ep17.リム=パステル防衛戦3
■後神暦 1325年 / 春の月 / 天の日 pm 00:06
「ティス! あの子たちにアドと合流して逃げるように伝えて!」
「あたしたちはどうするの!?」
「わかんない……でも限界までアレと戦おう……」
「……わかったわ、でも生存第一よ」
でも戦うって言ってもどうやって?
対戦車ライフルにスキル乗せて撃ってみる?
いや、無理だ……大型ライフルで高攻撃倍率のスキルがない。
攻城兵器でも止められたんだ、ライフルの方が貫通力は上でも、あんなでかい魔石は砕けない……質量が違い過ぎる。
それに恐慌状態とまではいかないけど、兵士の中には心が折れかけてる人もいるね……
とにかく一度”アブソリュートカーム”で動きを止めて……
――!?
超大型魔粘性生物の魔石を覆っている液体が内部で対流するように動き、通常サイズの魔粘性生物が分離するように次々と現れた。
「はは……もう一回倒せってこと? 銃弾足りるかな……」
でも前向きに考えれば、バケモノサイズと戦うより小さいのを大量に相手する方がまだマシだ。
後は物量で押されないかが心配だけど……
「今一度奮起せよ!! 吾に続け!!!!」
「お前ら!! 気合いれてけよ!!!!」
「ここが正念場です!! いくですよ!!!!」
各当主の号令はその場の士気を高揚させ、超大型魔粘性生物を前に戦意を喪失しかけた者を再び奮い立たせる。
――アルコヴァンのために!!!!
凄い……一喝で士気が戻った、さすがカリスマだね。
かく言う僕もあの人たちの言葉で闘志が湧き上がってきたよ。
そうだよ、皆で戦えば乗り切れる!!
――”支援技能 ラストスタンド”
「行くよティス!」
再び街門に迫りくる魔粘性生物を迎え撃つ。
ティスが浮かせた銃弾装填しては撃ち、また装填を繰り返す。
リキャスト完了…………いくぞ!
――”医療技能 ヤオザンゼ”
「~~~ッッ!!!!」
我慢、我慢だ……!!!!
薬の効果が現れ、一気に距離を詰めショットガンで魔石を撃ち抜き即離脱、次の魔粘性生物まで走る。イカれた強化のお陰で周りがスローモーションになったと錯覚するほどだ。
「ミーツェ、もう銃弾がないわ!」
「わかった! almA、燃やして!」
弾切れまで温存しておいたalmAにも戦ってもらう。
火炎放射の燃料、ガトリングの弾、どちらも時間が足りなくて十分に補充できているとは言えないが、少しでも多くここで倒さなければいけない。
「ああぁぁああああぁぁっ!!!!」
almAに続き、ショットガンのバレルを握りストックで魔粘性生物を殴りつける。
群れの中には魔粘酸性生物も混ざっているようで、飛び散った体液でシールドは割れ、防ぎきれなかった分は服を溶かし肌を焼くが構うものか。
それでも殴り続けるうちにショットガンだったものは酸化しボロボロになっていく、もう打撃武器としても使えない。
周りを見回すと倒れてしまった兵士たちもいるようだ……
「すみません……使わせてもらいます……」
盾を拾い盾の上から踏み潰す、
剣を拾い折れるまで斬りつける、
槍を拾い矛先が壊れるまで突く、
槌を拾い楔が外れるまで叩く、
スキルが切れるまで夢中で戦った。
一撃でも多く攻撃できるよう、一体でも多く倒せるよう……
超大型魔粘性生物だって群れが集合しただけ、分離した魔粘性生物を倒し続ければ攻城兵器や魔法が通る大きさになるはず。
そう思ってた……でも違った…………
「嘘でしょ……?」
かなりの数を倒したはずだ、周りの兵士やハンターも奮戦している。
それなのに依然外壁を超えられる巨体は少しも変化がない。
きっと集合したときと同じように魔石の欠片を回収する個体がいるんだ。
しかもその個体がどれかなんて分かるはずがない……
士気はまだ高いが、どれだけの人がこの状況を把握してるだろう?
持久戦じゃ絶対に勝てない……
逃げる……?
ダメだよ、あんなのが街に入ったら想像できないくらいの人が死ぬ。
そもそも首都が壊滅したら国が揺らぐ。
核兵器もどきを撃つような国が近くにあるんだ、そんなことになったら外国に攻められるかもしれない、ツーク村にだって被害が出る、花畑だって無事な保証なんてない。
でも弾がない、僕も他の人もアレに通じる武器がない、打開できる力がない……
――いや、本当にそうか……?
技能があるだろう……?
狂人女が分ってて言ってたのかは判らないけど、今まで躊躇って使わなかった技能があるだろう……?
”スキル効果終了後、撤退する”デメリットを持つスキル。
この世界で『撤退』がどう解釈される分からない。
ゲームでは耐久値が即時ゼロになり再配置も不可、解釈によっては『死』ともとれる。
死にたくない……死にたくない、でも……現状を打開できるとしたらこれしかない……
「きゃっ!! ミーツェ、どういうこと!?」
ポータルを温室に繋げサックを投げ入れすぐに扉を閉じる。
リスクがわからないことに彼女を巻き込めない。
それにオーリ、ヴィー……ごめん、もしかしたらもう一度家族を失なわせちゃうかもしれない……恨まれるかもしれない、それでもここで躊躇って守れないのは嫌だ……!!
「……almA、秘匿技能―」
――機械仕掛けの女王……
命令に反応したalmAは多面体の体をバラバラにし、三つのパーツへ姿を変える。
一つは機械質な王杖のような姿へ
一つは光沢のない冠のような姿へ
一つは折れ曲がった板ような姿へ
折れ曲がった板は砂鉄を巻き上げ、戦闘で壊れてしまった兵士の武具を引き寄せ、ガラクタで組み上げたような玉座を象った。
玉座に座るとそれは浮かび上がり、同時に視界に違和感を覚える。
右目はいつもと変わらないが、左目の視界が周囲を俯瞰したように広く見渡せる。
始めて使うスキルだが、どうすれば良いか解る。
なぜなら、これはメルミーツェの決戦スキルだからだ。
王杖をかざすと玉座から幾つかの鉄塊が魔粘性生物を目がけて飛んでいき、接触と同時に激しく放電する。
ゲーム、アトーメント・ノアの機械仕掛けの女王は、重過ぎるデメリットと引き換えに射程がMAP全域の全方位攻撃、加えて正面には収束した超火力の雷撃を放つ正真正銘の切り札。
「霹靂を以て王道を塞ぐ者を撃ち穿て……almA」
不意にメルミーツェの台詞が口を衝いた。
超大型魔粘性生物へ王杖を向けると舞い上がった砂鉄が道筋を作り、それを伝って周囲の空気を震わせる雷撃が一直線に魔石を貫く。
一度では壊れなくても何度も、何度でも雷撃を撃ち続けた。
ついに耐えられなくなったであろう魔石は徐々に崩壊を始めた。
しかし、雷撃を撃てば撃つほど玉座は光を放ち、逆に視界は暗くなっていく。
俯瞰視点の左目はもうほとんど視えない。
意識も朦朧としてきた……最後に魔石が砕けたのを確認し僕の意識はそこで途絶えた。
――やった……やってやったぞ……
【機械仕掛けの女王 イメージ】
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 ????年 / ?の月 / ?の日 ?m ??:??
――????
スペア機 ノ フォーマット開始…………完了
最終バックアップ ヲ インストール…………完了
支援機 トノ ペアリング…………完了
再起動 開始……
…
……
………
……………完了 起動シマス
「a……lmA…………?」
意識を取り戻した僕はまたすぐに意識を手放した。
僕が覚えている最後の記憶は浮かぶ多面体だった。




