表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/194

ep5.ツーク村の生活3

■後神暦 1324年 / 春の月 / 星の日 pm 10:20


 ツーク村に滞在して3週間。周囲とも少しは信頼関係が築けてきたと思う。


「ミーツェ、マナが少なくなってきたからあたし一度戻りたいんだけど」


「わかった、じゃあポータル出すよ。明日の夜に迎えに行くでいい?」


 毎日一緒に狩りにいくアドたちにはポータルについて話したけど、オーリもヴィーも秘密を守ってくれて両親にも黙っていてくれているのは本当に助かる。



「えぇ、それまで温室にいるわ。almAは迎えに行かなくていいの?」


「うん、夜は島で採掘してもらうようにしてるんだ。

それにしても僕から離れてる命令も聞いてくれと思わなかったよ」


 試しにalmAを島のポータルまで連れてお願いしてみたら、僕から離れて夜間に鉱石を採掘を始めてくれた。

 毎回送り迎えは必要だけどデメリットとは言えない制限でかなりの成果を得られる。



「僕はまたシェラドさんに話聞いてくるよ、早いけどおやすみティス」


 ポータルでティスを見送り、双子の部屋からシェラドさんのいるリビングへ移動する。



「毎日すみません、シェラドさん。今日もよろしくお願いします」


「構わないよ、こちらこそ狩りに子供の面倒にすまないね。あの子たちはもう寝たかな?」


 僕は地理的なことや文明的なことを毎晩双子が寝付いた後に双子の両親に教わっていた。


 まず地理的なこととしてツーク村はアルコヴァンという国に属している。

 話しを聞く限りではアルコヴァンは直接民主主義に近い政治体制。

 少し違うのは財閥のようなものがあり、議員はそれのいずれかに所属していることが多いそうだ。


 隣接している国は魔人族(まじんぞく)至上主義のヴェルタニアと鬼人族(きじんぞく)弧人族(こじんぞく)のそれぞれの長が統治するヨウキョウ。

 アルコヴァンは他種族国家のようでヴェルタニアとは戦争状態が続いている。


 文明レベルはシェラドさんの知る限りでだと各国にそこまで大きな差はないらしい。

 僕から見ると建物は数百年ほど昔の様式に見えたが、実際は上下水道や街灯もしっかりとあり、現代を生きた僕には様式と機能がアンバランスに映る。


 全ての種族が生活魔法と言われる魔法が使え、その他に種族ごとに得意な魔法や、個人の特殊な魔法が存在する。

 その為、文明が魔法を中心に進化しているようだ。

 戦争については魔法が軸になっているらしいがその辺りについてシェラドさんは明るくないらしい。


 問題は魔石の用途。

 生活インフラに加工された魔石が使われているそうだ。

 これについてもシェラドさんには加工に専門知識がいる程度のことしか知らないと言いっていたが、生活に紐づいているのであれば兵器転用される可能性が懸念される。



「えっと……国のことや魔法のことは話したよね? じゃあ今日は身近な村について話をしようか」


「お願いします」


「まずツーク村はアルコヴァンの議会のように何人かの代表者を決めて話し合いで方針が決まるんだ。

ただし村長だけは代々受け継がれていてね、先代の村長の娘と結婚したブラスカ、アドリアの父親が現村長なんだ」


 村長だけは世襲制なんだ、じゃあアドは次期村長ってことになるのか。


「アルコヴァンには力を持っている一族がいくつかあるのは話したよね? 

周辺の村々はその一族のいずれかの庇護下にあるんだ。村長は村の意見を纏めて一族へ伝える役割も担ってるんだよ」


「顔役になるから幼いころから財閥……じゃなくて一族とつながりを持たせる為に代々継がれるってことですか?」


「そうだね、ブラスカはちょっと特殊で、彼は他所から村にきたんだ。だから昔から一族と繋がりはないんだ。

先代の村長には息子と娘が一人づついたんだけど、先代の娘とブラスカが結婚してすぐくらいに息子が亡くなってね……押し上げられるように義理の息子であるブラスカが時期村長になることが決まったんだよ。

その時は村でもちょっと意見が割れたけど……でも僕は彼が村長で良かったと思っているよ」


 血を重んじてるわけじゃなく、力のある一族との繋がりを重視してる感じだから世襲する家を変えるとか?

 だとしたら荒れそうだね。



「ブラスカの話をしたからもう一つ……本当は子供の君にまだ話すことではないかもしれないけど、狼人族は夫対して妻は必ず一人なんだ。

でも昔の犬人族は養えれば何人か妻を迎えることもあってね、逆に何人かの男で妻を養うこともあったんだ。猫人族もそうだろう?」


 狼人族は一夫一妻制、犬人族・猫人族は多夫多妻制ってことね、村長は貞操感が合わないってことか。


「ツーク村は夫婦は一対の文化が長いからブラスカも馴染んでいったのだと思うけど、君は村にきたばかりだったことと文化的なこともあってあんなこと言ってしまったんだと思う」


「それについては以前も言いましたが気にしていません。僕のところも夫婦は一対でしたから」


「そうだったんだね、アルコヴァンでもそれが主流になっているし馴染みやすいと思うよ。さて、遅くなってしまったね、そろそろ寝ようか」


「はい、今日もありがとうございました。お休みなさい」


 ここの常識も身についたと思うし、食料事情解消の目途がたったら、もっと詳しく魔石の用途を調べる為に都市部に行ってみようかな。

 アドたちと離れるのは少し寂しいけど本来の目的も忘れちゃいけないよね。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



――翌日 pm 00:30



「今日はティスはいねぇのか?」


「うん、マナの補充に戻ってるよ」


「「今日の夜に帰ってくるんだってー」」


 何気ない会話をしながら最早日課となった狩りに出かける。

 ティスがいない分、木の実の成果は少なかったが連日の狩りで磨かれた連携で次々に獲物を仕留めていく。

 アドを前衛に置き僕が後衛で援護する、小さな獲物を見つけてはヴィーが銃を撃ちたがる……

 そんないつもの日常が過ぎていった。



「ちょっと狩り過ぎたかな? もうそろそろ日暮れだし帰ろう」


「わるい、少しマナ補充してからでもいいか? 身体強化使い過ぎたみてぇだわ」


「わかった、じゃあ焚き火用に木拾いながら戻ろう」


 犬人族のマナの補充条件は草原地帯。

 村に戻るまで魔法を維持できる程度までマナが溜める為、僕たちは街道脇に広がる草原地帯に向かった。



――小一時間後



 ヴィーが仕留めた兎を焼き、夕食前の小腹を満たしつつ談笑する。


「今日はいつもより多く仕留めたからな、1匹くらい食っちまっても大丈夫だろ」


「だね、役得役得。オーリもヴィーも秘密だよ?」


「わかった! 秘密だねー!」「だねー!」


 獲物もアドが捌いてくれるから助かるなぁ、慣れたとは言えまだ苦手だしね。



「うっし! マナも村までなら全然余裕だな、そろそろ行こうぜ」


「「おー!!」」


 各々成果物を持ち村へと戻る。

 ふと初めてアドと双子に出会った日から今までを思い出す。

 始めは長く滞在するつもりはなかったけれど、優しい双子の両親に文化を教えてもらい、無邪気な双子や思春期特有の棘はあるものの素直なアドに触れ、人付き合いとは本来こういうものだったと再認識する。


 他種族国家のこの国でいつか妖精族や他の種族とも一緒に暮らせる集落が作れたら……

 そんなことを考えてるいるうちに、もうそろそろ村だ。


 村が遠目に見えるにつれヴィー様子がおかしい……

 歩調は速くなり、村から上がる黒煙が見え僕にも異変が分かったころには既に双子は走り出していた。



「「パパ!!」」


 成果物を放り出し僕とアドも後に続く。

 近づくにつれて村の状況がはっきりと分かり心臓が早鐘を打つ。

 家々から上がる火、広場に倒れる人々、双子の両親もその中にいた。



「パパぁぁあぁ!!」「ママぁぁあぁ!!」


 シェラドさん、コリンさん……!噓でしょ!? なんで? なんで!?



 ――おいっ! 手伝ってくれ!


 哨戒や狩りで村に不在であったであろう村民とアドが消火や救護にあたっていた。



 何が起きたかの確認は後だ……とにかくシェラドさんたち村の人を……


 震える指でUMTを操作し、編成枠を全て治癒士(ヒーラー)に変更する。


 早く早く早くっ!!



 ――……Ready


 ”治癒技能(リカバースキル)セルリジェネーション”

 リキャスト完了……


 ”支援技能(アシストスキル)シェアペイン”

 リキャスト完了……


 ”医療技能(メディカルスキル)レニティヴ”

 リキャスト完了……


 ”治癒技能(リカバースキル)セルリジェネーション”

 リキャスト完了……


 リキャスト完了…………


 リキャスト完了………………


 リキャスト完了……………………


 スタンピードの魔狼戦の傷も癒したセルリジェネーション。

 傷の半分を請け負うシェアペイン。

 鎮痛作用を散布するレニティヴ。


 なぜリキャストタイムがあるのか? なぜ連発できないのか? 

 歯がゆさを感じつつ必死にスキルを使い続けた。

 編成した医療治癒士(メディカルヒーラー)の知識でトリアージをするべきことや、僕もこれ以上傷を負うのは危険なことは分かっていてもそれでも冷静に対処することができなかった。


 …

 ……

 ………

 …………


 どれくらい時間が経ったんだろう……数時間? いや数分な気もする。

 大人が言い合ってる、子供が泣いてる、視界が狭い、体中痛い、村の人にスキルを使って、その後どうしたんだっけ?



「「うあぁぁぁぅぁぁああああぁぁああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぅぁああぁ!!!!!!!!」」


 双子の慟哭で我に返る。



 ――そうだ、助けられなったんだ……



 どうしよう……時間を巻き戻したいよ……almA……

 僕は浮かぶ多面体の側にへたり込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ