ep14.最悪の兵器
■後神暦 1324年 / 冬の月 / 星の日 pm 00:00
――スラム 酒造所
「あれからもうすぐ半年か、やっと完成なんだな!」
「そうだね、しかしこれは……」
襲撃の一件からスラムの作業場は大きく変わった。
壊された酒造所の修復、更にはレイコフさんの好意で新しい作業場なんかも増設された。
大変ありがたいことだ、けれど……
「洋風の隣に和風の建物って……どうなんだろうね?」
「洋風? 和風? わかんねェけどレイコフの旦那が建ててくれたんだ、かっけェじゃんか」
ザック……レイコフさんに会う機会が増えて『旦那』って呼ぶくらい慕うのは良いことだよ?
でもさ、このアンバランスさを『かっけぇ』で済ませるのはさすがに盲信し過ぎではないかな?
”お嬢”は心配ですよ?
「旦那と言えばよ、結局サファン見つかったのか? 冤罪騒動あと何日かして消えたっきりなんだろ?」
「うん、衛兵もモーヴの人たちも探してるけど見つかってないみたい。近隣には手配出されてるみたいだけど……」
「どこまで旦那の気持ち踏みにじりやがって……」
そう言ってザックが土を蹴った。
舞い上がった土煙の奥から子供たちがテテテと走ってくるのが見える。
「「ミー姉ちゃ~ん!!」」
「あ、ザックごめん、孤児院に知り合いきてるんだ」
苦々しい顔するザックには申し訳ないけれど、今日は外せない用事がある。
彼に別れを告げてオーリとヴィーと手を繋いで孤児院へと向かった。
――スラム 孤児院
「アド! 久しぶりだね!」
狂人女を警戒してティスと行動を一緒にすることが増え、あの子たちが寂しさから癇癪を起したことがあった。そのときにポータルからアドに助けを求めたんだ。
その時に『また来る』と言ってくれて、それが今日なんだよね。
「おう! 二か月ぶりくらいだな! しかしよ……」
ついてすぐにアドが近寄ってきて耳打ちをする。
(あの孤児院の警備の傭兵どうにかならないのか?)
(ボーナーさんとティットさん? いや、あの人たちちょっと特殊な体質でさ、子供相手にはそれが起きないから孤児院でくらいしか傭兵業ができないんだよ……)
狩人協会所属のボーナーさんとティットさんは常春のアルコヴァンの南、常夏の大陸から流れてきた狼人族の傭兵だ。
腕は良い彼らの二つ名は『パーティークラッシャー』。
数々のパーティーに所属し男女関係で崩壊させて付いた大変に不名誉な呼び名だ。
これは以前、二人と街の外へ行くことがあって、その時に僕も体験済みだ。
本当に地獄だった。
(だとしても子供にアレ見せていいのかよ……)
(ムッキムキのマッチョに『雇ってやってくれ』って迫られたらアドは断れる? 僕は無理だったよ……)
(なんだそれ? まぁたぶん俺も無理だ)
「まぁ、いいや。もうすぐ星喰いだろ? セルリアン一族の支援のお陰で村はほぼ立て直せたから、ミーツェが困ってたら助けてやれって親父も言っててよ」
「気にかけてくれてありがとう。あ、そうだ、アド今日はどこ泊るの? 前にウカノさんがまたいつでも泊って良いって言ってくれたし、僕たちのところにこない?」
「だなー、じゃあ……―」
――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
突然、爆発のような轟音が響く。
「おい! なんだ今の!? 雷か?」
「落雷にしては音が大きすぎない!? とにかく子供たちを孤児院に入れよう!!」
方向的に街の外からだけど、本当に何!?
隕石でも落ちたんじゃないの!?
~ ~ ~ ~ ~ ~
轟音が鳴ってから1時間くらいたったかな?
みんな落ち着いてきたね……アレクシアやザックたちは大丈夫かな?
そう考えていると孤児院の扉が勢いよく開けられた。
「ミーツェ!! いる!?」
「アレクシア!? 良かった、大丈夫だった!? モリスさんたちも無事?」
「えぇ、無事よ。ここに来る前にザックたちにも会ったわ、そっちも無事よ」
「よ、良かった~……でもあの爆発音、何だったんだろう?」
「……それについて説明するわ、一緒にきて」
アドに双子を任せて深刻な表情のアレクシアについていく。
どうも音の正体を知ってるようだが、着いたら説明するの一点張りだった。
――カーマイン商会 執務室
「きたな、嬢ちゃん……」
「アレクシアちゃん、迎えに行ってくれてありがとうです」
ベリルさんにウカノさん……言葉は落ち着いていても、ひどく焦燥的な様子だ。
「すぐに戻らないといけないから手短に話すです」
「あぁ、ヴェルタニアかヨウキョウか分からんが”怨弩”を撃ちやがった……」
「怨弩?」
「平たく言えばバカでかい弩砲だ……そいつを撃ち込まれた周辺は吹き飛ぶくらいの威力のな……」
「問題はそれだけじゃないです。怨弩が落ちた地域のマナは汚染されて”魔物”が大量に生まれてしまうんです」
周辺を吹き飛ばして汚染をまき散らす……噓でしょう……?
それって僕がずっとずっと警戒してた兵器だよ、まるで……
――核兵器だ……
くそ! くそくそくそっ! どうして今になってこんなことが起きるんだよ!!
「国を亡ぼせる威力の代わりに撃てる条件が狂っててな……
それに下手すれば自国に誤射する危険すぎる代物で、人道的にも弩はあっても矢を作ることを禁止してる国が多い、技術だって廃れてきているはずだ、なのに……」
「……条件ってなんですか?」
「人を……鏃にするんです……命を犠牲に飛ばす弩砲、それが怨弩です。
今、商会トップと議会員で今後の対応を議論していたんです」
狂ってる……
「議会員……報復で怨弩を撃てって言ってる奴もいてな。
それも止めないといけないが、それ以前に魔物が街に迫ってる」
「国軍や狩人協会も防衛に動くです。
ですが有志でも戦力を募らないといけないです……
子供のメルちゃんにこんなお願いをするのは間違いだと分かってるのですが、スラムの襲撃者を撃退したその力を貸して欲しいです……」
「…………」
狂人女を撃退はできていない、むしろ遊ばれたと思っている……
ウカノさんたちの期待している働きはできないかもしれない、それでも……
「……やります、僕も戦います」
リム=パステルに脅威が迫っているなら逃げたくない。
ここで生まれた大切な繋がりを捨てるなんて嫌だ。
「……すまん、感謝する。
魔物は魔粘性生物で2~3日で街のすぐ近くまでくるだろうと報告が入ってる。
俺たちは会議に戻る、アレクシア、後の説明してくれるか?」
「はい。ミーツェ、孤児院にみんなを迎えにいきしょう。その時に説明するわ」
執務室を出てスラムへ向かう。
あの場では聞けなかったが、最後にベリルさんが言った言葉が気になってしまいアレクシアに質問をする。
「あのさ、スライムって最弱モンスターじゃないの?」
「ゲームとかだとそうよね、でもこの世界の魔物は違うのよ……
ヴェルタニアにいたときに本で読んだけど、獣のマナが変質して生まれる魔獣とは違って、魔物は純粋にマナから生まれてくるの。
だからなのか単純に強かったり、凄い勢いで増えたり特徴はそれぞれだけど、魔獣よりずっと脅威とされてるわ」
「そうなんだ……」
「魔粘性生物も記述があったわ。
読んだ感じだと、見た目はわたしたちが知ってるスライムね。
魔石を壊せば倒せるらしいけど、それを以外は斬っても叩いても無意味らしいわ」
「じゃあ、周りの液体を突破して魔石を叩ければハンマーでも戦える?」
「できると思うけど、魔法で焼いたりするのが一般的みたい」
「そうなんだ……わかった、それ用の準備をするよ」
星喰いの日に合わせて魔物が襲撃してくるなんて神様に遊ばれてる気分だよ……
…
……
………
…………
孤児院でみんなと合流した後、僕は拠点に戻った。
時間がない……あと数日で狂人女対策で用意していた武器や元素値を対魔粘性生物用に最適化しないといけない。
核に酷似した兵器……ここが分水嶺なのかなalmA……
僕は答えが返ってこない浮かぶ多面体へ問いかける。




