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ep12.襲撃の顛末と双子

■後神暦 1324年 / 春の月 / 空の日 pm 8:00


「夜に来てもらってすまないな。昨晩の事後処理もあって時間がつくれなかったのだ」


「いえ、こちらこそ。昨晩は勘違いから襲い掛かってしまい申し訳ありませんでした」


 相変わらず強面ではあるけど、初対面のときとは違って言葉も表情も穏やかだね。

 今回のことで一応信用してくれたって思っていいのかな?



「俺が監禁されていた間のことはアドリア(息子)から聞いた。

村を守るために力を尽くしてくれたこと、礼をさせてくれ」


「とんでもないです。

力を尽くしたのはオーリとヴィー、それに二人を守ったアドです、褒めてあげて下さいね」


「そうだな」


 村長ブラスカはふふっと微笑い場は少し和んだが、一息つき真剣な面持ちで本題に入った。



「今回の件、元々はこの村の方針に対する意見の違いが原因のようなのだ」


「方針ですか?」


「ああ、俺を監禁したときにシエル村の奴らが聞いてもいないのに話してくれたよ。

ここまでの事になるとは思っていなかったのもあるが、正直迷いが生まれてしまってな……村の外の者であるお前の意見も聞いてみたいんだ。それに別件で相談したいこともある」


「相談ですか? 力になれることでしたら頑張ります」


「そうか、助かる。

まずは今回の件について始めから話そう。それに昨晩のこと、記憶が曖昧なんだろう?」


「はい……村へ戻る道中のことも覚えていなくて……すみません」


「謝ることはない。

それでは原因になった村の方針についてだが、この村には大きく二つの意見があってな。

一つは村を発展させる為に、隣国ヨウキョウの貿易拠点として周辺の村々と合併して都市化させる。

これはバゼットが推していた意見だな。

もう一つは周辺の村々とは協力するが、都市化はせずに生産力を上げて緩やかに発展する。俺の意見はこっちだ」


「村を豊かにする為の意見の対立だったんですね、でも早く発展するのは良い事なのでは?」


「私見になるが地盤が固まっていないまま急速に発展するのは危険だ。

祖父の代に俺が住んでいた狼人族の村がヨウキョウとは別に隣接している国、ヴェルタニアに攻め滅ぼされた。

父から聞いた話では村はヴェルタニアとの戦争の前線に近く軍事面の需要で急速に発展したらしい。

当時のことはもう朧げだが、確かに村と言うよりは既に街のようだったな。

生産業も捨てて食料も全て首都からの補給で賄っていたのが災いして、ヴェルタニアに包囲され、十分な備蓄のない村は一気に陥落したそうだ」


「狼人族の村とは地理的に違っても生産が安定しないまま発展するのは反対ってことですか?」


「そうだ。この村はヴェルタニアからは遠いが急激に発展し、且つヨウキョウとの貿易の要所になれば狙われない保証はない。現に貿易拠点として機能していた街が襲わたこともある。

軍事に詳しくない俺でも昔からヴェルタニアは物量と魔人族の特性で、複数の街を攻めることを知ってるくらい有名だ」


「魔人族の特性ってなんですか?」


「どんな環境でもマナを補給できることだな。

最近は各国で大きな衝突がなくても、戦争が続く限りその危険はついて回る。

そこで地盤が固まっているかが重要になると考えている。

今はスタンピードでもこの様だ、村々が合併して都市を作ったとして戦火に巻き込まれればもひとたまりもないだろうさ」


「生産性に合わせて発展させないといけないと考えらっしゃるんですね」


「ああ、そうだ、豊かになることに異論はないがやり方の問題だ。

前提の村の意見の対立の話はこんなところだ。

それで今回の件だが、まずスタンピードでツーク村も含めて周辺に大きな被害が出た。

どの村も食料問題が大きくてな、特にシエル村は逼迫してたようだ」


「シエル村から食料援助を頼まれていたんですよね?」


「知っていたか。

援助を出せる程余裕はなかったから断ったが、そのときにバゼットがシエル村にツーク村の襲撃を提案したらしい」


「でもそれだと村を豊かにしたい想いと矛盾しませんか?」


「バゼットの考えとしては周辺の村々も巻き込んで一つの都市を作ることだから、ツーク村がなくなっても人的な影響は少ないし、反対意見も封殺できると思ったんだろうさ。

結局のところ奴が言う発展や豊かさは自分や自分の意見に賛同する者にのみ向けられていたのかもしれないな」


「……クソヤローかよ……」


 推察とは言えバゼットの身勝手さに思わず悪態を吐いてしまった。

 しかし村長も同意を示すように片眉を上げふんっと鼻を鳴らす。



「その後は知っての通り襲撃があり、俺たちはシエル村に攫われた」


「母さんを人質に捕られてなけりゃ親父がどうとでもできたはずなのによ……!」


 苦々しい顔でアドが話に割ってくる。


 記憶にないけどシエル村で村長に襲いかかった僕を素手でいなし続けてたって聞いてる。

 アドの強さからして父親がそれ以上に強いのも納得だね。


「守り切れなかったのは俺の落ち度だ……話を戻そう。

シエル村やバゼットに協力した奴らの話を繋げるとツーク村を壊滅させた後は息子や妻を人質にして、俺からツーク村の管理者に援助を引き出すつもりだったみたいだな。

その後は俺を殺して適当にツーク村が壊滅したとでも報告するつもりだったんだろう」


「アルコヴァンには力ある一族がいくつかあるとシェラドさんに教えてもらいました。

 管理者って一族の方ですか?」


「そうだ。

ツーク村はベリル=ヴォルフ=セルリアン様が当主のセルリアン一族の庇護下にある。

定期的に税を支払う代わりに有事の際は援助してもらえる、そんな仕組みだ」


「シエル村は違ったんですか?」


「いや、モーヴ一族の庇護下にある。ただ、当主が病で臥せっているみたいでな……

当主代理の息子が援助を断ったらしい。

言い方は悪いが元を正せばその息子が元凶だな。バゼットはそれに乗じたとも言える」


 えぇ……更に黒幕が出てくるんだ……何かバゼットの小者感がどんどん強くなってくよ。



「俺を捕らえて計画が上手くいくと思ったんだろうが、お前が翌日に殴り込んでくるのは予想外だったんだろうな。計画は潰れて自分たちの命も失うとは考えてもなかっただろうな」


「…………」


「そのな顔をするな。命への向き合い方としてそれは正しい。

が、お前はただ敵を殺したわけじゃない、俺たちを救ったことを忘れないで欲しい」


「……ありがとうございます」


「それで相談なんだがな、シエル村には生き残り……正確には今回の件に反対した村民は家に軟禁されていたんだ。

その者たちをお前の故郷、妖精族と暮らしている村に住まわせてやることはできないか?」


 村長が言うには今回の件はいずれ近隣の村々に伝わるであろうこと、

 そうなるとシエル村は孤立してどこの助けも得ることができないこと、

 かと言ってツーク村で受け入れると一部の軋轢を生みかねないとのことだった。



「少し時間を頂けませんか?ティスと話し合うのはもちろんですが、妖精族の長とも話が必要です」


「あぁ、もちろんだ」


 妖精族の花畑に連れていくことはできないにしても僕がいた島に連れてくことはできるだろう。

 拠点が暫くの住居になるだろうし、温室にもポータルがあるのでダフネには相談しておかないいけないのは本当だ。


 それはそれとして、ずっと気になってることを聞かないと……


「あの……質問なんですけど、オーリとヴィーは今後どうなるのでしょうか? どこかの家に引き取られるのでしょうか?」


「村の者たち全員で援助はするが、どこかの家庭で引き取るのは難しいだろうな……

スタンピードに今回の件でどこも余裕がないのが実情だ……」


「そんな! まだあんなに小さい子供だけで生活しろって言うんですか!?」


 村から支援があって食べるに困らなかったとしても親から受けられたであろう愛情を失った子供をこれからも孤独にさせるの?

 あの子たちはこれからも両親のいない家で暮らし続けるの?


 そんなの心が病んでいつか歪んでしまうかもしれない。

 それはダメだ……絶対にダメだ!



「 ……じゃあ、僕が引き取ります!」


「おい、ミーツェ! 大事なことだぞ、大丈夫なのか!?」


「いいんじゃないかしら? あたしは反対しないわよ」


 ここにくる前にティスが言ってくれた「反対しない」の意味が理解できた。

 彼女にはこうなることが予想できていたのかもしれない。



「あの子たちの気持ちを聞いてからになりますが、もし僕と一緒にいてくれるのであれば引き取ってかまいませんか?」


「……あぁ、かまわない、それにすまない。

後日、シエル村のことも含めてまた話をさせてくれ」



 こうして村長との話し合いは一旦終わり帰路についた。

 ティスに双子を引き取ると言い出すことが分かってたのか聞いてみたが『当然でしょ?』と笑われてしまった。



 身体は子供でも中身は大人だ、子育てくらいやって見せよう! ねぇalmA!

 僕はティスを肩に乗せ浮かぶ多面体に跨った。

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