おかしなゆめの国の本
がっこうの図書室には色々な本があります。
例えば地図の本。例えば歴史の本。楽しいクイズの本もありますし、少し怖いお化けの本もあります。
でも一番面白い本はと聞けば、みんながこう言います。
「おかしなゆめの国の本!」
それは、誰が置いたのか分かりません。誰が書いたのかわかりません。
いつの間にか本棚に入っている不思議な本です。
カラフルな城門と柔らかそうなお城が描かれた表紙の本です。
この本を寝る前に読むと、不思議な夢を見るそうです。
では、どんな夢を見るのでしょうか。
そう聞けば、やはりみんながこう言います。
「みてからのおたのしみ!」
とても気になりますよね。
さて、ここに一冊の本があります。
題名はもちろん、『おかしなゆめの国の本』。
本の内容はとても不思議で、とてもきれいな絵本でした。
では、本を読みました。
後は寝るとしましょう。
どんな夢が見られるでしょうか。
楽しみです。
寝て起きると、不思議な光景が広がっていました。
いつもの部屋にいつものベッド。けれど、部屋のドアが違います。
桃色の綿あめです。ドアが、綿あめになっていました。
きらきら光る綿あめには見慣れたドアノブが付いています。どうやら、部屋のドアが綿あめになっているようです。
綿あめのドアを開けると、見慣れない景色。でも、凄く見覚えのある景色が広がっていました。
『おかしなゆめの国の本』
あの表紙と同じ光景が広がっていました。
べっこう飴の城門を通ると、マシュマロの広い道がお城まで伸びています。
広い道の脇にはキャンディの実がなる木が並んでいます。赤や黄色や緑のカラフルな包装紙に包まれたキャンディがキラキラとしています。
キャンディ並木の向こう側には、屋台が並んでいます。気になって、屋台の一つに近づきます。
「いらっしゃい! 今日は特別な日だよ! なんでもタダだよ!」
タヌキの店員さんは、バナナを焼いていました。甘いバナナの匂いがします。
ソースは色々あります。甘いチョコレート、甘酸っぱいベリーソース、カラメルソースにメープルシロップ。
トッピングも色々あります。クラッシュナッツ、色鮮やかなカラースプレー、柔らかそうなホイップクリームにチョコクッキー。
せっかくなので、定番のチョコレートソース、トッピングはクラッシュナッツとカラースプレーとホイップクリーム。
手際良く出来上がった焼きバナナを食べる、とてもあまくて美味しい。ホイップっクリームをなめて、またかじって。
夢の中なのに、すごく美味しい。不思議です。
次の屋台はパンケーキを焼いていました。今度はリスの店員さんです。
プレーン、チョコ、抹茶にイチゴ、バナナにマンゴー。
ふわふわで甘くて香ばしいパンケーキの匂いがします。
イチゴのパンケーキを注文すると、すぐに焼き上がったパンケーキを渡されました。
出来立てなのに触っても温かいだけで、火傷しません。さっそく一口ぱくり。
ふわふわなパンケーキの生地の中に甘いイチゴの味がします。
でもそれだけじゃありません。小さな柔らかいグミが入っています
「入ってるのはラズベリージャムだよ!」
グミは口の中ですぐ溶けて、甘酸っぱいラズベリーの味がしました。
他にもたくさんの屋台がありました。
サッカーボールみたいに大きいのに凄く柔らかくて美味しい焼きマシュマロ。
ウサギやクマの様に動物の形をしたサクサクチュロス。
不思議でおいしいお菓子の屋台がたくさん並んでいました。
あれも食べて、これも食べて。
そうしてお腹いっぱい食べた後、思わずこうつぶやきました。
「もう食べられないよぉ」
すると、エレベーターで下に降りるような不思議な浮遊感がありました。
なんとなく、あぁ夢が覚めちゃうんだと気付きました。
目を開けると、朝でした。
不思議な夢だったなぁと思って、あの絵本を探しました。
でも枕元に置いていたはずの絵本は、ありませんでした。
本の題名は覚えているのに、内容は全然覚えていませんでした。
夢の内容もぼんやりしていて、あまり覚えていませんでした。
覚えているのは、良い夢だった事。おかしな、夢だった事でした。
それからは、毎日図書室に通うようになりました。
またあの絵本を読みたくて。またあの夢を見たくて。
ある日、知らない子供が図書室に入ってきました。
その子は面白い本を探している様です。
あまり本を読んだことが無いから、一番面白い本を教えて欲しいと。
だから、ちゃんとこう答えました。
「おかしなゆめの国の本!」