ep2.まさかの出会い
■後神暦 1324年 / 夏の月 / 星の日 pm 03:40
リム=パステルに無事に到着し、スキニーさんは護衛完了の報告のために街の入口で別れた。
別れ際にオーリとヴィーにダブルバイセップスのポージングで挨拶をしていった。
うちの子に変なこと教えないでください。
それにしても通行税って思ってたより全然高かったんだけど……
もしかして道中の食事は現地調達させるつもりで食費をいれてなかったんじゃない?
実際、狩りはしてたけど……ちょっとだけ恨むよ、村長……
がっくりとする僕にモリスさんが言った。
「ミーツェくんはこれからどうするんだい?」
「取り合えず今日は宿を探して、明日にでもセルリアン様へツーク村の報告できればと考えています」
「そうかい、なら家にこないかい? 娘にも紹介したいしね。
それに娘の料理は絶品だぞ、あの子は天才でその上料理もできて、更には街一番の美人なんだよ!
それにね…………」
娘さんのことになると人が変わるね……ちょっと目がヤバい。
確かに僕もオーリとヴィーを褒められた嬉しいから共感できないことはないけど。
……これが父性、いや母性なのかな?
「おっと、すまないね。娘のことになるとどうも歯止めが利かなくてね、ははっ」
「娘さん想いで素敵だと思いますよ。じゃあ今日はご厚意に甘えさせて頂きます」
「それじゃあ家に行く前に店に寄らせてもらうよ、商品を卸して馬車も戻さないといけないからね」
しばらくするとモリスさんの雑貨店が見えてきたようで「あそこだよ」と指を指すが店の前に人が集まっている。
「なんか人だかりができてますけど、揉め事なんじゃないですか?」
「かもしれないね、うちの娘は文武両道だから大丈夫だとは思うけど少し急ごうか」
「僕先に行って見てきます、この子たちをお願いします」
almAに乗り、店のすぐ近くまで近づくと男女の言い争いが聞こえてくる。
「連日うちの従業員につき纏って因縁つけることにどんな正当性があるのよ!!?」
「この女は私に無礼を働いた! それもモーヴ一族が支配している場所でだ! 受けた侮辱は晴らさなくてならない! ここで手をついて詫びろ!!」
「支配ってバカじゃないの!?
それにあんたの話に合わせるならこの店はカーマイン一族の支配してる場所よ!
あんたが好きにできる場所じゃない!」
おぉう……やっぱり揉め事だね。
でっぷりとして腰に刀を差した偉そうな猫人族っぽい男に取り巻きが二人。
一人は猫人族だって分かるけど、もう一人はなんだろ? 角が生えてるけど……
それにこの世界に刀ってあるんだね。
「なんだと……! このクソアマぁぁ!!」
あ、ダメだ、あいつ刀抜きそうだ。
言い争いをしていた二人の間に割って入り、ハンマーを男の刀の柄に突きつける。
「お店で、しかも女の人相手に武器抜こうとするとかイカれてるですか?」
勢いで出てきちゃったけど3対1は分が悪いかもしれない……
almAもいるし、最悪の場合でもこんな街中で殺されはしない!
……よね?
「なんだガキ、何様だ!」
「お客様ですけど?」
なんかこいつムカつくな。
よし決めた、戦うならもし負けてもこいつだけは絶対ボコそう。
「私はヨウキョウに武術を習う為に留学し、あの”紫電一刀流”を極めている。お前みたいなガキでも聞いたことくらいあるだろう?」
「いや、知らないけど?」
「クソガキぁぁぁ!!!!」
キレやす過ぎでしょ……煽り耐性ないのかな?
どうしてかわからないけど、取り巻きたちは動く気配はないのは都合がいいね……
よしっ、いくぞ!!
――お待ちください!
モリスさんが追いついたようだ。戦わずに済んで助かった。
それにしても言葉こそ丁寧だけど表情から怒りが窺える。
当たり前だ、自分の店でこんなことをされて怒らない店主はいない。
「娘に武器を向けようとするとはどういう事ですか!?」
そっち!?この店員の女性が娘さんだったんだね……
「衛兵を呼びました、いくらモーヴ一族の当主代理でも店で武器を抜けば衛兵に捕まり司法で裁かれますよ?」
返す言葉がないのだろう、当主代理と言われた男は取り巻き立ちを連れ悔しそうに引き下がっていった。
溢れ出す小者感は失笑ものだ。
意外だったのは取り巻きの一人、種族がわからない角の生えた男がモリスさんと娘さん、それに絡まれていた店員の女性に丁寧に謝罪をしていったことだ。
主とは正反対だね、なんであんなの奴の取り巻きしてるんだろ? 訳アリ?
男たちの背中を見送っていると信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
――『****のチキン野郎……』
……!!?
聞こえた、小声で無意識に発したであろう言葉が確かに聞こえた。
この世界ではもう聞くことはないと思っていた言語。
日本語だ……しかも古いネットスラングまで使っている。
え、待って、じゃあモリスさんの娘さんって……
「アレクシア!! 大丈夫だったかい!? まさか絡んできていたのがサファン殿だったとは思わなかった! いつものお前なら大丈夫だろうと遅れてしまった愚かなパパを許しておくれ!!」
「大丈夫よ、お父さん。それにそこの白髪の女の子が助けてくれたから」
「あぁぁあぁ! パパと呼んでくれないなんて、やっぱり怒っているんだね!?」
「怒ってないわ、それにパパって呼んでたのは子供のころでしょ?」
モリスさん……お客さんも僕たちもドン引きしてるから止めよう?
娘さんとの温度差にこっちは凍死しそうだよ?
「ありがとう勇敢なお嬢さん」
金髪碧眼に整った顔。
言い争ってたときとは別人のような笑顔は誰もが振り返りそうだ。
モリスさんが言ってた街一番の美人は親の欲目じゃなかったね。
偏見かもしれないけどこんなハイスペック、絶対ヒロインキャラでしょ。
確かめてみよう……
『いいえ、ご無事で何よりです』
日本語で返すと娘さんの笑顔は驚愕の表情へ変わった。やっぱりだ。
まさかこの世界で同郷の人に会うとは思っていなかった。
「ミーツェくん、紹介が遅くなってしまったね。
この子が私の娘、アレクシアだよ。アレクシア、こちらはメルミーツェくん、街に戻る途中で魔獣に襲われてるところ助けてもらってね、目的地が一緒だったから今まで護衛してもらっていたんだよ」
「初めましてアレクシア=リュミエルです、父がお世話になりました」
「メルミーツェです、こっちは妖精族のティスタニアで、この双子の子たちは男の子がオリヴァ、女の子がオリヴィです。こちらこそモリスさんには色々なお話を聞かせて頂き、とても有意義でした」
「ミーツェくんたちはセルリアン商会に用事があるそうで今夜は家に泊まっていってもらおう思うんだ、いいかな?」
「えぇ、大歓迎よ! 色々とお話ししたいわ……」
~ ~ ~ ~ ~ ~
――同日、夜
モリスさん宅での夕食後、事情を話しておいたティスに子供たちを任せ、アレクシアさんの部屋に向かった。
「いらっしゃい、日本人に会うなんて思わなかったよ……
ねぇ、この世界にきてどれくらいになるの? あとその姿、やっぱり何かのゲームキャラ?」
「1年ちょっとです、身体はスマホのソシャゲのキャラですね」
「タメ口でいいよ、それにスマホ? それはちょっと分からない……新しいゲーム機? わたしが死んだのは2005年でそれ以降のものは知らないんだぁ」
そこからは日本の話題が続いた、彼女が亡くなってからの技術の進歩やニュースで話題になったこと、彼女が愛読していたマンガの続き、など……
特に彼女は前世は高校生だったそうで現代の携帯電話の進化、SNSやゲームについて関心が高かった。
スマホで出来ることや、某メーカーのゲーム機のナンバリングが5まで出ていることを話した時は死んだことが心底悔しそうな顔をしていた。
「18年でそんなに変わるなんてすごいね! それで貴女は前世は? いくつの時に亡くなったの? 高校生で事故とか?」
「……いや、30超えてるよ……色々あって働けなくなって餓死した……中身は男だよ…」
……やっぱり引くよね……無職でおっさんだもんな……
「なんだぁ! じゃあわたしが生きてたらほぼ同年代じゃない? 女の子の身体に生まれ変わったとか男女どっちも経験できて得してるね!」
ニカっと笑う彼女に自分の卑屈さが少し恥ずかしくなる。
彼女は中身もゲームや物語のヒロインのようだ。
「……そうだ、アレクシアはゲームのキャラなの?」
「あー……そう、前世で最後にやってた乙女ゲーのヒロインだね……
この世界ってさ、ゲームと世界観全然ちがうけど、攻略対象はいたみたいでさ……
シナリオ通りになるのは絶対嫌だったからヴェルタニアから逃げてきたんだ」
「どうして? 勝手な想像だけどイケメンとハッピーエンドとか女の子好きじゃない?」
「いや、わたしも普通の乙女ゲーだったありだと思うよ?
ただ最後にやってたのがヤバかったのよ……マジで前情報なしで買うんじゃなかった」
彼女が言うにはギャップをテーマにしたゲームらしいが、制作陣の正気を疑ってしまうような設定のキャラクターばかりだったとか。
「爽やか優等生が実は粘着質なストーカーだったり、俺様男子が実はドМだったり、
インテリイケメンが超ナルシストで『ご覧、本当に美しい湖と思わないか? 特に水面に映る僕が!』とか言われてときめく?」
なにそれニッチすぎるだろ……
「絶対ときめかないね……」
「でしょ? まさかそのヒロインに生まれ変わるなんさぁ……唯一の救いはヒロインは規格外の治癒魔法と浄化魔法が使えるってことくらい、この世界では試してないけどゲームでは身体の欠損も治せるし、治せない病気もなかったの」
「それ多分使えるよ、僕は色々試す機会があったけどゲームで設定されてることは大体できた。それと僕たち以外にも転生した人っているのかな?」
「多分いるよ。アルコヴァンの西側にある山脈を超えたことろは年中冬らしいんだけど、そこから伝わったお酒でウォッカがあるの、しかも80年くらい前らしいよ」
「ロシア人の転生者ってこと?」
「わかんないけどね。わたしたちだけってことはないと思うよ」
その後はアレクシアにヴェルタニアについてや、この世界の文明レベルについて転生者の視点からの意見も交えて教えてもらった。
魔石の用途についてはツーク村で教わったときと同様、魔導具に使う以外には詳しく知らないそうだけど、明日僕が向かうセルリアン一族の商会は魔導具を作成、販売を主力とした商売をしているらしい。
報告のついでに話が聞ければいいな。
あの兵器の技術がなければいいけど……
セルリアン一族への報告が終わったら仕事も探さないとねalmA。
僕は多面体を引き寄せて固めの抱き枕にする。
【アレクシア イメージ】
【リム=パステル商店街 イメージ】
◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇
お読み頂きありがとうございます。
今回登場したアレクシアが主人公のお話を書き始めました。
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【ヒマを持て余した神々のアソビ~アレクシア転生記~】
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