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ep1.リム=パステルへ

■後神暦 1324年 / 夏の月 / 海の日 pm 00:50


 ツーク村を出発してから今日で4日目、リム=パステルまでは天候にもよるが馬車で10日前後かかるらしい。


 僕たちが乗るのは、馬とは違い、疲れ知らずのalmAが牽引する小さな荷車。

 夜間もポータルから拠点に戻るので荷物も最小限。

 余裕をもって景色を楽しみながらの旅でも、そろそろ目的地に到着するくらいには順調だろう。


 今回の目的は三つ。


 ・魔石の用途の調査。

 ・島に移住したシエル村の人たちが生活向上に使えそうな物の調達。

 ・村長に頼まれたセルリアン一族への現状報告。


 魔石がどういう認識がされているか分かってきてはいるけれど、最先端であろう都市部ではどう扱われているかは確認しないといけない。そもそも旅に出た目的だしね。


 シエル村の人々についても僕の目覚めた島へ移住させた手前、「あとはよろしく」とするのは気が引ける。

 とは言え植物の苗なんかは拠点では作れないし、道具だって無限に作れるわけではない。

 ある程度この世界の既製品で揃えないと。


 最後にセルリアン一族への報告……本来なら村長かアドが報告するのが筋だけど、

 スタンピードの被害で人手が足りないうえ、今回の襲撃で混乱したツーク村は長期で陣頭指揮をとるトップが不在になるのは好ましくないらしい。


 報告を二か月も遅らせたのはシエル村の移住が完了するのを待ってたみたいだ。

 預かった報告の書状の中身は見ていないけど、モーヴ一族の余計な干渉を避ける為、移住のことは伏せて村自体が壊滅したことにするそうだ。


 うーん、中々に政治的。政治は清廉潔白だけではできないって誰かも言ってたよね。



「ミー姉ちゃん、あそこの人おそわれてる」


 ヴィーが遥か前方を指さす……が全く見えない。

 平原で視界が開けてるとはいえ、almAの索敵範囲より広い視力ってどうなってるの?

 いやいや、今考えるのそこじゃない。


 何に襲われてるか分からないのは不安だけど、知ってしまった以上無視はできない。

 何よりそれはこの子たちの教育的にも良くない。



「助けるよ! almA、速度上げて! ある程度近づいたら止まってオーリとヴィーはライフルで狙撃して、ティスは僕といこう」


「「「わかった(わ)」」」


 僕でも遠目に視認できるまで近づいたことろでティスと荷車を降りてalmAに乗る。



「ティス、助けた人が善人とは限らないし銃はギリギリまで使わないつもりだから後ろの警戒はお願いね!」


「えぇ、任せて!」


 残った二人は魔法で姿を消して、更に音を減衰させるいつもの狙撃スタイル。

 襲っている者もこれから助ける人も何が起きたか解らないはずだ。


 更に近づいてようやく状況が見えてきた。

 魔狼が5頭、両手斧を持った男が一人、武器を持っていない一般人っぽい男が一人。


 あれ? あまり苦戦してるようには見えない……いや、ここまで来たら加勢しよう。

 魔狼とは戦闘は慣れたものだ、それに向こうもこちらに気づいてない。


 あまり手の内を見せないように、派手じゃなく且つ威力のあるスキルで先制攻撃だ。



 ――”戦闘技能(コンバットスキル) ブレイクインパクト”


「んんっしゃーっ!」


 almAに騎乗したまますれ違い様にハンマーで魔狼を斜め上に打ち上げる。

 回転率が高く、威力が上がる以外にコレといった特徴のない強撃スキル。

 今の状況にぴったりだ。



「ミーツェ! 後ろからきたわよ!」


 ティスの声にすぐに切り返し、再度魔狼へ突進する。

 リキャストタイムはもう上がり、同じスキルをお見舞いしてやった。


 どうも標的をこちらに変えたようだが悪手だ。

 それまで戦っていた男から離れたことで射線が通った。


 双子の狙撃が間髪いれずに飛んでくる。

 残りの魔狼は頭を撃ち抜かれ瞬殺だ。うちの子って凄いよね。


 さて、取り合えず加勢したけど……相手はどう出るかな?


 両手斧を持った男が近づいてくる、大柄で寡黙そうな正に戦士といった風貌……



「いやぁありがとな! お嬢ちゃん、ちっこいクセにスゲー怪力だな! いいぜ! すごくいいぜ! 筋肉は裏切らないからな!!」


 えぇ……なんか思ってたのと違う……すごい喋るじゃん。


「俺はスキニーだ! んでこっちは護衛依頼主のモリスさんだ!」


 スキニーって……見た目と名前が正反対なんですけど……

 ゴリマッチョさんの間違いでは?

 見た感じ種族は熊っぽいし熊人族(ゆうじんぞく)ってやつ?


 ま、まぁ、とにかく自己紹介だ。


「メルミーツェです、こっちは妖精族のティスタニアです」


 一瞬スキニーさんがティスを見てぴくりと肩を動く。

 あぁ、また妖精族の噂を訂正しないといけないのか……


「スキニーさん、妖精族は噂みたいな種族ではないですよ、少なくとも私たちは子供ころから良き隣人だと聞かされてます。

あ、私は先ほど紹介にあずかりましたモリス=リュミエルと申します、見ての通り商人です」


 へぇ、種族によって違うんだ。

 それよりモリスさんはどこからどう見ても()()()()()()なんだけど……



「はい、僕はずっと妖精族と一緒にいますが本当に優しい人たちですよ」


「それにしても変わった魔導具ですね。セルリアンの商会でもそんな凄い魔導具は見たことありませんよ」


 魔導具ってalmAのこと?

 双子の父親(シェラドさん)から聞いた話では魔導具は前世の一般家電みたいなものだった思うけど、ここは話を合わせた方が良いよね。



「そうなんですね、かなり田舎から出てきたのでコレの凄さが分かっていませんでした。

村の流れてきた職人さんが作ったものらしいですよ」


「セルリアン商会のベリル代表が見たら狂喜乱舞しそうですよ~。

ところで方向的にリム=パステル()へ行くのですか? 私たちも仕入れから戻る途中だったので、もし良かったら一緒にいきませんか? 道中護衛頂ければ通行税の支払いと保証人は私がなりますよ」


 保証人はセルリアン一族への書状の印章見せれば良いって聞いてたけど……通行税は聞いてないよ村長!!

 路銀もらったけど、これがそうだったの?お小遣いじゃなかったんだね……



「僕たちの他にも二人いますが構いませんか?」


「大丈夫ですよ、では道中よろしくお願いします」


 モリスさん曰く、リム=パステルまでは1日程度でつくとのこと。

 野営することについてオーリとヴィー(あの子たち)がどう反応するか不安だったが、かなり乗り気で助かった。


 しかしまぁ、馬車を助けて商人さんと相乗りとはなんともお約束な感じたね。

 神の見えざる力が働いているかのようだよ。


 移動中、モリスさんから色々な話も聞けた。

 まず一番疑問だったモリスさんの種族は魔人族まじんぞくだった。

 双子の父親(シェラドさん)に聞いてた隣国ヴェルタニアの主要な種族だ。

 しかし、人間の見た目で魔人とはこれ如何に……


 そしてモリスさんはセルリアン一族と同じくアルコヴァン(この国)の有力一族、カーマイン一族の商会で働いて今回は仕入れの帰りだったそうだ。


 仕入れの品はなんと()()

 この世界にはないと思ってたけど、ヴェルタニアとは別の隣国ヨウキョウでは稲作が盛んで、主食なんだとか。


 モリスさんが任されている雑貨店では娘さん考案のレシピとセットで米が売れ筋らしく、国内のヨウキョウとの貿易点になっている都市まで行って品質の良いものを仕入れてるらしい。いつか島で稲作とかも良いかもしれない。


 日も暮れ、野営する頃にはモリスさんもすっかり砕けた口調で話してくれるくらいには打ち解けれた。

 かなりの子煩悩なようで娘さんを天才と褒めちぎり、元々ヴェルタニアに住んでいたが娘さんの一言でアルコヴァンに移住するくらい溺愛しているみたいだ。


 オーリとヴィーもスキニーさんにすっかり懐いて腕にぶら下がって遊んでいる、何よりスキニーさんが二人のヤンデレセンサーにかからなかったのは助かる。いや本当に。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――翌日



「ミーツェくん、もうすぐ街につくよ。ほら、見えてきただろう?」


「「ほぁぁ! おっきいー!」」


 二人の言う通り、都市を囲う高い防壁にそれに沿った堀は遠目からでも分かるほどだ。

 きっとこの子たちにはもっとくっきり見えてるんだろうね、僕も早く見たいなぁ。



「本当にすごいね、こんなに凄い街みたことないよ」


(ミーツェの前の世界でも?)


(あの防壁より高い建物はいっぱいあったよ)


(そっちの方が凄いじゃない!!)



 違うんだよティス……ロマン味が違うんだよ。ね、almA。

 僕は浮かぶ多面体に同意を求める、応えは返ってこない。

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