ep16.リム=パステル防衛戦2
エスト …… 30.4%
***** …… 26.5%
**** …… 18.5%
****** …… 24.6%
『あら? エスト、貴女なにかしたのかしら?』
『なんのことですか?』
『イベント起きてるぞ! まだ星喰いじゃないだろ! 反則だ反則!』
『私まだ何もしてないですよ!』
『これは……****、ぬしの子らが危ういのではないか?』
『そうですか! 私に言いがかりつけた分このイベントに乗ってあげます!!』
『おい止めろって!!』
『かかっ、口が災いしたの』
~ ~ ~ ~ ~ ~
■後神暦 1325年 / 春の月 / 天の日 am 11:00
街の門までまだ距離がある……
注射器銃を手に取りこれから襲いくる痛みへの覚悟を決めて大きく息を吸う。
――”医療技能 ヤオザンゼ”……!
キャラクター名をそのまま冠したこのスキルは、狂人女と戦った時に使った”血狂い悪鬼”に匹敵する強化を複数に、それも長時間付与する破格の性能を有する。
ただし、狂った強化をばら撒く代償として強化対象は初めにダメージを負う重いデメリットを持つ。
ゲームでは低耐久のキャラクターはこれに耐えられず倒れてしまう使いどころが限定されるスキル、だけど……
「ん……? がああぁぁぁあぁ!!」
「……ッッッッ!!!!」
――痛い痛い痛い痛い!!
注射器銃で自分とアドを撃ち、流れ込んだ薬の痛みでバランスを崩しalmAから落下する。
……アドも足をもつれさせ転んだようだ。
「おい!! 何すんだ!?」
「ハァ、ハァ……本当にごめん、説明して了承貰ってるヒマないと思ったから……」
普通なら気絶するほどの激痛……
それでも意識を保っていたのは先に使った”ラストスタンド”の効果だ。
裏を返せば激痛の中、気絶できないワケなのだが……強化を受けるにはこの方法しかなかった。
「……フゥー…………痛み引いてきた? 体が軽く感じない?」
「ん? あぁ、本当だ……羽が生えたみたいに軽いぞ……どうなってんだ?」
「さっきの撃った薬の効果だよ、持続時間は3分ね。僕は門前の魔粘性生物と戦うから、アドは門を抜けて街に居るザックたちを助けてあげて」
「……わかった、じゃあ先いくぞ!」
強化を受けた僕はalmAに乗るよりも走った方が速く、元々の身体能力が僕よりも高いアドは文字通り風のよう。
門前の魔粘性生物を軽々と跳び越え、街へ駆け抜けていった。
これならきっと間に合うはずだ。
「ティス、アドが加勢に向かったことをザックに伝えてあげて!」
「わかったわ、オーリとヴィーはどうする?」
「ムルクスさんたちの援護をするようにお願いして、僕たちは門を守るよ!」
ショットガンを構え街の門へと走る。
門前は魔粘性生物を押し返そうと国防軍の盾兵が奮闘しているが、防衛線はだいぶ下げられているようだ。
兵士を射線にいれないように国防軍に迫る魔粘性生物の群れの脇を食い荒らすように真横から射撃を繰り返し突進する。
「ミーツェ! 銃弾よ!」
薬の効果で全ての動きが速い、それはリロードの動作も例外ではない。
ティスがサックから取り出し風の魔法で周囲に浮かせてくれている銃弾を高速で装填していく。
手持ちの弾も半分ほど消費しスキル効果が切れたが、門前の防衛線に群がった魔粘性生物だいぶ数を減らした。スキルリキャストも完了済み、次は防衛線が立て直すまで時間稼ぎた……
――”術撃技能 アブソリュートカーム”
僕を中心にして半径10メートル前後の範囲にある無機物・有機物問わず全ての動きを9割以上遅延させるクラウドコントロールに全振りしたスキル。
遅延に特化し過ぎてるせいで範囲内にいる全て……つまり僕も動けないワケなんだけど、外壁上にいるベリルさんやウカノさんが向かってくる魔粘性生物を迎撃してくれるはずだ。
あとはスキルが切れた瞬間に誤爆されないように祈るだけ、と言うよりそれしかできない。
スキル範囲外の景色が9割増しで動いて動画を早送りで見ている気分だ。
効果が切れると同時にすぐさま頭上を確認する。
遅延の影響を受けていた魔導砲弾や魔法が爆撃のように降り注ぐ。
味方の人たちはもちろん信じている、ただ、魔導砲弾や魔法の雨あられが自分に飛んでくるなんてことがあったら恐怖以外の何物でもない。
「良かった……こっちには攻撃飛んできてないね」
「見えるのに動けないって気持ち悪いわね……」
狩人協会の人たちも門前の合流し始めている。
大型や魔粘酸性生物も片付いたのだろう、なにせオーリとヴィーが支援したからね、うちの子すごいでしょう?
「もう勝ったも同然ね! あたしたちもアドのことろ行った方がいいんじゃないかしら?」
「そうだね、あの子たちと合流し……―」
空が暗くなっていく……この世界にきてこれで二度目だ……
「星喰い……でも、もう3年過ぎたし、もう何もないわよね」
「ティス……フラグになるからそれは言わない方がいいよ」
「フラグってなによ?」
日神星が完全に隠れ、少しの間、闇に覆われる。
徐々に明るさが戻るにつれ、魔粘性生物が一か所に集まっていく……それも砕かれた仲間の魔石を拾うように体内に欠片を取り込みながら動いている。
星喰いが終わる頃には集まった魔粘性生物は混ざり合い、1体の大型魔粘性生物へと変わっていた。
更に他の個体も次々と取り込み肥大化は止まらない。
合流を阻止しようと倒しても、別の魔粘性生物が魔石を拾い持ち去っていく。
魔法で燃やされても、武器で砕かれても、切り刻まれても、それは止まらない。
散らばった魔石を拾う魔粘性生物が集まっていき、大型魔粘性生物はいつの間にか街の外壁より大きくなっていた。
魔法の爆炎も、攻城兵器の巨大な矢ですらもう魔石に届かない……
「どうすんの、これ……」
サイズ感バグってるどころの話じゃないよ。
今にも『その日、人類は思い出した』ってナレーションが聞こえてきそう……
二刀流の人類最強の男連れてきてよalmAぁ……
僕は浮かぶ多面体に無理なお願いをし現実逃避する。




