表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/194

ep14.転移者vs狂人

■後神暦 1325年 / 夏の月 / 黄昏の日 am 03:10


――オーレリア中枢区 門前


「また会ったな、厄災(やくさい)咎猫(とがねこ)……」


「誰それ? 人違いだと思うよ」


 前回は厄災の魔女で今回は厄災(やくさい)咎猫(とがねこ)……

 言っていることに統一性はないし、何よりそのセンスに辟易するよ。

 それに巨大な鋏を持った狂人がいるのに格好つけて出てくるなんて、危機管理能力が壊れてない?


 死屍累々の深夜の街。まともな神経ならこんな場所は避けるはずだ。

 そんな異常な神経のウォークは僕の返事が気に障ったのか喚き始める。



「オレを撃ち殺そうとしただろーが!! 忘れるワケがねぇぞ!?」


「いや、キャラ変わってるって、最後までキザに振舞いなよ」


「あらぁ、ちゃんと殺そうとしたのぉ? 偉いじゃな~い」


 すぐキャラ崩壊するあたり精神が未成熟だよね。

 それに人を撃ったことを褒められても嬉しくないし、鋏持った手で頬を突っつかないでよ、刺さりそうで怖いって。

 ウォークは好きじゃないけれど、このままだと確実にラミアセプスに殺される。

 それはちょっとだけ可哀想だ。



〈君、日本人でしょ? 本当に危ないから今すぐ逃げた方がいいよ〉


〈――!? やっぱりお前も異世界召喚者か。でも人間じゃないのはなんでだ?〉


「あらやだ内緒話ぃ? どこの言葉かしらぁ?」


 ラミアセプスに分からないように日本語でウォークに言葉を投げる。


 しかし彼には状況の深刻さが伝わらない。

 よく考えたら今まで話し合いでの解決に失敗して、戦わざるを得ないことの方が多かった。

 自分の交渉力の低さに悲しくなったが、めげずに話を続けた。



〈それはどうでもいいよ。僕の隣の女はマジでヤバいんだって、ここの死体見ても何も感じないの?〉


〈それはそいつらがザコだからだろ? オレは選ばれて異世界に来たんだ〉


〈いや、たまたまだと思うよ。君、転移者でも元は一般人の子供でしょ。高校生くらいかな? こんなとこにいないで普通に暮らしなって〉


〈オレよりガキに言われたくねぇよ。中二の冬にこの世界に召喚されて全てが変った。オレが役職を名付ければその通りになる、神みたいだろ?

オレはこの世界の救世主だ、バカにしてくる奴もいない、クソみたいな親もいない、女だってヤり放題だ、これが選ばれた者じゃなかったら何なんだよ〉


〈……名付けってそんな能力(ちから)なんだね、他人の人生を弄ぶのは考え直した方がいいよ。本当に引き返せなくなってから話が違うって言っても遅いんだよ? それにとにかく今は殺されないうちに早く逃げて。死んだら全部が終わりなんだよ、ね?〉


〈うるせぇな、お前は母ちゃんかよ〉


「終わったかしらぁ?」


「……うん」


 僕が話している間に周りの兵士を全滅させたラミアセプスが退屈そうに聞いてくる。


 ウォークにはさっさと逃げてもらいたかったが結局ダメだった。

 今の最善はラミアセプスと戦わないこと、次善で負けを悟った時点で全力の命乞い。この次善策を超えるともう戻れないけれど、彼にはそのラインの見極めすら期待できない。


 僕は一縷(いちる)の望みに賭けて、歩く回帰不能点ポイント・オブ・ノー・リターンにお伺いを立ててみる。



「ねぇラミアセプス。この子たちは殺さないで欲しいんだけど……」


「そうねぇ~、楽しませてもらえたら考えるワぁ~」


 予想はしてたが言質は取れなかった。

 ウォークがこの世界に来て何をしてきたかは知らないが、軍人でもない学生の年齢の青年が死んでしまうのは気が咎める。そんな僕の気も知らないで彼らはいちゃつきながら軽口を叩く。



「アユム~、何話してたの~?」

「ん~、死にたくなかったら逃げろだってよ」

「一対一でアユムに勝てる奴なんていないよね!」


「……アハ、アハハ、期待できそうねぇ~」


「ちょ、ラミアセプス待っ――」


 飛び出したアイツを止められなかった。

 ウォークたちを跳び越したラミアセプスは、背後から蛇が這うように姿勢を低くしたまま彼らの正面に戻る。

 何をしたか全く分からなかったが、少しの間を置きウォークの取り巻きの一人である斥候風の女の片脚が地面に転がった。



「アハハハハハハッ!!」


 当然ウォークの両隣から悲鳴が上がるがラミアセプスは止まらない。

 今度は跳び越し様に斥候女の片腕を切り落とし、また蛇のように正面に戻ると残った脚もいつの間にか切断していた。

 狂気に満ちたラミアセプスは、胴体に左腕と頭だけがついた女が地面で泣き叫ぶ光景を見て満足そうに笑う。



「は~い、チョッキン……」


「やり過ぎだって!!」


 最後に残った左腕を笑いながら切り落とす目の前の狂人が心底恐ろしかった。

 四肢の3つを切断されたらショック死してしまう、それでも追い打ちをするのは精神異常としか言えない。



「どうしてぇ? これが戦って負けた時の可能性よぉ? そしてこれが……――」


 さも当然と言わんばかりのラミアセプスは、怯えて言葉の出ないシスター風の女の心臓を閉じた鋏で一突きにした。


「まだ幸せな場合ねぇ。いーい、ミーちゃん? 生殺与奪を握られるってことは惨いことをされるかもしれないってことなのよぉ? それが嫌だったら強くなるしかないワぁ~」


「な、な、な、何なんだよお前ら!!」


 一瞬で仲間を奪われたウォークも恐怖で顔を引き攣らせている。

 ここが彼の分水嶺(ぶんすいれい)だ、割り込んでもラミアセプスに勝てない僕はどうか彼が間違った選択をしないように祈ることしかできない。



「うわぁあぁあぁあぁぁぁ!!!!」


 祈りは虚しくウォークはラミアセプスに魔法を放った。

 砦でも見せた膨張する火球だ。


 数人がかりの風魔法で堀の水に落とす、そんな環境を利用した方法でなくては防げなかった魔法だが、それでも僕にはラミアセプスに通じるとは思えなかった。



「あらぁ、スゴいじゃな~い。でもぉ……」


 思った通り、アイツは余裕を崩さない。

 事も無げに鋏で火球を空へ弾き、まるで打ち上げ花火を見るようにニコニコと天を仰いで火球を見送った。



「あ……あ、あ…………」


 言葉も出ないウォークには同情する。

 そして情けないが、これから起こるであろう惨劇を見るのが怖くなり僕は強く目を瞑った。



「ンフフ、楽しかったワぁ~。貴方ぁ、生き残りたい~?」


「「は?」」


 想像していなかった展開に僕とウォークは同時に声が出た。

 ラミアセプスは気紛れだ、以前僕も見逃されたことを思い出した。


「あ、あぁ! 死にたくない!!」


「ンフフ~、じゃあ、ミーちゃんと戦って勝ったら見逃してあげるワぁ~」


「「は?」」


 またハモった。だっておかしいだろう、見逃してくれるのは有難いけれど、どうしてここで僕が引き合いに出されなきゃいけないんだ。


「もちろん、ミーちゃんが動ける限り勝ったことにはならないからねぇ?」


「は?」「わかった! やってやる! 約束は守ってくれよ!!」


 今度はハモらなかった。

 ウォークも必死なようで既に臨戦態勢だ。


「いやいやいや、待ってよ! 何で僕が戦わなきゃいけないのさ!?」


「言ったでしょ~、生殺与奪を握るってこういうことよぉ。ミーちゃん、頑張ってぇ、応援してるワぁ~。あ、因みに手を抜いてるって思ったら私がこの子を()ちゃうワねぇ」


 なーんーでーだー!!

 有名なスプラッター映画じゃあるまいし、デスゲームに強制参加なんて笑えないって!!



 やっぱり狂人女(こいつ)敵だったよalmA!!

 僕は浮かぶ多面体に乗って逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ