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ep14.戦う理由

■後神暦 1326年 / 春の月 / 海の日 am01:30


――霊鉱精ドワーフの街クォーツブルク 酒場『マッスルシェイカー』地下


「……マジで?」


 僕が唖然とするのは仕方がないことだと思う。

 目の前には型式の違うハンドガンタイプの銃の数々。

 その中央にはギリギリ人が担げそうな厳ついガトリングガンが鎮座している。


 何ここ、テロリストの秘密基地か何かかな……?


 脱獄した僕たちは夜を待って以前訪れた酒場に来たんだ。

 三人の『姉ちゃん』、つまりマスターのサンドラさんは何も言わずにこの部屋に通してくれたのだけど……



「何で酒場の地下にこんな隠し部屋があるんですか……?」


「ふふ、女には秘密があるものなのよ」


 人差し指を唇に立てて、柔らかく笑うサンドラさん。

 仕草が相変わらずいい女!!

 凛々しいお髭さえなければね!!



「姉ちゃん、オレらジジイたちに追われててさ。

蛇ともう一度戦いたくても武器を調達できねぇんだ……だから」


「えぇ、ここから好きなだけ持ってって良いわよ」


「街のことも聞きてぇです……」


「……チャロは賢いから分かってるんじゃないかしら?」


 そう言ってサンドラさんは僕たちが不死の蛇の討伐に出発した後から、今起きていることを話してくれた。


 先ず、僕たちが戻って来て早々に捕まったのは、自警団の中からアンバーがジジイと呼ぶ人たちにリークがあったからだそうだ。

 これはあの集団の中に見覚えのある顔が交っていたので納得できる。


 次に10日後、彼らの先生が不死の蛇へ生贄として出されることが決まったらしい。

 リークの話と合わせて、どちらもつい先ほどまで酒場にいた客の噂話なので、真偽が不確かだけど正直マズい、実質タイムリミットが決まったようなものだ。



「やっぱりですか……」


「『やっぱり』じゃねぇよ!! どうすんだよ!?」


 事態を予想していたチャロが呟くとアンバーは彼女の肩を掴んで大きく揺さぶる。



「チャロに当たるな! 

大体、お前も素性を確かめずに仲間を引き入れ過ぎたんだ!! 

もう少し疑えってオレ様は言ったぞ!?」


「同じ志の奴らを疑うなんてできねぇだろ!?」


 ジェットとアンバーが言い合いを初めてしまった。

 どう止めるべきか躊躇っているとチャロが二人を一喝する。



「うるせぇです!!!! 

もう時間がねぇのにケンカに時間使いたくねぇです!!」


 普段のチャロからは考えられないほどの声量だった。

 肩を震わせ、拳を握る彼女の頬には涙が伝っている。



「もういいです……ゲイボルグは間に合わねぇですけど……

それでも……あちしは他の方法を考え……うぐっ……

あんたらがバカみたいにケンカしてても……絶対……ぜったい……」


「……わるかった」

「……すまん」


 あぁ……この光景は見覚えがあるぞ……

 思い出されるのはツーク村で両親を喪った子供たち。

 でも、三人はまだ間に合う、絶対に失わせちゃダメだ。



「チャロ、僕の拠点で使えるかもしれない施設があるよ。

スフェンにも手伝ってもらえないか一緒にお願いしよ? 

アンバーもジェットもさ、焦るのは解るけど、もう時間がないんだ。

僕もまた協力する、だから出来る限り準備して再戦しよう」


「……いいのか?」


「うん、必ず不死の蛇を倒そう……」


 そうして幾つかの武器を貰い、この日は拠点へと戻った。




――翌日深夜 酒場『マッスルシェイカー』



「来てもらってごめんなさいね」


 昨晩、酒場から戻る際に僕はサンドラさんに呼び止められた。

『話したい』、そう言われて閉店の時間に合わせて訪れたワケだけど……



「アンバーたちには秘密で、お話ってなんでしょう……?」


「ふふ、構えないで、大したことじゃないの。

ただ、どうしてあの子たちにここまで協力してくれるのか知りたくなっちゃったのよ」


 一対一さしで話したいと言われてときは正直少し疑った。

 罠であっても一人なら乗り切れる自信はあったけれど、この展開は拍子抜けだ。

 でもまぁ……確かにアンバーたちが居たら話しにくいことではある。



「……僕の子供たち、見ての通り血は繋がってません。

あの子たちの両親は暮らしていた村が襲われたときに亡くなったんです。

僕はその時、何もできませんでした……

今でも両親に縋って泣いていた二人の嘆きも、すぐ後の光を失った瞳も、忘れたことはありません」


 今、僕は幸せだと思っている。

 立ち直った子供たちと一緒にいられて、ティスもいて、孤独ではないと実感できる。


 でも、もし子供たちの両親が健在で、時々ツーク村へ遊びにいく……そんな世界線があったとしたら、それはきっと子供たちにとってはもっと幸せだったかもしれない。

 そう考えてしまう時があるんだ。



「似てたんです。

チャロが必死に訴えたときの目が、両親を喪ったときの子供たちに」


 その後のアンバーとジェットも同じ目をしていた……



「だから今度こそ、僕は守りたいんです。

何より、子供たちに親を喪う子の姿を絶対に見せたくないんです」


 リスクを減らして旅をする方法はきっといくらでもある。

 不死身の相手に挑むのは、我ながら愚かなことだとも思っている。

 それでも、この戦いを避ければ、今後の僕たちに影を落とす。

 だから逃げるワケにはいかない、その為ならば命を懸けるに十分な理由になる。


 僕の独白に近い話を黙って聞いてくれたサンドラさんは、『そうだったのね』と一言だけ言い、満足そうに微笑んだ。

 彼女は何も置かれていないカウンターを見て口に手を当てて言った。



「あら、飲み物がまだだったわね」


 そうして以前も出された、ミルクに香料を足したような飲み物に口をつける。



「……?」


 これ、お酒入ってる……?


 甘い香りの奥に、ほんのりと酒精を感じる。

 前世で言うところのカルアミルクを限界まで薄くしたような、そんな飲み口。



「猫ちゃんも、しっかりお母さんで、しっかり大人だったのね」


 そうだと良いな……

 アンバーたちの為にも、自分の意地の為にも、今度は負けるワケにはいかないね。

 タイムリミットはあと8日……後悔が残らないように準備しよう。



 ところで、グラスを傾けるサンドラさんはやっぱり艶があるよねalmA。

 僕はバグりそうな脳を抑えて、浮かぶ多面体に寄りかかった。

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