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Another side.信じる者1

『chap.7 城塞都市オーレリア』にて登場した、ジェイル視点になります。

ファルナの同行者である彼は何を目撃するのか。


時系列の戻りはなく、

[ep19.収穫祭のその後、そしてアルテスタ出発]とほぼ同時期の話になります。

――――――――――――――――――――


■後神暦 1326年 / 春の月 / 黄昏の日 pm11:00


――クリスティア王国 国境付近


 パチパチと弾ける篝火(かがりび)の火の粉が夜の闇に舞う。

 ワタクシは野営地で神子(みこ)に向かい合いこれまでの旅を振り返る。


 オーレリアを発ってから約半年、危険はあったが陸路を選んで正解だった。

 寄る土地の者たちから賛同者を得て、出発前は我が私兵で50に満たなかった兵も今や倍以上だ。

 まったく、神子の求心力は凄まじい。


 しかし、問題はここからだ……



「やはり、ジェイル様の仰ったように全ての国境が封鎖されていますね……」


 我が神子にも焦燥が見える。

 仕方のない事だ、我々はクリスティアに接する小国を渡り歩いた。

 その何処からも越境をすることは叶わず、今も国境付近で野営を繰り返す毎日。

 せっかく常夏の地域からの境目である峡谷を決死の覚悟で渡ったにも関わらず、この状況ではどんな名将であろうと焦るのは当然だ。


 ワタクシは彼女を安心させる為、大仰な身振りでいつも通りに接する。



「神子よ、心配無用! ワタクシに策があります……んヌッ!」


「本当ですか!? どのような策でしょう?」


「それはまだ言えません……ですが! どうかワタクシを信じてください~んヌッ!」


「それはもちろん、お会いした時から信じています。

いつも頼ってしまい申し訳ありませんが、どうか……どうかよろしくお願いします」


 なんと勿体ない言葉……その言葉に必ず応えてみせよう。

 ワタクシの既に固まっていた決意は更に強固なものへとなった。



「ささ、夜も深くなります。そろそろお休みになれた方がよろしかと思います……んヌッ」


「いつも皆さんに夜の番をして頂いて申し訳ないです……」


「構いません、神子は我らの旗。万全でいることが勤めと思ってください~んヌッ」


「ふふ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えます、おやすみなさい」



 神子の背中を見送り彼女に話すことのなかった策について考える。

 我々のような武装した集団が越境する方法は三つ。


 一つは正規の手続きを経て入国する、これは何度も試したが無理だ。

 国の中央の内戦が激化する一方で、危険分子に成り得る集団を招き入れる愚か者はいない。


 二つ目、天然の要塞となっている山脈や大森林を超える。

 これは現実的ではあるがリスクが高い。

 100を超える兵を維持しながら、国が開拓を諦めている地を進むには犠牲を伴う。

 持ち込める物資も限定される。

 何より、それらを抜ける直前に()の国の哨戒に見つかれば全滅は必至。


 なれば最後の策、これが本命。

 とは言え、こんなもの策などと呼べない。



 ――強行突破に見せかけた陽動を用いた少数の越境



 天運に左右される二つ目の策より、確実に神子をクリスティアへ送れる。

 越境後は信頼できる部下たちが神子を護ってくれるだろう。

 既に神子には内密にこの策を共有し、みな納得している。

 この戦いで我々の7割は死ぬだろう、それでも神子は必ず、クリスティアでも人々を導き、天命を全うするだろう。



「森や山脈を抜けようが、砦を抜けようが、半数以上は死ぬ。

どちらを選んでも犠牲が出るなら、確実な結果を求めるべきだ」


「あらぁ? 一人だと『ヌ』はつかないのねぇ?」


「何者だっ!?」


「こんばんワぁ~」


 まるで影から這い出たようにいつの間にかワタクシの後ろに立つ女。

 忘れもしない、オーレリアの兵力をたった二人で相手取った常識の埒外にいる者。

 救う為に戦う白の少女とは対極で、黒の彼女は存在そのものが『死』を想起させる。



「ラミアセプス殿……どうやって此処に?」


「んふふ、影に運んでもらったワぁ。スゥーっとねぇ」


 言っている意味が分からない。

 しかし、そもそも推し量れない人物を自身の常識に当てはめようとしても無駄だ。

 大切なのはそんなことではない、今、彼女が目の前にいる幸運を逃すな。



「ラミアセプス殿、実は……――」


「分かってるワぁ、国境の砦を突破するつもりなんしょう~?」


「なっ……」


「んふふ、いいワよぉ? もちろん手伝ってあげるワぁ」


 彼女は見透かしたようにクスクスと嗤う。

 その後、暫く我らが考える策を話したが、彼女は異を唱えるでもなく、ただこちらの願いを聞いてくれた。それどころか見返りも求めない。


 拍子抜けなくらい事が上手く運ぶ。

 逆に不安になってしまうくらいだ。



「じゃあ、さっそく明日から砦に向けて出発しましょうかぁ~」


「えぇ、必ず神子をクリスティアへ……この命に代えても」


「んふふ、貴方たちはあの子を護るだけでいいワぁ~。

また砦で会いましょ~」


 ゾクりとするような笑みを浮かべて彼女はまた闇へ消えていった。

 知らず知らずに緊張していたのだろう、急に全身の力が抜けて膝をつく。

 手も震えている、失礼なことかもしれないが悪魔と邂逅した気分だ。


 神の敵対者。

 悪意の化身。


 聖典の教えでは悪魔と契約した者は(ろく)な最後を遂げない。


 だが例え彼女がそれに類する存在だったとしても、ワタクシは協力を求めただろう。

 神子の成す大儀の為ならば喜んでこの魂ごと捧げる。


 初めはワタクシの嗜好を認めてくれた理解者としか思っていなかった。

 しかし、行動を共にする度に、戦いを共にする度に、神子の心に惹かれていった。


 神託を受け、その信念の為に自らの安寧を捨て、母国に反旗を翻した解放の乙女。

 きっと母国では後世、大罪人として語り継がれる。

 それでも折れることのない神子の信念は多くの人を惹きつけ、汚名以上の栄光が語り継がれるはずだ。



「この身は礎に、魂は供物に、願わくば神子の歩み道に光があらんことを」


 ワタクシは神子の旗にかしずいて祈った。

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