ep4.霊鉱精の坑道4
■後神暦 1326年 / 春の月 / 地の日 pm07:10
――霊鉱精の街 牢のある建物内部
格子牢が並ぶ通路の扉が勢いよく蹴破られた。
僕はそのタイミングで駆け出して先頭の霊鉱精のリボルバーへ手を伸ばす。
先手必勝、リボルバーはシリンダーを掴れたら構造上、撃てないはずなんだ。
思った通り、シリンダーの回転と連動した引き金は動かない。
焦る霊鉱精のコメカミ目掛けて肘を振り抜き意識を刈り、銃を奪う。
次に身体を沈めて隣の霊鉱精へ足払い。
すっ転んだところを手首を踏みつけ銃を手放させる、この銃もいただく。
これで二丁拳銃だ。
この通路は幅が狭くてほぼ二列に並ぶしかない。
奥に何人いるかは分からないけれど迎え撃つには有利だ。
「喰らえっ!!」
奪った銃で倒した二人の奥の者を狙い引き金を引く。
しかし、どちらの銃の撃鉄もカチンっと音を鳴らすだけで弾が発射されない……
「……はぇ? 弾切れ? んなわけないよね……。ってヤバ……っ!!」
予想外の出来事に思考が止まってしまった。
その隙に奥に控えてた霊鉱精がこちらに銃口を向けている。
撃たれる……そう思った次の瞬間、銃を構えた霊鉱精が視界から消えた。
「almAぁぁ……助かったよぉ〜」
僕の相棒が壁をぶち破って脅威を吹き飛ばしてくれたのだ。
almAが来てくれたなら、もう勝ちは揺るがない。
使えない銃は捨てて相棒へ指示を出す。
「almA!! 分裂!! 手甲形態!!」
――いくぞっ……!!
”術撃・戦術技能……僕が望むように…”――
手甲の一つで守りを固め、もう片方で通路を一直線に殴り飛ばす。
射程いっぱいまで飛ばしたalmAの拳は真っ直ぐに並んだ霊鉱精たちを蹴散らした。
後はティスたちの牢を壊して逃げるだけ。
引き戻した手甲で格子を掴んだところで聞き覚えのある声が響く。
街の入口で会ったリーダー格っぽい霊鉱精だ。
「そこまでだ!! お前ら、武器を降ろせ!!」
「何言ってんの? いきなり牢に入れる奴なんかに従うワケないじゃん。
それに生贄とか話してたの聞いてるんだけど?」
相変わらず勝手な物言いに食ってかかる。
僕はもうこの場の全員を叩き伏せて逃げるつもりだ。
「違う!! 降ろすのはお前らだ!! この人らに手を出すな!!」
「は……?」
流れがおかしい。
どうも『武器を降ろせ』とは僕たちではなく、周りの霊鉱精に言っている……?
…
……
………
暫くして、お互いの警戒が緩んだところでリーダー格の霊鉱精が一歩また一歩とこちらに近づき、僕の2~3m先で立ち止まった。
そして、大きく息を吸いながらのけ反り……―
「すんませんでしたーーーーっ!!!!」
――見事な最敬礼……定規を当てれそうな綺麗な90度で頭を下げた。
一貫性の無い行動に意味が分からず、呆然と目の前の直角を見つめていると、彼の両隣りに二人の霊鉱精が追加でやってくる。
一人は勝気そうな男、もう一人は気怠そうな女。
「ふんっ! なんでオレ様まで謝んなきゃいけないんだよ!?」
勝気そうな男は腕を組んでこちら見下そうと、必死に顎を上げている。
背が低くて、のけ反ってるようにしか見えないけれど、ツッコミ待ちか?
「ふぁぁ……あちし、眠みぃんで、もう帰っていいです……?」
気怠そうな女は見たまんまで、やる気がない。
欠伸までして、なんで出てきたんだ?
「うるせー! いいからお前らも頭下げろ!!」
リーダー格っぽい霊鉱精は最敬礼の姿勢のまま、両隣の二人にも謝罪を促す。
確かにいきなり囲まれたり、牢に入れられたり、謝ってもらうことは沢山あるけれど、この展開はさすがに予想してない。
「いや、待って。ちゃんと説明してもらえるかな?」
「むふぅ! ボクがするんだよぅ!」
通路の奥からトテトテと走って来たのは居場所が分からなかったスフェン。
両手を腰に当ててドヤ顔の彼が言うには、僕たちは山脈の北側、つまり冬の地域に在る、帝国の関係者だと勘違いされたらしい。
霊鉱精たちは帝国と激しく争った過去があったそうだ。
「……で、その誤解をスフェンが解いてくれたってことね」
「そうだよぅ、でもお部屋から出してくれなかったからプシュってしたんだよぅ」
スフェンは森で渡したダーツガンを構えて撃つ真似事をする。
まさか自力で脱出してくるとは思わなかった。
「頑張ってくれたんだね、ありがとう。無事で良かったよ。
……でも、どうして霊鉱精たちはこんなに畏まってるの?」
「いやぁ~、坊の話だと、バベル……でしたっけ? オレたちの同胞が移住した街で姐さんは数千の敵を独りで蹴散らしたって聞きまして……
今の戦いを見ても勝てるワケねぇし、オレたちも勘違いで死にたくねぇなって思ったんでさぁ」
リーダー格の霊鉱精がヘラヘラと媚びるように笑う。
待って、数千って何の話?
マフィアとは戦ったけれど、そんな規模じゃない。
スフェン……話盛ったね……?
思わず彼の頭を撫でる手に力が入ってしまいそうになる。
それを寸でのところで我慢して話を戻す。
「数千は……まぁ良いとして……。僕たち、もう行って良いよね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いや、ください!
話したいことがあるんでさ、オレたちと酒しませんか!?」
いや、そんな『お茶しませんか?』みたいなノリで酒に誘われても困るんだけど……
話したいことってのも面倒ごとっぽいし嫌だなぁ。
でも、坑道をどう進めば良いか聞けるかもしれないんだよね、う~ん……
「あたしは良いと思うわよ? ついでにこの穴の進み方も聞けば良いじゃない」
「ティスもそう思う? うん、分った、話聞くことにするよ」
どちらにもデメリットがありそうで決めかねていたが、ティスの一言が決め手になった。
悩む僕の背中をいつも押してくれる彼女には感謝だ。
こうして僕たちは霊鉱精たちの話を聞く為に酒場へ向かう事となった。
気絶してる人、放っておいて良いのかな?almA。
僕は手甲に成った浮かぶ多面体で殴り飛ばした霊鉱精を見てそう思った。