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Another side.迷える者2

引き続きファルナ視点になります。


――――――――――――――――――――


■後神暦 1325年 / 夏の月 / 獣の日 pm 08:00


――オーレリア市街 大通り


 オーレリアで奴隷が使役されていることを知ってから、もうすぐ10日経つ。


 来る日も来る日も街で奴隷の解放を訴えた。

 幸いなことに、耳を傾け賛同してくださる住民も増えた、この声はいずれ大きくなっていくだろう。


 しかし、実際に奴隷を管理している者たちには全く聞き入れてもらない……

 兵士へ直談判もしたが無駄だった。


 それでも諦めるワケにはいかない、女神の意に背く行為を見過ごすことはできないのだから。



 それに希望がないワケではありません。

 オーレリアに来る途中で別れたジェイル様ももうすぐ追い付いて来られるはず。

 救世主もこの街に到着されていてもおかしくない、お会いして話すことが出来ればきっと力をお貸し頂ける。


 ワタシは必ず成し遂げてみせます……!

 女神エストよ、どうか見守っていてください。


 酒場があり夜でも活気のある道を通り、明日の計画を考えながら宿への帰路についていると、すれ違った三人の男女の会話が耳に入った。ワタシは彼らが呼び合う呼称に思わず足を止める。



「あのライフル女のせいでハーレム計画が狂っちまったぜ……」

「でもアユムの飛行魔法のお陰で川を突っ切て戻ってこれたね!」

「今頃見当違いな場所を探してると思うと笑えるわ~」


 アユム……司教様から教えられた救世主の名前だ。


 人違いかもしれないが、ヴェルタニア(この国)ではまずいない名前だとも聞いた。

 ワタシは女神が与えてくださった幸運に感謝し、一行を呼び止めた。



「あの! アユム=ベニヤ様でしょうか!?」


「ん? そうだが、今はウォークと名乗っている。

ウォーク=クリムゾンバレーだ、覚えておけ。それで、あんたは誰だ?」


 やや軽薄は印象を受けるが、それはワタシが世間知らずだからだろう。

 実際に神殿の常識が通じないことがままあった。



「ファルナ=ティクスと申します。

女神から救世主の助けになるよう神託を受け、神殿からこの地に馳せ参じました」


「何それ、かった~い」

「それにイモっぽいよね」


 取り巻きの女たちはワタシを蔑んだ態度を取るが、そんなことを気にしている場合ではない。

 ワタシは救世主へ、この街で起こっていること詳らか説明をした。

 これで奴隷解放に光が見えてくる、そう思っていたが彼らの反応は真逆だった。



「はぁ、奴隷ね。別に問題ねぇだろ? オレも仲間に奴隷入れるつもりだし」


「――!? では奴隷を解放にお力添え頂けるのでしょうか!?」


「いや、いい女だったらな。

お前もオレの助けになれって神託、だっけ? 受けたんだったら一緒にこいよ。

丁度新しい女が欲しいって思ってたんだよな……っておい! どこ行くんだよ!?」


 気が付けばワタシは彼の言葉の途中で路地に向かって走り出していた。

 おかしい、救世主があんな心のさもしい者であるはずがない。


 神殿を出て、世界をより良くする一助になれると思っていたのに……!


 走って、走って、走って、脚がもつれる頃には見覚えのない裏路地に来ていた。

 立ち上がる気力もなく、膝をついてワタシは叫んだ。



「何故だ!? 何故なんだっ!!!!」


 自分でも驚くほどの声量だった。慌てて周りを見回したが誰もいない。


「はは……あはは……」


 誰の迷惑にもならなかったことに今更安堵した自分が滑稽で、自嘲と虚しさから、もう空笑いしか出てこない。



「こんばんワぁ~」


「――!? あ……す、すみません!! つい大声を出してしまいました……」


「気にしないでぇ、誰だって堪え切れないことってあるワぁ~。良かったら話を聞くワよぉ?」


 突然現れた女性は本で読んだ民族衣装のようなフードを被り、ワタシに微笑み、優しい言葉をかけてくれる。

 言語化が難しいが、うんと幼い頃に母に抱かれたときの安心感に近いものを彼女に感じ、ワタシは気づいたら頭に浮かんだことを全て話していた。


 神殿で学んできたこと、

 使命を受けてこの街にきたこと、

 白髪の少女に敗れたこと、

 その少女の言葉が頭から離れないこと、

 街の奴隷のこと、

 やっと会えた救世主が思い描いていた人物とはかけ離れていたこと……


 一度口を切ると取り留めなく出てくる言葉を彼女は黙って聞いてくれた。

 そしてワタシが話し終えると少しだけ悪戯に笑い、子供に聞かせるようなお伽噺の枕詞を使い語り出した。



「むか~しむかし、ある一人の少女がいました。

少女は誰とも関わらず、他人に迷惑をかけることもしていませんでした。

しかし集落の人たちは忌み子と呼ばれた少女を殺そうとしました。

少女は必死に逃げました。

逃げて、逃げて、やがて大きくなったその子は力をつけました。

少女は集落へ戻り、そして自分を殺そうとした集落を全て滅ぼしてしまいました。

さて、貴女はこの少女を悪い子だと思うかしらぁ?」


「……いいえ、思いません」


「正解よぉ、ちなみに悪い子と言っても正解だけどねぇ~」


「悪い子でも正解? 何故ですか? 

集落を滅ぼすのはやり過ぎですが、それまでの少女は罪を犯していないのでしょう? 

罪なき少女を殺そうとするのは悪です」


「物事の善悪はどの立場で視るかによって変わるからよぉ。

大切なのは選択の責任を持つこと、それと最後まで折れないことかしらねぇ~」


 そう言って笑った彼女が小さく『私に言えたことじゃないけど』と呟いた。

 善悪の視点を変えろ……つまり街の者たちは奴隷の使役を悪と思っていない、悪と思わなければ改心の余地がない、と言いたいのだろうか。ワタシはそのまま疑問を投げてみることにした。



「つまり、街の人たちは奴隷を使役するすることを悪いことだと認識していない、と言うことでしょうか?」


「そうねぇ~、もっと踏み込むなら、劣等種を使って自分たちの繁栄に貢献しているから、素晴らしい事をしていると思っているかもしれないワぁ」


「そんな……間違ってます……」


「貴女の正義は否定しないワぁ。

それに同じ(こころざし)を持って、たった一人で奴隷を助けに来た女の子がいるワよぉ~。

絹のような白い髪に銀の瞳、貴女が負けた少女じゃないかしらぁ?」


「なっ!? 知っていたんですか!? 貴女は何者ですか……彼女の仲間でしょうか?」


「ンフフ、どうかしらねぇ~。でも捕まっちゃったみたいだから助けに行くところよぉ~」


 彼女が全てを知って接触してきたことにここで気づいた。

 しかし、ワタシの助けなどなくても、彼女ならば一人で助け出せてしまえる。

 何故か分からないが、そう思う、それ以外の想像が出来ない、ならば……



「ワタシも行きます。信ずる神が違ったとしても、同じ正義を共有できるのなら彼女に協力を求め、共に奴隷の解放を成し遂げます。そしてその選択に責任を持ち、後悔はしません」


「ンフフ、わかったワぁ~。柔軟な思考は美点よぉ、それと多分あの子は神様を信じてないワぁ、そこもいいのよねぇ~。ちなみに名前はメルミーツェ、覚えてあげてねぇ」


「わかりました。では行きましょう、メルミーツェさんはどこに捕まっているんですか?」


「奴隷を入れる牢屋ねぇ~。

きちんと助けるにはちょっとだけ面倒な物を壊さないといけないから、それも道すがら説明するワぁ」


 ワタシは優しくも、どこか世界から逸脱した女性と共にメルミーツェさんが捕まっている場所を目指し路地を歩き始めた。



「すみません、まだ名乗っていませんでしたね。

ワタシはファルナ=ティクスと申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「ラミアセプスよぉ」


 一瞬、星に照らされた彼女が全てを飲み込む大蛇に見えた。

 蛇は地域や信仰する神よって善悪の概念が変ると聞いたことがある。

 彼女はそういったモノの体現なのかもしれない。



「女神よ、ワタシは善き行いだと信じ突き進みます」



 ワタシは心の中で女神への祝詞を繰り返した。


【ラミアセプス(民族衣装) イメージ】

挿絵(By みてみん)

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