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ep13.脱獄

■後神暦 1326年 / 春の月 / 地の日 pm02:00


――霊鉱精ドワーフの街クォーツブルク 牢獄


「またかぁ……」


 人生3度目の投獄、それも2回目から3回目の期間が短すぎる……

 前世のお父さん、お母さん、ごめんなさい。

 貴方たちの子供は無実の罪で3回も牢にぶち込まれました……


 考えるだけ悲しくなってくる、本当に僕が何したってんだよ。

 それにしても……



「ねぇ、狭いんだけど……」


 以前入れられた独房にアンバーたちと一緒に入れられた。

 いくら霊鉱精ドワーフが小柄だとしても、ここは一人用の部屋だ。



「almAが一番邪魔じゃねぇですか?」


 文句を言ったのはチャロ。

 確かにかなり幅を取っているけれど、僕の相棒を邪魔と申すか?



「仕方ねぇだろ、前回almA(こいつ)に壁ぶっ壊されてから警戒してんだろ」

「流石に独房ここなら壊されないと思ったんだろうな」


 男衆よ、カッコつけても直立姿勢でぎゅうぎゅう詰めだと意味ないからね?


 普通に考えれば危機的な状況ではあるが、僕には余裕があった。

 何故なら条件が揃っているからだ、almAがいて、誰も人質を取られていない、子供たちも拠点にいる。


 それを察してかティスが口を切る。



「それで、いつ逃げるの?」


「すぐにでも逃げよう、僕もう狭いの嫌。……almA、戦槌形態ハンマーシェイプ


 almAの変形に合わせて直立していた三人は屈んで空いたスペースに滑り込む。

 手に馴染む爆砕槌バーストハンマー、それを少しだけ隙間を空けて壁に構える。



「ミーツェ……そんな大きなモノ、振りかぶれねぇですよ?」


「チャロ、僕の故郷にはね、数センチの間隔から繰りだした拳で相手を吹き飛ばす達人がいたんだよ」


「……言ってる意味が分からねぇです」


「まぁ見てなよ、君が邪魔と言った僕の相棒の力を見せてあげようじゃないか……」


 次の行動を予測してか、ティスは僕の頭の後ろにしがみついて衝撃に備えた。



 ――!!!!!!!!!!!!!


「ほぁちゃぁぁぁーー!!!!」


 と、勢いよく叫んだが、実際は爆砕槌バーストハンマーのトリガーを引いただけ。

 轟音と共にハンマーの平から爆風が噴射され、頑丈な石壁を押し込んで破壊した。

 室内ではチャロが『ぴぎゃぁぁ』と悲鳴をあげたが、僕は悪くない(はず)。



「みんな! ポータルに入って!!」


 壁を壊した先で目を回すチャロをアンバーたちに担がせてポータルへ避難させた。

 次に隠密ステルス持ちを部隊編成端末(UMT)で編成して姿をくらます。

 前回と同じ方法だけど、人質がいないなら後はさっさと逃げるだけ。



「It's a piece of cake~」


「なにそれ?」


「楽勝って意味だよ」


 ティスを懐に抱え、以前ゲイボルグの試し撃ちをした廃墟まで走る。

 哀しいかな、3度目ともなると脱獄も慣れたものだ。

 少しナメた態度をとってしまったけれど、ここからは真剣にならないといけない。


 だって本当の問題はここからなんだから……



――メルミーツェの拠点



「それで……説明してくれる?」


 三人に向き合ってそう訊いた。


 僕はアンバーたちの事情や想いを知っているし、支持もしている。

 だから脱獄した後も匿うのは間違いではないと思う。

 でも、協力するからこそ、全てを話して欲しいとも思っている。


 アンバーは『どこから話したものか』と逡巡してから話し出す。



「……前に酒場でオレたちが”自警団”って言ったの覚えてるか?」


「うん」


「この街は自衛する組織がマヒしてるんだ。

だから外敵には無抵抗……バカだろ、そんなの?」


 外敵……とは恐らく不死の蛇のことだろう。

 ここでチャロも話に加わる。



「300年前くらいまでは違ったんです……蛇に抵抗する人たちも沢山いたとか」


「じゃあ、なんで今はいないの?」


「皆死んじまったからに決まってるだろ」


 ジェットも苛ついた口調で話に加わる。

 対照的にアンバーは落ち着いた様子で話を続けた。



「元々、さっきのジジイたちみたいな意見の奴らはいたんだ。

で、蛇に抵抗する奴の人数が減ったらどうなるか、分るだろ?」


「パワーバランスが崩れる……?」


「そう、オレらのオヤジたちが死んだ辺りから、ジジイたちが幅をきかせ始めたらしいぜ」


 アンバーのお父さんたちも抵抗派だったんだ。

 三人が孤児院で育ったのは両親が不死の蛇に負けちゃったからなのかな……


 街の意見の対立は解った。

 僕は次の質問を投げる。



「でもさ、あのお爺さんたちもこのままじゃ街がいつか滅ぶって理解できないの?」


「解って言ってるんですよ……

アイツら、自分たちの代で何事もなければ良いって腐った考えしてんです」


 よっぽど据えかねているのか、珍しくチャロの顔にも険がある。

 他の二人も拳を握って苦々しい表情だ。



「皆で逃げるのは? 僕の能力ちからで別の土地にさ。

他の古代種エンシェントも暮らす島があるんだ、そこなら何かに脅かされる心配ないよ」


「無理だな」


 名案だと思った僕の意見はジェットにばっさりと切り捨てられた。

 その理由はアンバーとチャロが続けてくれた。



「オレたちって古代霊鉱精(ドワーフ)の知識を護る末裔らしいんだ。

もちろん、そんなもんオレらは知ったこっちゃないけど、ジジイどもも含めて、それを護ることにこだわってる奴らも多いんだわ」


「持ち出せないの?」


「分かんねぇです。

祀るモノまで建ててるんで山脈ここに根付いちゃってるんですよ」


 困った……次善策で用意していた『移住』は使えそうにない。

 賛同する人だけを逃がすことも出来なくはない、だけど、きっとアンバーたちは良しとしないだろう。



「三人はどうしたい?」


「もちろん、蛇を殺す、それ以外ねぇよ……」

「ですね、逃げるつもりはねぇですよ」

「ふんっ! 分かり切ったことを聞くな!!」


 予想通りの応え、孤児院の先生の為、それぞれの想いの為……

 それに明言はしなかったけれど、親の仇討ちも含まれてるのだろう。

 ここまで関わってしまった以上、見捨てる選択はない。

 戦うしかない……でもそうなると……



「武器はどうしよう、ゲイボルグはもうないよ?」


「もう一度……絶対に造ってみせるです……!」

「姉ちゃんにも頼ろう」

「だな~、巻き込みたくなかったけど仕方ねぇな」


 姉ちゃん……?



 まぁ味方が増えるのは良い事だよねalmA。

 僕は浮かぶ多面体に寄りかかりながら未だ見ぬ味方を想像した。

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