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ep8.商会トップはやっぱりヤバかった

■後神暦 1324年 / 秋の月 / 獣の日 am 10:20


 スラムで酒造が成功してからそろそろ三か月が経つ。

 残念なことに攫われた人たちについては、未だ助けることが出来ずにいる。


 ただ、悪い事ばかりではない。

 あれから新しい作業場が建ち、売り上げのマージンも貰え自由にできる資金ができた。


 しかし、いつか孤児院を作りたいと呟いたら「協力しますン!!」と泣きながら迫ってきたパイロンさんの押しに負けて、”いつか”ではなく”すぐ”作ることになり資金の大半が飛んだ……


 国内最高の商会が持つ資金力を基準で物事を考えるのは勘弁していただきたい……



 でもスラムの子供たちが空腹に泣かず、寒さに震えず、大人から教育や愛情を受けられるのは良い事だ。

 本来そうあるべきだと思う、だからやっぱり”すぐ”に建てて良かったんだ、後悔はない。


 紆余曲折はあったけれど、今日はいよいよ狩人協会ハンターギルドへスラムから正式に依頼を出す日。

 ザックたちが中心になって大人を巻き込みスラムで働く者で組合のような組織をを立ち上げ、ギルドへ依頼できるよう資金を出し合った。


 今はまだ小規模でもいつかその流れは大きくなってスラムはスラムと呼ばれなくなる日がくるかもしれない。



「お嬢~! 時間だぞ、ギルドにいこうぜ!」


「ザック……いつも言ってるけど、僕にお嬢って変じゃない?」


「雇い主だからな、敬意は払うだろ?」


「払い方間違ってるし雇い主はウカノさんだから……」


 メルミーツェ(このからだ)にすっかり慣れてしまって、僕の中の男性は枯れてしまったのでしょうか……

 もう「嬢」と呼ばれても少しの抵抗感しか感じません。


 アイデンティティの一つが消えゆく儚さを感じつつ、ベリルさんと合流しギルドへ向かった。



――狩人協会ハンターギルド本部前



「ここだ、俺はムルクスを呼んでくるからお前らは中で待ってろ」


 ベリルさんを先頭にギルドに入る。

 そこに広がる光景は、まさにファンタジー……!


 目の前に広がるのはテーブルで待機するベテランハンター、

 依頼を張り出すボードで依頼を吟味するパーティ、

 そして、腕っぷし一本でのし上がる荒くれたちを転がす受付嬢……!!



 ……ではなく…………



 多数のトレーニング器具、そしてそれに勤しむ屈強なマッチョたち。

 ……受付嬢くらいしか想像と一致してないんですが?


 木製の内装に妙に現代的なトレーニング器具に違和感しか感じない、ただただ怖い。

 ダンベル、バーベル、プレス……誰だよ? こんな知識持ち込んだの?


 僕の中で消えゆく男性の感覚はこんなものは求めていません。



「待たせたな、こいつがマシコット一族の代表で狩人協会ハンターギルドの長のムルクスだ」


われがムルクス=ウルス=マシコットだ! 汝が依頼主か! スキニーから見た目から想像できない怪力と聞いているぞガハハ! どうだ、吾と力比べを興じぬか!?」


 ラットスプレッドのポーズに弾ける胸元のボタン……



「いえ、勘弁してください……あと依頼主はザック(こっち)です……」


 オーリとヴィー(あの子たち)を連れてこなくて本当に良かった……教育に悪い。

 ティスもきっとドン引くだろう……


 ムルクスさんの種族の熊人族ゆうじんぞくは膂力が強い上に肉体を硬化する魔法が得意だそうだ。

 力比べなんて冗談じゃない、死んでしまいます。


 依頼も無事(?)に受領され、ベリルさんと別れた。

 次はスラムで働く人たちの作業着と孤児院の子供たちの服の発注だ。

 僕たちは削れた精神力に鞭打って、ヴァージャ商会の仕立て屋へ向かった。


 今度の同行者ははウカノさんとパイロンさん。

 今更だけど、そもそも代表に会う必要はあるのだろうか?


 コネができるのはありがたいけど、僕もうムルクスさんでもうお腹いっぱい……

 次の代表は普通であって欲しいよ。



「あ、シンディさんには絶対に触れちゃダメです。大変なことになるので気をつけるですよ?」


「常軌を逸した敏感肌なんですン」


 フラグでしょうね。

 案の定、ザックがうっかり手に触れてしまい、店内でビクンビクンしてる羊人族ようじんぞくの女性の姿がそこにあった。

 何度でも言うがオーリとヴィー(あの子たち)を連れてこなくて本当に良かった……


 そして妙に体に触れてくる店員さんに恐怖を覚えつつこちらも無事(?)発注が完了した。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1324年 / 秋の月 / 獣の日 pm 05:00


――スラム 酒造所


「つ……疲れた……」


「お嬢……オレさ、ずっと商会の代表たちってモーヴ当主みたいな人たちばかりだと思ってたんだ。

だって街の顔役みたいなもんだろ?」


「そうだね、そうだったら良かったのにね……」


 スラムに戻ってきた僕たちは壁にもたれ座り込む。


 経営者や天才はどこか常人と違って、言ってしまえばネジが外れてるとは思うけど……アレらはその枠からも外れてる気がする、ザックの気持ちはわかるよ。


 そうして、なんとも形容し難い疲労感を抱え帰路についた。


 …

 ……

 ………

 …………


 雑貨屋にティスたちを迎えにいき夕飯を食べ宿へ戻る。

 この時間が日中に削れ切った精神を癒してくれる、本当に感謝だ。


 そんなことをしみじみ思っていると……



 ――お嬢っ!!



 宿まであと少しのところで呼び止められる、ザックの仲間の一人だ。



「酒造所がヤベェ! 多分モーヴのやつらが乗り込んできて暴れてやがる!! ザックが相手してんだけど、とにかくお嬢に伝えないとって思って!!」


 ……は? 嫌がらせでそこまでする!?


「ティス、僕スラムにいってくる! この子たちお願い!!」


「あたしたちもいくわ。

ミーツェが危ないところに行くって分かってて待つだけなんて嫌よ」


「……わかった。装備整えてすぐいこう!」



 絶対止めるよ、almA!!

 僕は浮かぶ多面体に積めるだけ武器を積む。



【ムルクス イメージ】

挿絵(By みてみん)

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