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ep6.スラムのこどもたち

■後神暦 1324年 / 夏の月 / 黄昏の日 pm 11:00


――スラム入口


「怖っ……」


 歓楽街で出会った鼠人族の男の子はスラムで姉と二人暮らし。

 しかし、姉が数日前に突然いなくなってしまったそうだ。

 事情があってスラムへ戻ってきた女性から歓楽街で姉を見たと聞て飛び出したきたらしい。


 手当たり次第に目に付いた店を訪ねていたら乱暴に追い出され、その後に僕が通りかかったみたいだ。

 子供特有のたどたどしい話だったけど、彼が言いたいのは多分こうだと思う。


 そうして、緊張が解けて眠ってしまったこの子を送り届ける為にスラムまで来たんだけれど……


 街灯は極端に少なく建物は無秩序に立ち並び、物陰から何かが襲いかかってきそうな、そんな雰囲気が入口からでも感じる……


 よそ者が踏み入って無事に戻れるかな……?

 でも、この子は放っておけない。



「うん、仕方ないよね……よし、いくぞっ……!」


 独り言で自身を鼓舞し、スラムに踏み入り最初の角を曲がったところで……絡まれた……

 前世の行ってはいけない海外の観光地もビックリの治安の悪さだ……


 嘘でしょう……?

 こんなに危ない場所に子供が住んで大丈夫なの……?


 ガラの悪い鼠人族の男が五人……戦うにしても寝てるこの子を守りながらはキツいかも……

 ……どうしよう、入口まで逃げる?



「おいっ! そのガキどうするつもりだ!?」


 リーダーっぽい男が口を開く。


「……え? 倒れてたから家に送ろうと思って……―」


「ウソついてんじゃねェ!!」


 聞いてきたクセに話を聞かずに襲いかかってきた。


 ハンマーは置いてきたし、銃はあるけど……ここで撃ったら騒ぎになる。

 残るは挌闘戦……拳闘士(マーシャルファイター)の”ティリス”を編成していて良かった。


 両手をだらりと脱力し、身体を上下に揺らす。

 ”ティリス”はゲームでは回避特化の前衛だ。



「モーヴのガキが! ガキのクセに人攫いなんかしてんじゃねェぞ!!」


 ……ん? なんか勘違いしてない?

 でもダメだ、むこうはきっと話し合う気はない。

 躱しながら話すしかない……



 ――”戦闘技能コンバットスキルダンス・ウィズ・ミー”



 確率回避のパッシブスキルを持ってる”ティリス”の回避率を更に上げて、回避成功後の攻撃に倍率を乗せるアクティブスキル、効果時間も300秒と長い所謂タイマンスキルだ。


 男たちの動きがよく視える、まるでナイフの軌道を先読みするように体が動く。



「ねぇ、聞いて! 本当に歓楽街で倒れてたこの子を送りにきただけだよ!」


「うるせェ!! おい! あのガキ取り戻せ!!」


「almA! 守って!!」


 襲いかかってきたリーダーっぽい男以外の四人が一斉に保護した子供に向かうが、almAが文字通り壁のようになり四方から迫る男たちを弾き飛ばす。

 殺してはいない、almAは僕の気持ちをいつも汲んでくれる。


 だけど眠って動かない子供を守りながら、且つ相手を傷つけない迎撃は無理があったようだ。

 一人に組みつかれた隙に子供を奪われてしまった。


 マズいね、早くあの子を取り返さないと……!


 リーダーっぽい男の刺突を身体を真横に向けるように避け、ナイフを突き出して伸びきった腕にストレートを放つ。

 恐らく骨が折れたであろう嫌な感触が拳に伝わる……だから挌闘戦は嫌なんだ……


 続けて子供を抱えてた男へ走り、体制を下げて脇腹に拳を叩きこみ子供を奪い返す。

 残りの三人はalmAが抑えていてくれたようで距離をとった僕の近くに戻ってきた。



「う……むぅ……おねえちゃん……ここスラム?」


 これだけ揺らされたらさすがに起きるよね、うるさかったし。


「おい! お前、広場の西に姉貴と二人で住んでたガキだろ!? 助けてやるからこっちこい!!」


「……? もうおねえちゃんに助けてもらったよ?」


「……は?」


「いや……だから言ったでしょ? 歓楽街で倒れてたから助けたんだってば……」


 …

 ……

 ………

 …………


 誤解も解けて男たちから謝罪を受け、彼らの傷をスキルで治した。

 それにしても初めてアドに会った時と状況がそっくりだ……僕ってそんなに不審か?

 ……なんだかとっても悲しい。


 腕を折ってしまった男はザックと名乗った。

 純粋な正義感から最近スラムで起こっている人攫いを捕まえようと夜間に見回りをしていたそうだ。

 ちょっと直情的だけど見た目の割に善人なのもアドに通ずるところがあって好感が持てる。



「僕が言うのは変かもしれないけど、子供だけで見回りって危険じゃない? ザックだって成人前でしょ?」


「もう17だ、来年成人だし大人でいいだろ。

それに一発かすり傷でも当てりゃ腐化で致命傷にできるからな。お前にゃ当たらなかったけどよ」


「……え?」


 ザック曰く、相手の体に触れれさえすれば傷を腐らせることもできるらしい。

 ……なにそれ、そんな即死チートみたいなのと戦ってたの……?



「僕のこと”モーヴのガキ”って言ってたのは?」


「モーヴ一族は知ってるだろ? 歓楽街の娼館はほとんどあいつらの店なんだわ。

最近そこでぶっ壊されて働けなくなってスラムに戻ってきた女がいるんだけどよ、そいつが言うにはスラム(ここ)で見たことある女や子供を娼館で見たんだってよ」


「それが攫われた人だったってこと?」


「あぁ、そこのガキの姉貴も見たらしいぞ」


 男の子から聞いた話と合致する、と言うかきっとこの子が聞いたのはこの話だったんだろうね……



「モーヴの当主は鼠人族(オレたち)にも目をかけてくれて物事に筋を通す最高にカッコいい人だったのに、今モーヴを仕切ってる息子はクソみてェな奴だ……

娼館の女を壊したのもそいつだしよ……でも攫った証拠がねェ」


「サファンだっけ? カーマイン(うち)の店にもきて因縁つけてきたよ」


「そう、そいつだ。

オレらは街じゃ嫌われ者だからな、衛兵だって人攫いのことをまともに聞いてくれねェ……

だったらオレらがオレらの仲間守るしかねェだろ? 今までだってそうしてた」


 正論だけど、それで良いんだろうか……権力はときに暴力より強い力だ。


 ザックの腐化は一撃必殺みたいだけど、もし人攫いを捕まえても揉消されたりしないだろうか?

 もし殺してしまった場合、ザックたちが不利になるんじゃないだろうか?

 権力ちからを振りかざしているのがクズなら尚更だ。


 だったら同種の力をぶつけるべきだ。



「明日、セルリアン商会にいく用事があるんだ、その時に代表に相談してみるよ。

だからザックも無理はしないで捕まえることより、周りを守ることを優先して?」


「……わかった。なぁ、なんでお前はオレらの話を聞いてくれんだ? 初対面だろ」


 なんで、か……前世で僕はずっと誰かに助けて欲しいって願っていた。

 理不尽に自分で立ち向かう勇気はなくて、力もなくて……

 だからあの時に”もしこんな人がいたら”と妄想した理想を演じてるのかもしれない。



「……なんでだろうね? わかんない」


 その場は笑って誤魔化してまた後日結果を伝えにくることだけ約束して宿に戻った。

 ほぼ朝帰りしたことにティスには怒られアレクシアには茶化された……



 明日はきっと寝不足だろうけど頑張ろうね、almA……

 僕は浮かぶ多面体を撫で、短い眠りについた。



【ザック イメージ】

挿絵(By みてみん)

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