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ep13.家族

■後神暦 1324年 / 春の月 / 空の日 pm 10:00


「スゥゥゥー……ハァァァ……おえっ……」


 村長にあの子たちを引き取ると啖呵を切ったくせに直前になると緊張する……


 何て切り出そうか?

 受け入れてもらえるだろうか?


 思考が纏まらず双子を預かってもらっていた隣家を前に棒立ちしてしまう。



「何やってるよミーツェ、早く迎えにいきましょう?」


「だってさ……あの子たちに一緒に暮らそうって言って断られたらって思ったら吐き気が……」


「もういいわ……オーリ! ヴィー! 迎えに来たわよ!」


「待ってぇぇぇー! 心の準備が!!」


 こうなっては仕方がない。


 双子を連れて出てきたお姉さんにお礼を伝え、目と鼻の先にある双子の家に戻る。

 普段ならこの子たちはもう寝ている時間だけど、まだ張り詰めているのか眠そうなそぶりも見せない。


 先延ばしにするより今話してしまうべきだろう。

 テーブルに座り、双子に一緒に暮らすことを伝えようとするも、いざ話すとなると言葉が出ない。



「スゥゥゥー……ハァァァ……おえっ……」


「何回目?」


 どうする?

 明るく伝える?

 真剣に伝える?


 様々なパターンを一気にシミュレーションした。

 でも、どんなに頭で繰り返しても双子の返事まで想像できない。


 経験ないけどプロポーズするときってこんな気持ちなのかな……?



「……シエル村のことから話してあげた方が良いじゃないかしら? その方がミーツェも話しやすいでしょう?」


 その助け舟は大変ありがたい!!


「そうだね、ありがとうティス。二人とも聞いて欲しいんだけど……」


 村長宅で相談されたことを要約して双子へ話す。


 シエル村の生き残りがいることや今後の対応については意外とすんなり受け入れられた……と思う。

 相変わらず口数は少ないけど、表情からシエル村自体には怨恨の念はないみたいだ。

 きっとバゼットで復讐の気持ちには区切りがついたんだと信じたい。



「それでね、シエル村の人たちを連れていくから、暫くツーク村から離れないといけないんだ」


「…………ゃだ……」


「え?」


「「やだぁぁっぁぁ!!!!」」


 今まで無言で話を聞いてくれていた双子が突然、烈火の如く泣き出す。

 暴れたりはしていないが『びぇぇっぇぇ』と文字が浮かんで見えそうなほどの大泣きだ。


 いきなりの出来事に流石のティスも狼狽えている。



「ちょ、ちょっと落ち着きなさい、話を最後まで聞くのよ」


 どうしよう……子供の頃に泣いたとき大人はどうしてくれたっけ?

 えーっと…………あ! そうだ!!


 テーブルを回って双子の前で膝をつき目線を合わせる。

 出来うる限りの優しい笑顔で二人の手を取って左右にゆらゆらを揺らしながら話しかける。


 僕……この手を揺らすの好きだったんだよね……



「あのね、僕は二人と離れたくはないんだ。だからさ、僕と家族にならないかな?」


「「かぞく?」」


「そう、二人のパパとママみたいには出来ないかもしれないけど……

頑張るからさ、僕と一緒に暮らさない? 

ツーク村から離れるときも一緒に行こう?

それに今後、首都のリム=パステルにも行くつもりなんだ。

そのときも一緒に行こう、ずっと一緒にいてくれないかな?」


「「……うんっ!!」」


 双子はまだ泣き止まない。でも流す涙の意味合いが違うのは分かる。

 ティスもやれやれと言った仕草をするけど安心したのが伝わってくる。

 この日はいつもクッションで寝ているティスも一緒にみんなで寝ることにした。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――ツーク村防衛戦から二か月後


■後神暦 1324年 / 夏の月 / 天の日 am 09:20



 村長に相談されていたシエル村の住人も僕が目覚めた島へ移住させ、生活基盤も着々と整ってきているようだ。


 妖精の花畑にいた時から思っていたが、僕が目覚めた島の外は四季がない。

 多少の気温の上がり下がりはあるものの、夏の突き刺すような日差しも秋の色づきも一面白銀の世界もない。

 穏やかな春が続いている。


 シエル村の人たちは春夏秋冬を知識として知っていても、島の冬の寒さや雪に初めは恐々としていた。

 しかし今では狩りや温室での栽培にと忙しくしている。


 たった二か月で適応してしまうとは素直に凄いと思ってしまう。



「ミー姉ちゃんー!」「早くいこー!」


 階下から双子が出発を急かす声がする。

 今日はツーク村を出てアルコヴァンの首都リム=パステルへ出発する日だ。


 あの子たちと家族になり、行動を共にするうちに以前の天真爛漫さが戻りつつある。

 襲撃の一件で負った心に傷とも少しづつ折り合いがついてきていると信じたい。



「今いくねー!」


 笑顔が戻ってきたこの子たちではあるが一つだけ問題ある……


「おっ! ミーツェ、今日出発するのか? 気をつけていけよ。

戻ってきたら家に飯でも食いにこいよ!」


 家を出てると声をかけてきたのはアドと同年代の青年だ。



 ――カシャンッ……



 銃のスライドを引く音が聴こえる……これだ……

 家族になったあの日から二人は独占欲が全開になった……

 アド以外の歳の近い男性に僕が話しかけられるとこうして銃を抜くようになってしまった……


 いつか本当に撃ちそうでミー姉ちゃんは怖いですよ……



(大丈夫、行かないから銃しまって……!)

 小声で二人に伝えると瞳にトーンが戻りホルスターに銃を戻す。


「……ミーツェ、この子たちに武器を持たせるの危ないんじゃないかしら?」


「だよね……ちょっと考えてみるよ」


 自衛のために持たせてはいるけど殺傷力の低いものに変えた方が良いかもしれない……

 リム=パステルで発砲なんてしようものなら大変なことになるよ。


 危うく出発まえに修羅場になりかけたが、村長やアドに出発前の挨拶を済ませ、長期で村を離れるのでシェラドさんとコリンさんの墓前にも挨拶へ向かった。



「「パパママいってきます!」」


(シェラドさん、コリンさん、この子たちは必ず守りますので安心してください)


「さぁ行きましょう!」



 他種族国家アルコヴァンの首都、どんなところなんだろうね!almA。

 僕は浮かぶ多面体の背?を叩く。

◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇


[chap.3 ツーク村の獣人]をお読み頂きありがとうございます!

この後は閑話を挟み次章に移ります。

双子を家族に迎え、メルミーツェも護るものが増えてきました。

都会ではどんな出会いが待っているのでしょうか……

引き続きお付合い頂ければ幸いです。

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