ep3.ツーク村の生活1
■後神暦 1324年 / 春の月 / 空の日 pm 06:10
アドリアたちの集落「ツーク村」は現在地からそう遠くないらしい。
「なぁ、ワガママな頼みって分かって言うけど……その牛を村にもらえねぇか?」
「構わないけど、アスト……魔石は欲しいかな」
「全然大丈夫だ! ほんっっっとに恩に着る!」
魔石の取り合いが起きないかカマかけてみたけど……
今の反応だとやっぱり妖精族のように灯り程度の認識なのかな?
「じゃあ解体手伝うよ。夜の移動は危ないし野営する?」
「いや、無駄なく使いてぇからこのまま村まで持ってく」
気持ちは分かるけど普通の水牛でも500㎏超えるよ? それより大きい魔獣を荷台もなしに運ぶの?
アドリアだけで運ぶなんて無理でしょ。
”オルカ”をセットしてalmAと一緒に運ぶの手伝おうか……それならなんとかなると思うけど……
「うっし! オーリ、ヴィー、手伝ってくれ。いくぞ……うぉぉるぁぁぁぁ!!」
「噓でしょ!? 背負うの!?」
アドリアの体格は男子高校生の平均程度。
1,000kgを超えるかもしれない巨体を背負い歩く光景は冗談のように映る。
更に巨体が地面を引きずらないように後ろから子供二人が持ち上げて補助をしている……犬人族って戦闘民族なの?
「ぬぐぐぅぅう……さすがに重てぇな……」
「むー……」「にゅー……」
「待って待って三人とも! 確かに運べてるけど辛すぎるでしょ」
こんなに無理してでも運ぼうとするなんて……何でそんなに必死に?
「僕も手伝うから! almA!」
almAが下から支え、アドリアと僕で前後から持ち上げ、オーリとヴィーが倒れないよう左右を押さえる格好をとる。
「わるいなメルミーツェ、助かる」
「ミーツェで良いよ、ティスもそう呼ぶから。
もし良かったらそんなに無理する理由聞いてもいい?」
「そっか、なら俺はアドで。理由か、実はな――……」
アドの話しでは、星喰いのスタンピードでツーク村はかなりの被害を受けたらしい。
農地の多くが踏み荒らされ、防壁も半壊、建物も多くが壊されたそうだ。
更に防衛に出た大人達が負傷して、農地や建物の復興にも人不足、食料については備蓄はあっても減る一方。
スタンピードで襲ってきたのは魔蟲だったので建材にできても食料にはならず、子供たちも魔獣に遭遇する危険性を覚悟で狩りに出る事態に陥っているそうだ。
魔虫……絶対に無理だ、虫は苦手なんだよ……花畑で襲ってきたのが魔狼で良かった。
「大変だったんだね……子供なのにみんな偉いよ。それにしてもすごい膂力だね」
「お前も子供だろ。俺は狼人族と犬人族のハーフだからな。身体強化魔法で犬人族以上に力が強くなるんだ」
「オーリは速く走るの方が得意だよ!」「ヴィーも!!」
身体強化魔法は種族によって特化した分野があるってことかな?
それでアドは2つの種族の良いとこ取りができる感じ?今度もう少し詳しく聞いてみよう。
「なるほど、だからアドは強いんだね。
オーリたちがアドが戦ってるって話してたとき落ち着いてた理由が分かったよ」
「なぁ、もうそろそろ村につくけどミーツェはどうすんだ? 俺ん家泊ってくか?」
「「(オーリ・ヴィー)の家に泊まる!!」」
ティスが小声で話しかけてくる。
(ミーツェ、魔石のこと調べるならお世話になったら?
犬人族の常識はあたしも知らないから知っておいた方が良いと思うわ)
(そうだね……それに復興の人手不足とか食料難を聞いちゃったらスルーできないもんなぁ……)
僕たちの話は纏まった。
「しばらく滞在するつもりだけど、お金持ってないから今日は泊めてもらえると嬉しいな。
明日以降は野営しながら復興の手伝いをするよ、人手不足なんでしょ?」
――本当は拠点で寝るけどね。
「そっか助かる。取り合えず戻ったら村長んとこ行こうぜ。
今後についてもまぁ何とかなんだろ。」
「「アド兄ちゃんのパパが村長なんだよ!」」
「そうなんだ、アドって言葉使い荒いのにお坊ちゃんだったんだね~」
「そんなんじゃねーよ! ほらっ見えてきたぞ!」
見えてきたって言われても巨体のせいでほとんど前見えないんだけど……
あ、でも櫓みたいなのは見えるね。
全体的に木製、文明レベルは前世より何百年前なのかな?
――オリヴァ! オリヴィ!
「「パパ~!」」
櫓から降りてきたパパと呼ばれた男は抱き着く双子をそのまま抱き上げ近づいてくる。
オーリとヴィーとは愛称だったらしい。
「アドリア、二人を守ってくれてありがとう。それにすごいな! 魔水牛を仕留めたのか!」
「いや、仕留めたのは俺じゃねぇよ。こいつだ」
「「ミー姉ちゃんとあるまがズバババって倒したんだよ!」」
ミー姉ちゃんか……なんだか良き響きだ……甘やかしたくなるね!
「ミー姉ちゃん? 誰だいそれは――……え? 猫人族の女の子!?」
この人が双子の父親か、二人は父親似なんだね、髪の色とかそっくり。
「こんばんは、メルミーツェと申します。
辺境で妖精族と暮らしていましたが、今は旅をしております」
「妖精族!?」
毎回この件があるのだろうか……今後双子とアドにも誤解を解くのに協力してもらおう。
~ ~ ~ ~ ~ ~
それからは村では何人か大人が集まり手慣れた手つきで魔獣を解体していった。
肉は分配され、骨は肥料の材料に、皮はなめしへ、アドの言った通り無駄なく使われた。
僕は双子の父親とアドに村民に紹介され、魔獣の提供や双子を助けたこともあり手放しの歓迎まではいかないものの概ね好意的に受け入れられた。
「子供たちの誤解が解けて良かったね、ティス」
「えぇ、でもどうしてミーツェは”ミー姉ちゃん”であたしは”ティスちゃん”なの!? 納得いかないわ!」
「ティスの方が年上だけどほら、ちっちゃいから仕方ないよ」
「おい、集会所についたぞ、その話は一旦置いとけよ」
さて村の人たちには受け入れられたけど、本番はここからだ。
双子パパが先に話通してくれてるし、村長の息子のアドがついてきてくれてるから大丈夫だろうけど……
「親父ー、つれてきたぞ!」
壮年の男性、中年の男性、初老の男女数人、挨拶をすませ経緯を説明する。
反応は村民とほぼ同じ、大体は友好的な表情だったが、壮年の男性だけ冷たい視線を向けてくる。
「ふんっ、子供を助けて食料を提供か……取り入って何か別の目的はないだろうな?」
「おい、親父! そんな言い方ぁねぇだろ!?」
この人がアドの父親……村長さんね。周りの人と少し違う、アドがハーフって言ってたからこの人は狼人族?
それにしても何でこんなに刺々しい態度なんだろ? アドには悪いけどちょっと腹立つな。
”テラス”をセットしておけば感情読めたのに……失敗したな。
「滞在するのは構わない。だが妙なことはするなよ、猫人族の***」
「親父!! なんつーこと言うんだ!? おい待てよ!!」
行っちゃった、最後の言葉わからなかったけどなんて言ったんだろ?
理由はわからないけど嫌われてるみたいだし、泊る先をオーリたちの家にしておいて良かった。
「すみません、女性に対して失礼なこと。私は副村長のバゼットです。
魔虫の襲撃で見ての通り復興中でして、物資の買い出しに都市に出た者たちが襲撃されたこともあり、村長も外から来る者に懐疑的になってしまっているのです」
なるほど、タイミング的に疑われたのか。でも村社会って排他的なイメージあるし、こっちの方が自然かも。
最後の言葉はスラングかな?
女性に対してって言ってたからビ〇チみたいな意味合いだろうね。
言葉自体は気にしないけど敵意に近い冷たい目は理解はできても少し堪えるな。
まだまだ課題はたくさんあるねalmA。
僕は浮かぶ多面体に苦笑いする。
【オリヴィ イメージ】




