ep14.ニグヘド・エインガナ1
■後神暦 1326年 / 春の月 / 星の日 am11:50
――霊鉱精の坑道
脱獄から8日経ち、遂に決戦の日。
噂が正しければ明後日にはアンバーたちの先生が生贄として犠牲になってしまう。
だからこれが最初で最後のチャンスだ。
「ジェット、遅せぇですね……」
カチャカチャと戦車を整備しながらチャロが呟く。
そう、造っちゃったんだよ、戦車……
スフェンと協力したチャロが造り上げた戦車は、奇しくも僕の前世の記憶にあるイギリスで開発された初期の豆戦車、『カーデン・ロイド』にそっくりなんだ。
「慎重なくらいが丁度良いよ、ゆっくり待とう」
機動力のあるジェットは斥候として、あの空洞を確認に行った。
僕たちは坑道の少し離れた場所で待機、不意打ちが出来るタイミングを待っている。
「ビビッてまだ見に行ってもなかったりしてな~」
「……お前じゃないんだ、そんなワケないだろ」
噂をすれば何とやら。
いつの間にか戻ったジェットが軽口を叩くアンバーの後ろに立っていた。
偵察から戻ったジェットが言うには、不死の蛇は以前と同じく、眠るように微動だにしていないらしい。
「仕掛けるなら今、なのかな」
「あぁ! 行こうぜっ!!」
僕たちは荷物をまとめて坑道を奥へと進んだ……
――テンプルム山脈 霊鉱精の坑道奥部
ジェットの言ったように不死の蛇は以前と変わらずに大岩のように動かない。
本当に、以前と変わらないんだ。
「吹き飛ばした頭……元通りだね……」
「だな、でも負けられねぇよ」
アンバーの言う通りだ。
意気込む僕の背後から子供たちの声が聞こえてくる。
「発射よーい!」
「「おー!!」」
音もなく履帯を回してやってきた戦車からオーリにヴィー、スフェンが顔を出す、この子たちがいる限り、僕に負けは許されない。
でも……
「出来れば待ってて欲しかったなぁ……」
「うだうだ言わない、もう決めたことでしょ?
それにあの子たちがいないと手が足りないんじゃないの?」
「そうだけどさぁ……」
大きな音を立てる戦車を消音するオーリの魔法。
ヴィーの精密射撃にスフェンのメンテナンス。
どれも必要だけど、危ないことはさせたくないのが本音だ。
まぁ……うじうじしてたらまたティスに怒られるし、死ぬ気で守るしかない。
「いくぞっ!!」
アンバーの掛け声に僕とサックに入ったティスは崖を飛び降りて走り出す。
今回の装備は6連発が可能なグレネードランチャーのみ。
バカでかい相手に小銃を撃ったところで意味がないと判断したんだ。
それに、メイン火力は僕たちじゃない……
――!!!!!!!!!!
走る背後から突風を巻き起こして、蛇の眉間ど真ん中を音速の銃弾が貫く。
一時は『間に合わない』とこぼしたチャロだったけれど、間に合わせたんだ。
超長身のバレルから電磁加速させた弾丸を撃ち出す、決戦兵器。
――ゲイボルグMarkⅡ(仮)
古代霊鉱精の技術と、拠点にあった銃器データを読み漁ったチャロとスフェンによって造られた廉価版のゲイボルグ。
廉価版と言っても、強すぎる威力を抑えてalmAに頼らなくてもバレルが衝撃に耐えられるようになり、兵器としてはむしろ進化したと思っている。
射手はもちろんヴィー。これが僕たちの主力だ!
「さぁ、ウザいくらいに小突いてやる。いくよ、ティス!」
ポンポンポン、と小気味いい発射音でグレネード弾をばら撒く。
崖上の子供たちは狙わせないぞ、エインガナ、こっちを見ろ!!
「おらっ! これでも喰らえクソ蛇!!」
僕に合わせてアンバーも銃を構えて撃ち始める。
妙にシリンダーの長いリボルバー。
そんなもので巨大な不死の蛇に通用するのか、と準備の時は思っていたけれど……
――『爆ぜろ!!』
不死の蛇の身体のあちこから爆発が起きる。
これがアンバーの能力、特定の鉱石を任意で爆破する、とんでも魔法。
長いシリンダーはダーツのように尖った鉱石弾を装填するモノだったんだ。
「うわぁ……すっごい。
サンドラさんもよく変な銃弾撃てる銃を造ったよね」
「酒場のマスターが副業って聞いたときは驚いたわね」
「うん、でもガンスミスが本職なら、あれだけムッキムキでも納得だよ」
爆発の威力もさることながら、ヘンテコ銃を造り上げたサンドラさんに感心しながら僕たちもグレネードを撃ち続けた。
ゲイボルグMarkⅡ(仮)の火力も十分、不死の蛇は体中が抉れて再生が追いついていない。
押してる、良い感じだ!!
「まだまだ喰らえよコノ野ろ……――!?」
アンバーが次の鉱石弾を爆破しようとしたところで、空洞全体に不協和音が響く。
以前にも聴いた不死の蛇が毒液を飛ばすときの鳴き声だ。
「ミーツェー!! ヤベぇです!!」
崖上からチャロが両手を振って叫んでいる。
ヤバいのは解ってる、絶対にそっちに毒液は吐かせない。
僕だってシミュレーションしてきたんだ!!
「almA!! 戦槌形態!! 口閉じてろぉぉぉ!!!!」
爆風を噴射するハンマーで、4~5メートルを一気に跳び上がり、千切れかけの不死の蛇の下顎をカチ上げてやった。
これで思惑を潰してやったぞ、ざまぁみろ!! ……なんて思っていたら顎が上がった顔でギョロリと不死の蛇が僕の睨んだのが分かった。
――あ……これヤバくない?
「a、almA!! 機動盾形態!!」
空中では身動きができない。
何が来ても防げるよう身体を丸めて盾に収めた。
丸吞みは勘弁してよ……?
――!!!!!!!!!!
almAに隠れながら恐々としていると轟音が響き、不死の蛇がいっそう強く鳴いた。
身を縮めた態勢だと上手く着地ができずゴロゴロと地面を転がる。
「っ痛ー……何が起きたの?」
すぐに上を見上げると千切れかけていた不死の蛇の顎は落ち、片目が潰れていた。
「姉ちゃん!!」
アンバーの歓喜の声に崖上に目をやると、バカでかいガトリングガンを肩にかけたサンドラさんが、あの淑やかな笑顔でサムズアップしている……
顔とポーズとシチュエーションが全く合っていない……でも助かった。
「I'll be backしそうだね……」
「なにそれ?」
「……バケモノみたいに強い人が言った名言だよ」
援軍はありがたいけど、頭がバグりそうだよalmA。
僕は機動盾を浮かぶ多面体に戻し、崖上のヒーロー(ヒロイン?)を見上げた。
【決戦前アンバー イメージ】