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ep13.親の心、子知らず

■後神暦 1324年 / 秋の月 / 黄昏の日 pm 08:10


「俺らん家業は日陰者(ひかげもん)でも生きれるようにやってでぃ! だから認められなくても筋を通す為に意地張れってガキの頃から言ってんだろぅが!!」


 モーヴ一族の家業は娼館や賭場がメイン、それに金貸し。

 どれもこの国の法には触れないラインで経営をしているが、それでもダーティな印象を持つ人が多い。


 ただ、そういった世界でしか生きられない人もいる。

 モーヴ当主はそういった人々が本当に深いところに堕ちていかないようにしているとバリスさんが指令所(ここ)への道すがらに語ってくれていた。


 バリスさん(拾った子供)はその心を理解できて実の子供は理解できないなんて皮肉な話だ。



手前てめぇは図体と見栄ばっかりでかくなりやがって……そうじゃねぇと何べん言わせんだ!? 死んだ母ちゃんに申し訳なく思わねぇのか!?」


「うるさい! 私は産んでくれと頼んでいない! 父様(おまえ)こそ親なら責任を果たせ! 子供守るのは親の義務だろう!?」


「バカ野郎が……」


 何をいってもサファン(この男)には響かない、これ以上は諭しても不毛だ。

 この場にいた全員が思っただろう。


 見かねた衛兵隊長が、話を強制的に終わらせサファンを拘束、今回の一件は終結となった。

 残念だけど、モーヴ当主の気持ちは息子に届くことはなかった。



水銀(どく)のことを最後まで言わなかった親心に気づかないなんてバカだよね……」



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



 ――インディゴ商会経営の酒場 VIPルーム



「どうしてこうなった……?」


 この(くだり)何回目?芸人でも天丼のやり過ぎは怒られるよ……



「あの……僕、子供たちを待たせてるので帰りたいのですが……」


「大丈夫ですよ、アレクシアちゃんにお世話お願いしたので邸宅(うち)に居るはずです」


「あの……ザックたちも心配なので……」


「大丈夫ですン、インディゴ商会(うち)が経営している宿に今日は泊めていますン!」


「あの……モーヴ当主様も病み上がりですし……」


大丈夫(でぇじょぶ)だ、この通りぴんぴんよ! それにレイコフでいい、今回は迷惑かけちまってすまねぇな」


 今回の件で起きた被害について商会同士の事後処理、つまり賠償などの話をするらしい……が。


 それならどうして酒場(ここ)でやる必要がある?

 そしてどうして一般人(ぼく)がいる……?



「子供がそんなこと気にすんな!」


「そうだぞ! 吾と力比べするか!?」


 ねぇ、どうしてベリ()ルさ()んと()ムルク()スさん()までいるんだ?



「本題ですが、私たちは壊された酒造所の再建の費用を持ってもらえればそれでいいですよ」


「幸い人的被害はなかったですン、それにレイコフさんの知らないところで起こったことですン」


「それじゃあそっちが間尺(まじゃく)に合わねぇだろ。あんなんでも(せがれ)だ、子の始末は取らせてくれよ」


「んー……ではメルちゃんから何かあります?」


「はい? どういうことですか?」


「ミーツェンは酒造所の工場長ですン」


 聞いてないけど……そうなの?

 それに工場長って……そこだけ呼び方が現代的じゃない?


 うーん、でも……この場で何かを要求できるならレイコフさんには酷だけど一つだけある。



「……スラムの人たちが攫われて娼館で働かさせてるようです。

 望んで娼館で働いていない人たちの解放と補償をお願いしたいです」


「あのバカ……そんなこともやってたのかい……すまねぇ、本当にすまねぇ……」


 ”テラス”を編成なんかしていなくても分かる。

 悲痛な顔をするレイコフさんからは強い悲しみや後悔の感情が漏れていた。


 しかし怒りの感情は一切ない。

 愛情を注いで育てた息子がああなってしまって、ただただ悲しいのだろう。



『親の心、子知らず……か……』



 思わず日本語で口に出してしまった言葉は、誰に聞かれることもなかった。

 前世の僕の親もこんな気持ちだったのだろうか……

 恩を返すこともできずにあんな死に方をしてしまったことにチクリと胸が痛んだ。



「まぁ……なんだ、レイコフさんも復帰したんだしよ、サファン(あいつ)が罪償って戻ってきたときにまた一から指導してやりゃいいじゃねーか」


「吾のところに預けてもいいぞ! 健全な精神は健全な肉体からだ!」


「話の大枠も決まったし飲むです! 細かい金銭的なことはまた後日ですね」


「気持ちが沈んだときは美味しいお料理を食べる、これですン」


 ヤバい人の集まりだけど、一族のトップたちは本当に仲が良いな。

 きっとヴァージャ商会のシンディさんとも同じような関係なのかもね。

 この場にはいないけど、むしろいたら酒場でビクンビクンする妙齢の羊人族が容易に想像できる……

 たぶん、それがあるから呼んでないんだね。


 魔導具狂人、商魂の化身、土下座バニー料理人、脳筋ギルド長、超敏感肌、ヤバい人の中でレイコフさんは唯一まとも。



 と思ったが違った……



 ベリルさん曰く、蟒蛇(うわばみ)なうえに賭け狂い。

 自分の経営する賭場で手持ちがなくなり、最後は服まで賭けだしたらしい……

 賭場の人たちの心中を察してしまう……今もベリルさんとチンチロリンをやっている。

 ……どこからそれ持ってきたんですか?



「では僕はこの辺でお暇(おいとま)させていただきます……」


「何を言っている! こっちで吾と力比べだ!」


「マジで勘弁してください……」


 …

 ……

 ………

 …………


 ――ウカノ邸 客間


「ミーツェ!? どうしたのよその腕!!」


「あー……腕相撲(ちからくらべ)で叩き折られた……」


 僕の編成はゴリゴリの近接戦闘向きにしていた。

 衛兵隊の指令所には武器を持ち込めないと思ったからだ。


 それでもこの様……UMTを置いて出てきてしまったので、ぷらんぷらんの手首と肘と肩で帰ることになった。


 まずそもそも、腕の全関節を脱臼させられる状況が理解できない。


 酔ってるからって子供(の体)相手に魔法まで使うなんて、僕じゃなきゃ骨まで粉砕されてるよ?

 青少年保護団体はキングゴリマッチョを許すな……


 ちなみに腕はアレクシアに治してもらった。



 転生者って俺TUEEEEできるものだと思ってたよalmA……

 僕は浮かぶ多面体に泣きつく。

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