ep9.ツーク村防衛戦2
※引き続きアドリア視点になります。
―――――――――――
■後神暦 1324年 / 春の月 / 天の日 pm 7:40
ツーク村から勝どきのように雄叫びが聞こえる。
恐らく襲撃者を倒し切ったのだろう。
「くそがよぉ!」
ガンドも攻めあぐねている。
ヴィーの狙撃を警戒しながら俺の斬撃を捌かないといけないのだから当然だ。
離れればオーリが撃って俺が距離を詰める。それの繰り返し。
「さっきとは逆になったな? 俺もキツかったから気持ちはわかるぜ?」
とは言ったもののこっちの攻撃も当たらねぇ……このままだと先にマナ切れたら負けるぞ。
保有量に個人差あるっつっても大人のあいつの方がマナ溜めこんでられるだろうから持久戦は絶対にダメだ。
多少無理してでもアレが使えるタイミング作るしかねぇ……!
「いい気んなんよ、クソガキ!!」
悪態をついたガンドが大きく息を吸い咆哮する。
それは人が出せるような声ではなかった。
獣が吠えたと形容してもまだ足りない、大型魔獣に襲われたと錯覚するような威圧感。
「――……ッ!」
恐怖で硬直して動けない、それは双子も同じだった。
ヴィーは見えないがオーリは銃を構えたままへたり込んでしまっている。
一度は返した形勢がまた逆転してしまった。
「悪魔の咆哮っていってな、格下を動けなくする魔法なんだわ。
マナをごっそり使うから嫌だったんだけどよ、もういいわ」
オーリに歩み寄るガンドをただ見ることしかできない。
双子の両親のように倒れるオーリを想像してしまい怖気がする。
「あ、もう一人のガキは見逃してやるよ。さっさとお前攫って逃げないといけないからよ」
一瞬……ほんの一瞬、自分が死なないことに安堵してしまったことに言葉にできない怒りを覚える。
そして出がけに言われたミーツェの言葉を思い出す。
――この子たちお願いね
動けよ!
ビビってる場合じゃねぇだろ!!
こいつら守んだろ!?
動け……動け動け動け動け……動け…………!!
プツンと何かが切れたような感覚と共に体の硬直が消えた。
へたり込むオーリに振り下ろされた大ナタ目掛けてマチェットを投げつける。
鈍い金属音と共に大ナタの軌道は逸れオーリではなく地面を叩きつけた。
「は?」
自分の魔法に自信があったであろうガンドは状況が飲み込めず動きが止まっている。
その隙にオーリを抱きかかえ距離をとれたが、手放したマチェットを拾う余裕はなかった。
「俺には効かなかったみてぇだな? それにその魔法、マナごっそり使うんだったか?」
嘘だけどな。もしもう一回やられたら動ける自信ねぇ……
だからブラフでも何でも使ってやるよ。
「動けるのは……まぁいいわ。お前エモノ投げただろ、素手で勝てるのかよ?」
「は? ナイフ持ってるの見えねぇのか?」
「そんなもんエモノのうちに入らねぇよ!」
ナイフを右手に持ち替え応戦するが、強度の低いナイフでは打ち合うことも捌くこともできず、反撃をしてもリーチが足りず当たらない。
躱すことも限界があり刃先をかすめ傷は増えていく。
それでも勝ち筋がないワケではない……
ガンドも粘る俺にイラついてきたのだろう。
一撃で終わらせようと大ナタを振り上げた、ココだ……
「畜生、痛ってーな……!」
振り下ろされた大ナタの切れ味の鈍い刃元を肩口で受け、ナイフで喉を狙い突く。
……が腕を掴まれその刃はガンドに届くことはなかった。
「だから言っただろ? それじゃあ素手と変わらないってよ!」
――うるせぇよ……それでも勝つんだよ……!
ヒュっと風を切る音と共に飛び出したナイフの刃がガンドの喉に突き刺さる。
「あ……がっ……!?」
「おぅらあぁぁぁぁあぁ!!」
呆気にとられたガンドから大ナタを奪いこめかみを目掛けて振り払う。
大ナタは頭蓋を砕き、顔の半分まで刃がめり込んだ。
倒れこむガンドを払い除け、大きく息を吐く。
ミーツェに貰ったナイフがなかったらヤバかったな……
スペツナズナイフっつったか、投げナイフで良いだろって思ってたけどマジで助かったぜ。
それはそれとして……
「マジでボロボロだな……くそっ!」
狩りも戦いも大人に負けない自信はあった。
でもそれはツーク村の中ではってだけだった。
強い大人に対しては3対1、それも相手の不意を狙わないと勝てなかった。
強く、強くならねぇと……家族を奪われて泣くやつらが出ないくらいに……!
~ ~ ~ ~ ~ ~
動けるようになった双子を連れて村に戻るとシエル村をどうするかで揉めていた。
根切りにするべきだと言う者、この国の法に基づいて罰するべきだと訴える者、
中には村長一家を含めて全てを私刑にするべきたと言い出す者までいた。
「アドリア、傷だらけじゃないか。何があったのですか?」
副村長のバゼットが駆け寄ってくる。
ここで誤魔化すと誤解を生むと思い、扉のことは伏せてこれまでのことを副村長やこの場いる皆に話した。
襲撃のときは村が一望できる丘にいたこと、丘から襲撃者を狙撃していたこと、狙撃に気づいたガンドと戦うことになったこと。
銃はミーツェに借りたなど多少の嘘は混ぜたが概ね事実だ。
そしてガンドは殺したがもう一人は恐らく生きていることを伝えた。
「まだ生きている者がいるのですか!? それはいけない、助けを呼ばれる前に殺さなくてはいけません!」
「なら捕まえて今回のことについて吐かせれば良いんじゃねぇの?」
「アドリア、お前が村の為に言ってくれていることは分かりますが、
まだシエル村の者たちが潜んでいるかもしれません。危険の芽は摘んでおくのが最良です」
「その必要はない」
何者かが話に割って入る。いや何者かは声を聞けば分かる。
今回の首謀者と疑われ、ミーツェが調べにいった人物。
「親父……」
親父、村長ブラスカと攫われた村の人々が立っている。
なぜ今になって戻ってきたのか、姿が見えないブラスカと共に行方が分からなくなった者はどうなったのか、尽きない疑問はブラスカの後ろから現れたミーツェの姿を見て全て吹き飛んだ。
血まみれの服、それが自分のものか返り血なのかはわからない。
どれだけ争えばそこまでになんだ?
晴天の雲の様に真っ白だった長い髪も赤く薄汚れている。
それに眼に生気を感じない。その瞳からは何の感情も読み取れない。
almAがいなければ本当に彼女か疑ってしまうほどだ。
「ミーツェ……お前、どうしたんだ……?」
そう聞くのが精一杯だった。
【防衛戦のアドリア イメージ】




