻ってください。
双子ちゃんたちが塞ぎ込んでるです、早く無事な姿を見せてあげるです」
「そうだな、すまなかった。じゃあ、明日セルリアン商会の執務室に来てくれ! 俺はレイコフさんとムルクスにこのこと伝えに行ってくるわ」
「パイはシンディンに教えてくるですン!」
「あたしたちも行きましょう! あの子たちをこれ以上待たせちゃダメよ」
――ウカノ邸前
数日しか経っていないはずなのに、とても懐かしく感じる。
そう、数日……僕はあの子たちを置いて消えてしまったんだ。
あぁ、嫌な想像ばかり頭に浮かんでしまう……
「……おぇ……緊張してきた……」
「またなの……?」
「だってさ、塞ぎ込んでるって……もし嫌われたらどうしようって……うぷっ」
「いいから行くわよ!」
――ウカノ邸 客間前
「スゥゥゥー……ハァァァ……おえっ……」
「それ、前にも見たわ」
我が子のようなあの子たちに嫌われるかもしれない恐怖をティスはわからないのだろうか?
メンタル強いですね、羨ましいです。
「「ミー姉ちゃん……?」」
部屋の前でのやり取りが聞こえたのだろうか、二人は恐る恐るといった様子で扉を開け声をかけてくれた。
扉の先に僕がいなかった時のこと考えて怖かったのかな?
僕も怖かった、その気持ちよく解るよ……
「「ミー姉ちゃん!!!!」」
飛び込むように抱き着き号泣する二人の後ろからアドがやってくる。
「おう、おかえり。遅かったな」
……素っ気ない態度と表情が合ってないよ、心配してくれてありがとう。
「……ただいま」
帰ってきた、みんな無事だった。
これ以上嬉しいことはない。
いつも以上に頑張って走ってくれてありがとうalmA。
僕はお尻の痛みを忘れ、浮かぶ多面体に感謝する。




