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ep15.リム=パステル防衛戦1

■後神暦 1325年 / 春の月 / 天の日 am 08:23


――リム=パステル 東門前


「来た……!!」


 魔粘性生物(スライム)接近の連絡を受けてすぐに東門に向かった。

 街道から、草原から、森から、無数にうごめく影が街に迫ってきている。

 想像より動きが速く、想像より気味が悪い。



「うわぁ……テラテラして気持ち悪いわね、ミーツェ」


 ティスが戦闘用サック(いつもの場所)から顔を出す。


「ね。なんかグロいよね……」



 魔粘性生物(スライム)は集団で襲いかかり相手を窒息させるらしい。

 確かにあんな数が街に入ってきたら大変なことになる。

 アレクシアの言った通り魔獣よりずっと脅威だ。



【メルミーツェ装備】

 ・爆砕槌(バーストハンマー)

 ・ポンプアクションショットガン(スラグ弾装填)

 ・焼夷(しょうい)グレネード

 ・アストナイトブレスレット

 ・注射器銃(シリンジガン)

 ・戦闘用(バトル)サック

 ・長距離無線機ハイパワートランシーバー


【部隊編成】

 メルミーツェ……研究者(サポーター) 変更不可

 オルカ……剣闘士(ソードアタッカー) フィジカルバフ要員

 グランド……槌盾(バトルタンク) シールド要員

 ビクティム……前衛銃士(バトルガンナー) 銃知識要員

 ヤオザンゼ……薬剤師(ケミカルサポーター) バフ要員

 ナハト……超常治癒士(サイキックヒーラー) 回復要員

 アウルオウル……医療治癒士(メディカルヒーラー) 食いしばり要員

 ロウェル……超常者(サイキック) クラウドコントロール要員


 装備も編成も対魔粘性生物(スライム)仕様。


 外皮とも言えるゲル状の液体を突破するパワー重視。

 それに事前に聞いていた火への脆弱性を突くグレネード、外壁で狙撃待機している双子や街に魔物が出ていなか巡回しているザックと連絡を取れる無線機。



 考えられる準備はした。

 そうして国軍も動き出したみたいだ。



盾士隊(じゅんしたい)前へ!! 魔弓隊(まきゅうたい)構え!!」


「征くぞ! 吾らの街を! 国を護れ!!」


 僕たち有志の戦力は狩人協会(ハンターギルド)と行動だ。



 ――アルコヴァンのために!!!!



 ムルクスさんの号令で狩人協会(ハンターギルド)も突撃が始まった。

 雄叫びは魔獣の咆哮が可愛らしく思えるほどの圧を帯び、駆ける足音は重なり地鳴りを轟かせる。



「ミーツェ! 俺らもいくぞ!」


 駆け出したアドにも対魔粘性生物(スライム)装備でチタン合金のマチェットに、焼夷グレネードを持てるだけ渡してある。



「生存第一なのに毎回戦うハメになるよね」


「良いじゃない、怖がりなのに大切な人の為に戦うのって貴女らしいわよ」


「そうなのかな。そろそろ僕たちもいこうか!!」


 almAに跨り魔物の群れに突っ込む。

 始めはしがみついて乗っていたalmAにも今ではハンマーを振り回しながら騎乗だってできる。


 ”空飛ぶおまるに抱き着く”姿から二年で随分と様になったと我ながら思う。



「almA!!」


 魔粘性生物(スライム)まで残り数メートルでalmAを急停止、慣性で勢いをつけて跳び上がり、爆砕槌(バーストハンマー)を振り上げる。


 柄についた引き金(トリガー)を引くと金槌の内部で爆発を起こし、(ひら)の片方から排出される爆風を推進力に変えてハンマーの振りを加速させる冗談みたいな武器だ。



爆砕槌(これ)の一撃は重くて速い、覚悟するといい……よっ!」


 魔石ごと魔粘性生物(スライム)を四散させる叩きつけは、勢い余って一回転してしまいそうになる。

 練習はしていたが今後の為にも、もっと慣れないといけない。



「しゃあぁっ!!」


 前方を進むアドも魔粘性生物(スライム)の粘性の液体を物ともせずに魔石を切り刻む。

 何度も狩りで見てきた彼の動きと比べ段違いに速い、きっと会っていなかった間に努力を重ねていたのだろう。



「蹴散らせ! 吾に続けぇぇぇ!!」


「嘘じゃん……素手で殴り倒してるよ……」


「よく触れるわよね」


 ムルクスさんの拳打は意味不明だった。

 衝撃が伝わるより速く拳を打ち抜いているのか魔石だけが魔粘性生物(スライム)から飛び出し粉々になっていく……どうなっているんだ?



 ――!!!!



 街の門から轟音が響き、複数の火柱が立つ。


 almAに倍率を上げた映像を映してもらうと、そこには……

 ドヤ顔で大砲のような魔導具をぶっ放すベリルさん、

 お札のような紙を飛ばし、火柱で魔粘性生物(スライム)を焼いていくウカノさん……


 狐人族は火を操る魔法が得意と以前言っていたがここまでとは聞いていない。



 ――大型が出たぞ! 火魔法隊、迎撃しろ!!



 誰かの声の方向には今まで相手をしていた直径1メートル程度の魔粘性生物(スライム)の3~4倍の大きさがある個体が複数……確かにアレにはハンマーも通らない。



「ミーツェ! 焼夷グレネード(これ)使うぞ!!」


「うん! 左は僕がやる!」


 原理は解らないけど燃焼材(ナフサ)を使うナパーム弾なんかよりよっぽど高温で燃えるアストライト製のグレネード……さぁ喰らうがいいよ。



 ――!!!!!!!!!



 爆発と同時に魔粘性生物(スライム)を炎が包む。



「すげぇ……」


「ねぇ……威力おかしくないかしら? 引くんだけど……」


「すごいよね、拠点で試したら大火事になりかけたんだよ」


「あたしたちの花畑で使われなくてよかったわ……」


 あんなに巨大だった魔粘性生物(スライム)の液体を蒸発させていく。

 ウカノさんの火柱よりは地味だけど、熱量は恐らくこちらが上だろう。



「でも数が足りねぇよな……奥にもまだでかいのがいるぞ?」


「大丈夫だよ、これくらいならまだ()()()()()()()()()()だから」



 ――!!!!



 大型魔粘性生物(スライム)が弾け、破裂するような音が少しだけ遅れて外壁から追いついてくる。

 もちろんオーリとヴィーだ。


 アトーメント・ノア(ゲーム)に登場する武器は機能やデザインは架空のもの。

 だけど銃器に関してはモデルにしたと予想できる銃がいくつかある。


 今回あの子たちに作ったものは全長2メートルを超え、大人が二人がかりで運搬するようなサイズと重量の対戦車ライフル、”エレファントガン”の異名を持つラハティL-39をモデルにしたと思われる銃だ。


 オーリとヴィー(あの子たち)が子供の手より大きな薬莢の弾を使う反動でケガをしないか心配だったが、パイロンさんが付き添うと申し出てくれたのでお任せした。



「しっかし……的がでかいっつっても、この距離でよく当たるよな」


「ヴィーは目が良いからね、それにパイロンさんってちょっとした幸運を呼ぶ魔法が使えるらしいよ、それもあるんじゃない?」


「インディゴの代表だよな、失礼なのは分かってるけどあの恰好どうなんだ? 孤児院の傭兵よりはマシだけど教育にわるくねぇか?」


 街の命運をかけた防衛戦だが、みんなのお陰で軽口を叩ける程度にはリラックスできている。

 大型魔粘性生物(スライム)もあの子たちの狙撃で数が減ってきた。


 この調子でここを制圧して街への入口を守る国防軍と合流できる、と思われたが……



 ――あぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!



 ギルドのハンターが悲鳴を上げる。


魔粘酸性生物(アシッドスライム)だ! 溶かされるから触れるなよ、猫の!」


 いや、手袋(グローブ)溶かしながら殴ってるムルクスさん(あなた)がそれ言いますか……?


「ムルクスさん、爆砕槌(これ)使ってください!!」


 僕とアドの武器はチタン合金製、鉄や鋼(この世界)の武器よりは腐食に強いはずだ。

 ハンマーを投げ渡し、ショットガンに持ち替えて魔粘酸性生物(アシッドスライム)と交戦する。

 恐らく黄色がかった色の個体がそれだろう。


 肌を焼き、肉を溶かし、金属を腐食させる魔粘酸性生物(アシッドスライム)にもスラグ弾のパワーは通用するようだ、これなら戦える!



「ミーツェ! ザックが街にも魔粘性生物(スライム)が何体か出たって言ってるわ!」


「おい! 門の前ヤバくないか? 押されてるっぽいぞ」


 大型魔粘性生物(スライム)を倒したと思ったら、魔粘酸性生物(アシッドスライム)が出てきて、魔粘酸性生物(アシッドスライム)に対処できると思ったら無線からザックの応援要請があって、更に門前の守備が突破されそう、と……まるで第2ウェーブがきたみたいに一気に形勢が傾いた……神様は意地悪だ。



「ここは吾らに任せろ! 狩人協会(うち)の者を何名か連れて街へ行け!!」


 ムルクスさんの指示に駆け出したアドをalmAに乗り追いかける。


 街へ行けと言われたが門前の国防軍も囲まれ、盾兵が辛うじて押し留めているようだ。

 どちらにも加勢が必要だし、このまま走っても間に合わないんじゃないか?


 ……使いたくないけどアレを使うしかない。



 ……”支援技能アシストスキル ラストスタンド”



 ゲームでは致命的なダメージを一度だけ耐える”食いしばり”を自身と味方に付与するスキル。

 この世界では気絶するような痛みに耐えられるようになる効果だった。

 実際に効果を確かめるのは勇気が必要だったけど、あの女との邂逅で踏ん切りがついて実験済みだ。



「……? ミーツェ、今なにしたんだ?」


「アド、覚悟してね……これ、()()()()()()()()から」


 リキャスト完了……よし、やるぞ……



 本当にやりたくない……痛いのは嫌なんだよalmA。

 浮かぶ多面体に乗った僕は駄々をこねたい気持ちを必死に抑える。

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