ep5.妖精の花畑防衛戦 2
■後神暦 1324年 / 春の月 / 黄昏の日 pm 00:49
「影だ子猫!!」
「うん、さっきミーツェの影がすっごく大きくなってあの魔狼が出てきたのよ!」
僕には突然現れたように見えたけど、最高台にいたダフネリアとサックの中にいたティスにはそれより前に見えてたんだ。
油断した……上手く運び過ぎて調子に乗っていた……もっと集中しないと……
でも影に隠れられるし、いつ後ろから攻撃されるかわからないってこと?
どうする? とにかく視界に入れ続けないと死角から攻撃される。
「距離をとって視界を広く……見失わないように……」
大きく息を吸いPDWを連射する。
魔狼の全体を捉えるには牽制して一定の距離を保ち続けなければいけない。
「ティス! リロード!!」
撃ち続けていればむこうも下手に突っ込んでこれない。
でも弾は今のマガジンが最後……いよいよ弾切れ後のことを考えないと……
あんな大きさと速さの魔狼に接近戦で勝てるの?そもそも手放したハンマー拾う余裕があるかも怪しいよ……
『『『 エアグレイブ 』』』
『『『 アクアスピア 』』』
視認できる速さとはいえ、弾丸より幅の広い魔法も魔狼は身を翻し躱していく。
いや、銃弾も妖精族の魔法も躱すなんて間違ってるでしょ、何発か当たってるんだから、もういい加減倒れてよ……
――カチッ……
弾切れ……最悪だ、もう接近戦をしかするしかない。
もし次があればもっと剣とかナイフの練習しておこう……
そんな”もしも”を考えながらも、銃を捨て飛ばされたハンマーに向かって必死に走る。
「almA! 援護して!」
防御態勢だったalmAは形を変えガトリングを回すが空気を破裂させるような音を響かせる。
空気弾を撃つ音……almAに補充した実弾も切れてるんだ……
スキルのリキャストタイムは1分弱、でもシールドは再展開できてる、3発までは耐えられる……!
魔狼の爪を吹き飛ばされながら2度防ぎハンマーを拾う。
3度目は噛みつき――……バリンッ!
シールドが割れ途中で牙は止まり僕に届かない。
突然のことに戸惑う魔狼の横っ面を全力で振り抜く。
「うぅ……らあぁぁぁあぁ!!」
――ガアアァアァアア!!!!
倒れこむ魔狼の姿が地面を埋まる様に沈んでいく。
しまった……影に逃げられた……!
「ミーツェ!!」
影に潜りこんだ魔狼は背後から襲ってくる。
解ってはいたしティスも警戒してくれていた、それでも迫る爪の振り下ろしを躱しきれなかった。
ティスのおかげで直撃しなかったけど、掠っただけで足の肉えぐれてるんだけど……
膝から下に力入らない……これじゃあ次は詰んだかな……
痛みを通り越して熱いし、いっそ笑えてくるね……
島では危なくなったら逃げることを選択していたからここまで大きく負傷したことはない。
体の一部が意志通りに動かなくなるほどの状況はさすがに心が折れる。
魔狼の牙が迫り「終わった」と諦めたが、何故か目算を誤ったように牙は空を噛んだ。
僕も魔狼も何が起こったか分からず一瞬目を合わせ固まる。
唖然とする僕を引き戻したのはティスだった。
「ミーツェ! 妖精族は幻を魅せる魔法が得意だって言ったわよね!? まだ終わってないわ! お願い戦って!!」
そうだ……そうだよ! まだ死にたくないしティスを、妖精族を守るんだろ!?
武器だってまだ一つだけ残ってる……!!
――スキルリキャスト完了
これ以上ないタイミングだ。
ソードオフ・ダブルバレルショットガン、弾は2発、でもこの距離なら絶対外さない……!
「僕はまだ生きていたいんだ……!!」
――”射撃技能……断罪”!
ゲームでは1ステージで回数制限ありのデメリットを持ちつつも相手の耐性を無視し、高攻撃倍率を乗せたプレイヤーから決戦スキルとも称された単発式の超攻撃特化スキル。
スキル効果で弾速・貫通力が異常に上がった散弾の威力は凄まじかった。
放たれた一つ一つが小さな弾は、通常のバックショットでは想像できない破壊力で魔狼の頭をズタズタにして、断末魔をあげることも許さずにその命を吹き消した。
文字通り蜂の巣、途中で止まることなく貫通した無数の弾丸でスカスカになった狼の頭部を想像して欲しい。
あまりのグロテスクさに普通ならしかめっ面になると思う。
しかし、命の危機を乗り切ったことで安堵感が勝り、その場にへたり込んだ僕は表情筋が緩んでマヌケな顔になっていた。
「はぁ……はぁ……ふぁぁぁ…………」
「……やったわミーツェ! 今度こそ終わったのよ!!」
「そうだねティス。それとティスのおかげで生き残れたよ、ありがとね」
ティスとおでこを合わせる。妖精族の謝意や親愛を示す所作だ。
妖精族を護れて良かった、締まらない終わり方だけど僕にしては頑張った方だよ。
その後はスキルで足の傷を治し、傷からぼこぼこと盛り上がってくる肉に自分の足ながら「キモいなぁ」と思わず声に出して引いたり、妖精族とおでこを合わせてまわったり、荒らされた花畑を整理したりと忙しく一日は過ぎていった。
やったよalmA!妖精族も僕も生き残れたよ!
僕は浮かぶ多面体に抱き着き眠る。




