温泉の里で二度目のアイドル生活始めました
草部由美子は失意の中、バスを降りた――。
その地の名は卯ノ花市、彼女の実家がある自然が豊かな温泉街だ。
「はあ……こんな形で帰ってくるなんて、とんだとばっちりよ……」
由美子は人気アイドルグループ『スプリングス』のメンバーだった。
センターが起こした不祥事によって解散を余儀なくされ、実家に帰ってきた。はれて二十才の無職となった。
由美子は親のつてを頼りに、町一番の旅館・満月庵の従業員として働くことに。
「由美子ちゃ~ん、久しぶり」
「ああ、あんたは――」
彼の名は熱田かいり。満月庵の跡取りで由美子の二才年上の幼なじみ、そして卯ノ花市の観光組合で広報を担当している。
海利は由美子の手を握っていった。
「救世主様が降臨なされた!!」
「なっ何なのよ急に、気持ち悪いわね」
「単刀直入に言う。この町のアイドルになってくれないか?」
「アイドル!?」
飛んでくる懐かしい単語に驚く由美子。
「実は卯ノ花市では観光客が年々減っていて、宿泊施設が経営危機に陥っているんだ。もっと言うとすでに廃業したところもある。満月庵もあと何年もつかってところまで来てる」
「何ですって!?」
冗談じゃない。運よく就活せずに仕事を手にできたのに。無職に逆戻りなんて……。
「そこでこの温泉街を立て直すために、目を付けたのが『ご当地アイドル』だ!」
「ご当地アイドル……、それを私に?」
「そうだ。この町の良さを世に発信し、活性化を促す、地域密着型のアイドルグループを立ち上げる一大プロジェクト。そのセンターに由美子ちゃんを迎え入れたい。全国規模のアイドル経験がある君を!」
「アイドル……」
スプリングスの解散後も、しばらくは芸能活動は続けていた。しかし、どの現場でも色眼鏡で見られ、仕事は減っていった。何より、かつてのセンターは素行こそ悪かったものの、圧倒的才能と実力によって由美子はいつも比べられてきた。
そんなアイドル人生に未練だらけの中で、アイドルとして人から必要とされた。
断わる理由などどこにもなかった。
こうして彼女は再び、歩き始めるのだった――。
前回の「魔物学園の文化祭で歌を君に」に続く
小説家になろうラジオ大賞に向けた2作目
この作品もなろラジの「タイトルは面白そう」のコーナーで
採用された作品を加筆したものです
「温泉」というキーワードの下、文化放送ではオンエアされなかったのですが
YouTubeのアーカイブの方で読まれました
余談ですが前回の投稿の際、活動報告をしてなかったので
この後もう1作更新したらまとめて書きたいと思います