ep1.強さと尊厳はトレードオフ
■後神暦 1324年 / 春の月 / 黄昏の日 pm 03:15
妖精族の花畑を離れて探索を開始し地形的なことが少し分かった。
花畑のある草原は恐らく周りを森に囲まている。
「探索範囲を広げるなら森を抜けないといけないのか」
「あたしは全然かまわないわよ」
「まぁスキルの習熟度も上げたし、多分ある程度なら対処できるよね」
「あぁ……アレね……」
あれからスタンピードで戦ったデカい魔狼のような脅威に対処できないか考えた。
装備の拡充以外にも出来ることないかと思い、拠点で新しい施設を使うことにしたんだ。
アトーメント・ノアではキャラクターの強さはレベルとスキル習熟度で決まる。
レベルは訓練所に配置して経過時間によって上がっていく、この辺はソシャゲらしいよね。
反面、スキル習熟度はアストライトを消費するが時間をかけずに上げることができる。
この世界では訓練所はただの射撃場やジムのようで普通に体を鍛えられるだけ。
ゲームのようにレベルアップして突然強くなるような感覚はなかった、そりゃそうだよね。
問題はスキル習熟度……
VRヘッドセットのような機材をつけて実行するだけのお手軽仕様……そこまでは良かった。
だけどいざ使うと、関連する知識が流れ込んでくると言うか、無理やり頭に詰め込まれると言うか……形容し難い衝撃に耐えきれず「んほぉぉぉおおおぉ」と変な声が出てティスに大変ドン引かれた……
確かに武器の扱いに理解が深まったんだよ……?
威力は試していないのでわからないけど、武器の取り回し、体捌き、銃の命中精度、どれを取っても格段に良くなったと実感できるくらい成果があったと思う。
まぁ……それと引き換えに尊厳が傷ついたことも実感している。
しかも魔狼から取れたアストライトも8割消費した。
資源的にも羞恥的にも状況が逼迫しない限り使わないと心に決めた。
いや本当ね、頭がパァになるかと思ったよ……
「ティス、あれは僕も知らなかったし不本意なんだよ……」
「えぇ……わかってるわ……」
「ティス、あれは今後身を守るために必要だったんだよ……」
「えぇ……わかってるわ……」
「ティス――……」
「だからわかったってば!!」
言い訳を繰り返すより、実戦で汚名返上しよう……
~ ~ ~ ~ ~ ~
日中にひたすら直進し、夜はポータルから拠点に戻り、日の出と共にまた進む。
魔獣にも遭遇したが、危なげなく撃退し2日目の日暮れ前には森を抜けることができた。
森の先は妖精の花畑があった草原よりは背の低い草が茂る平原地帯が広がっていた。
そう遠くない距離に川が見え、何より川と沿って明らかに人の手が入った道が見える。
「街道だよティス!!」
「集落が近くにあるかもしれないわね」
「そういえば妖精族って他の種族との交流ってあったの?」
「ほとんどないわ。たまーに花畑近くに迷い込む人はいたけどそれくらい。
それに少し話したくらいで交流って言えるほどじゃないわ」
なるほど、妖精族の花畑の場所からして迷い人くらいしか辿り着かないのか。
それに他種族でも言葉が通じるんだね、それは安心だ。
「どんな種族にあったことあるの?」
「犬人族ね、猫人族はミーツェが初めて」
メルミーツェの種族名は猫人だったけど、この世界の獣人は〇人族って種族名の法則なんだね。
ティスとはたくさん話したと思っていたけどまだまだ知らない常識が多いな。
魔石に猫人族、ゲームと同じものでもこの世界で呼び名が違うから合わせていかないと……
「じゃあ街道の先は犬人族の集落かな?」
「どうかしらね、でももしそうだとしたら少し憂鬱だわ……
理由はわからないけど犬人族って妖精族を怖がるのよ。
迷い込んだ人たちも怯てたもの、いきなり失礼じゃない?」
「うーん、なんで怯えるんだろうね? そのときティス不機嫌な顔してたんじゃない?」
「毎回不機嫌なわけないじゃない! それに――……」
――きゃぁぁぁあぁぁあぁぁっ!!
「悲鳴!?」
どこから?
声の感じは女の人か子供みたいだけど。
「ミーツェあそこ!!」
ティスの指さす先は街道手前の平原。
そしてこちらに向かって走る獣人の子供が二人とそれを土煙を上げて追いかける魔獣。
「牛の魔獣? 魔牛?」
「魔水牛ね」
「もーなんなのさ、名付けの法則!」
名前については置いておくとして助けないと!
こっちに向かってきてくれてるのは都合が良いけど子供たちが射線に入ってる。
言うこと聞いてくれるか、そもそも言葉が通じるかわからないけど……
「そこの子! 真横に走って!!!!」
幸い子供たちは僕の指示を聞き方向を変えた。
射線から外れた瞬間に数回発砲、牽制射撃をしながら駆け寄り大きく跳躍。
「almA! 戦術技能アサルトチャージ!」
牽制射撃をalmAに任せ空中で持ち替えたハンマーで脳天を叩きつける。
よろけた魔水牛に射撃を終えガトリングをスピア状に変形させ突進するalmAの刃が喉に深々と突き刺さった。
今までの僕とalmAが別々に戦っていたものとは違い連携のとれた攻撃だったはずだ。
「どーだいティス! 今の連撃は!? スキル習熟度って大事だったでしょ!!?」
「だからそれはわかったって言ってるじゃない!!」
恥ずかしいスキル習熟も無駄じゃなかったねalmA!
僕は浮かぶ多面体のスピアにハンマーでハイタッチをする。
【森を抜けた先の平原 イメージ】




