ep6.ブレッシング・ベル
■後神暦 1324年 / 春の月 / 天の日 am 08:30
――スタンピード翌日
部隊編成、”ルックス”セット……――Ready
「狩人セットよし、でも……50頭前後の解体って先が長いなぁ……」
昨日は戦い疲れもあって解体までできなかったけど、傷む前に食料として保存したいし、使った元素値を少しでも取り戻したい。
「うぷっ……ミーツェ、毎回思うけどよく解体できるわね」
「僕だって初めは吐きながらやってたよ、それに今だって好きでやってるわけじゃないよ」
いや本当、食肉に関わる職業の方々は本当にすごいんだなぁってしみじみ思うよ。
前世では包装されたされたものが当たり前だったからね……あれ? なんか引っかかる?
「……アストライトだ、魔狼にもあるんだ」
「アストライト? それは魔石よ、昨日教えたでしょ? 魔石が体内にある獣が魔獣だって」
魔石ってアストライトのことだったんだ……
妖精族の森では魔獣をほとんど見なかったから気づけなかったけど、もしかしてこの世界でもゲームみたいにアストライトをめぐって戦争とかしてるのかな……?
「ねぇティス、魔石って使い道あるの?」
「あるわよ」
やっぱりか……エネルギー資源の取り合いはよくある戦争理由の一つだもんね……
「こうやってマナを注ぐと……光るのよ!」
「は? それだけ?」
「そうよ? 今までだってランプ使ってたじゃない」
あのランプに魔石使ってたんだ……言ってよティス。
でも今の反応からエネルギー資源というよりは”単なる光源”扱いなのかな?
魔獣は島でもありふれていたし、争いの火種になるのは杞憂だった?
ただ妖精族はマナの都合で花畑から離れられない……
それなら僕が離れた場所の事情も知っておいた方が良いかもしれない。
前世の最後は人付き合いが怖くなった僕だけど、本来は人と話すのが好きだと自分では思っている。
死にたくないから生きれるだけ生きる、この目標は変わらない。
でも生きていれば欲が出てくる、妖精族に出会ってこの先ずっと独りで生きていくのが怖くなった。
この世界で出来た繋がりを失いたくない。
だからもし魔石の扱いがゲームの様に争いの火種になり得るのであれば妖精族を連れて島へ逃げよう、もう僕にとって妖精族は大切な存在なのだから。
新しい目的ができた。
これからのことは事前にティスとダフネリアには話しておきたい。
「よし、そうと決まれば急いで解体終わらせちゃおう!」
「どうしたの? 急に元気ね?」
「ティスも手伝ってくれてもいいんだよ?」
「嫌ーよ!」
~ ~ ~ ~ ~ ~
――数時間後
「つ、疲れた……」
正直、半分を超えたあたりから魔石を取り出したら解体を止めてた。
影に潜る魔狼はレアっぽいし解体したけど魔石も大きかったなぁ、やっぱり特別なのかな?
「ティス、ダフネリアに話したいことがあるんだけど一緒にきてくれない?」
「いいわよ~」
もしかしたらダフネリアは魔石についてもって詳しいかもしれない。
「ダフネリア、少し話したいことがあるんだけどいいかな?――……」
それからティスとダフネリアに魔石について話しをした。
魔石はアストライトと呼ばれていたこと、アストライトめぐって戦争が起こったこと、もしもそうなる危険があるなら妖精族を連れて逃げたいこと、それを見定めるために準備ができたら花畑の外を調べにいくこと。
転生やゲームについては話すとややこしくなるので少しの嘘を混ぜて伝えた。
「なるほどな、わかった。我らの子らが無事産まれ揺り籠を植え替えることがでれば異論はない」
「うん、ピンは刺したままにするつもり。だから植え替えができるか試してほしい」
「それで、いつ発つつもりだ?」
「魔狼との戦いで使った武器の補充ができ次第かな、多分ひと月はかかると思う」
「……あたしもいくわ」
「え?」
「あたしもいく! ミーツェの扉はどれも同じところに繋がってるんでしょ? だったらマナの心配もないわ!」
確かにティスがいた方が寂しくないけど……どんな危険があるかわからない。
正直、何かあったときに守り切れる自信がない……
「連れていってやれ、お前と離れるのが嫌なのだろう。
外の世界を知るのは良いことだ。それにティスタニアも自分の身くらいは守れるはずだ。」
ダフネリアの言葉は僕の背中を押した。
不安はある、でも本音を言えばティスと離れるのは寂しい。
「……わかった、でも安全第一、生存第一だからね」
「子猫、少し待っておれ」
暫くするとダフネリアはつぼみの膨らんでいないブレッシング・ベルを一輪抱え戻ってきた。
「すまん、待たせたな。ティスタニア、これに私と共にマナを注げ」
「わぁ……キレイ……」
思わず息を呑んだ。
ティスとダフネリアがマナを注ぐとブレッシング・ベルが淡い水色に変わっていく。
「あたしとダフネおばーちゃんの髪の色が合わさった色でしょ? 髪にさしてあげるわ」
「お守りだ、持っておけ。
妖精族のマナを込めたブレッシング・ベルは呪いすらも跳ね除け厄災を払ってくれる。我々がこの花を秘匿するもう一つの理由だ」
「いいの? ありがとう、すごく嬉しいよ!」
「あぁ、いつでも戻れるとはいえ、気をつけて行ってこい”メルミーツェ”」
なんだか本当に認められたようで、少しくすぐったいような温かいような、言語化が難しいけど、すごく満たされる気持ちだなぁ。
この気持ちを大切にしていくよalmA。
僕は浮かぶ多面体に無意識に撫でる。
◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇
[chap.2 妖精の花畑]をお読み頂きありがとうございます!
この後は閑話と幕間を挟み、次章に移ります。
次章はティスタニアと一緒に花畑を出て人里を目指します。
新しい種族が登場するかも……?
引き続きお付合い頂ければ幸いです。




