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5 一件落着

 俺はかぼそい声でつぶやいた。


「な……行くってどこへ……?」


 パニック状態の俺に、ヒヨリはほほ笑んで言った。


「わたしの母国へ。すばらしい研究環境とそこそこ快適な生活は保障するよ。逃げ出そうとしたりしない限り」


「いや、なんで? え? じゃ、ヒヨリは外国の……」


「そう。松本君を拉致(スカウト)するために来た外国のエージェント」


「はぁ? 潜入捜査官の次はスパイ? よしてくれよ。いやいや、こんなマヌケで情けないモブ男子に海外の情報機関とかが興味をもつはずないから……あ、そうか。これも俺の妄想なんだな? ここは妄想世界なんだな?」


 スパイとか、いかにも高校生男子の妄想っぽい設定だ。ハハハハハと俺が壊れたように笑っていると、ヒヨリはフフフと笑った。


「本当に記憶がないんだね。アキラ君。君はモブなんかじゃないよ。でも君はむしろモブ、普通の子になりたいのかもね。君はいわゆるギフテッド。実は超高IQだけど、能力に大きな凸凹があって、得意なことだけに異能を発揮するタイプ。過敏で不得意なことも多いから日本の学校では才能を発揮できなかったみたいだけど。私の国なら大丈夫。その才能、しっかり有効活用してあげるよ」


「いやいや、俺、記憶ないし腹痛頭痛もちの病弱で妄想とかもしちゃうし本当に無能だから。だいたい、俺の異能ってなんだよ。まさか、本当に俺がみんなをゾンビにしたとか言うんじゃないだろうな? 俺、そんな極悪人じゃないよな? なぁ? ちがうって言ってくれよ」


 こんな事態を引き起こした犯人が俺だったら、俺、生きていけないよ。そんなだったら、もう速攻ゾンビに殺されたいよ……。あぁ、最初に殺されるモブでいたい……。

 ヒヨリはかわいい顔を歪ませて笑った。


「フフフ。アキラ君っておもしろいね。生物をゾンビにする毒薬を作ったのは、まちがいなく君だよ、アキラ君。タクヤ君もちょっと手伝ったみたいだけど。覚えていないなら、教えてあげよっか。君のご両親は、なくなった君の妹さんを生き返らせるための研究をこっそり行っていた。ご両親は志半ばで死んじゃって、君はアイカさんの家に引き取られたけど、後を継いで研究を続けていたの。そして、その研究の副産物として、この、軍事転用するととても有用そうな毒薬をつくっちゃった」


「じゃ、本当に俺が……?」


 そこで、ナナが叫んだ。


「嘘です! 松本君がみんなをゾンビにするなんて、ありえません! 松本君は人を殺すような人じゃありません! きっと、犯人は、誰か別……。あ……まさか……」


「気が付いた? みんなをゾンビにしたのは、アキラ君の親友の、タクヤ君だよ。わたしはずっとタクヤ君のことも観察してきたからよく知ってるの。アキラ君がつくっちゃったゾンビ化薬を入手したタクヤ君は、それを使って色々実験していた。それが、この辺りで起きていた連続殺人事件。そして、今日のゾンビパニックの真相」


「な……なんでタクヤはそんなことを?」


「理由なんてないよ。楽しいからじゃない? あ、タクヤ君は一足先に避難したから安心して。あとは共犯者、ううん、主犯のアキラ君だけだよ。こんなことになっちゃったら、もうここにはいられないから、よろこんで来てくれるよね? ついでにナナちゃんもつれていってあげる。じゃないと、口封じに殺さないといけないけど、いっしょに行きたいよね? さ、行こう」


 そう言って、ヒヨリは俺の方に歩いてくる。

 怖い。ヒヨリが怖い。

 俺は腰を抜かしたままズルズルと後ずさった。


「ひぃー……。ちょっ、ちょっと待てよ。それで、俺が拉致された後、みんなはどうなるんだよ。ゾンビは」


「知らない。日本はゾンビで滅ぶかもしれないけど、私の国には関係ないから」


「そんな……」


 そのとき、怒鳴り声が響いた。


「そんなこと、許されるわけないでしょ!」


 何かが窓を突き破って入ってきて、そして、室内で爆発が起こった。

 真っ白い煙に包まれて何も見えなくなった中、銃声が響いた。


「うわっ。なにが起こってるんだ?」


 白い煙がはれた時、そこにはリョウコの拳銃を手に持ったアイカが立っていた。ヒヨリは血を流して床に倒れている。生きてはいるみたいだけど。

 アイカは俺にむかって叫んだ。


「早く逃げるわよ!」


「う、うん……」


 窓から外に出て、学校外へと脱出しながら、アイカは俺に言った。


「思い出したの。この前、あんたがあたしに渡してきた薬のこと」


「薬?」


「あんたが言ってたのよ。「もしも万が一、何かホラー映画みたいなこと起こっちゃったら、これを飲んで。これは解毒薬だから」って。何の話かと思ってたら、こういうことだったのね。このバカっ。なんて事態引き起こしてんのよ!」


「ごめん。おぼえてないけど。あと、タクヤが犯人らしいけど」


「どうせ作ったのはあんたでしょ。さっき飲んでみたけど、あんたの解毒薬はちゃんと効く。早く解毒薬を入手して、みんなを元に戻しましょ。あんたのことだから、きっと研究所にたんまり置いてあるはず」


「よかった。じゃ、それで解決でき……。うー……なんか、記憶がかえってきたかも……。アイねぇ……俺、なんかやばいことやっちゃった気が……」


 こうして、学校の外に脱出した俺達は解毒薬を運んでゾンビっぽくなっていた人達を元に戻した。

 直後、俺の秘密の研究施設には、国家公務員だっていう怪しい人達がやってきて、ゾンビ薬と解毒薬とその研究データを全部もっていっちゃった。

 だけど、その代わり、国家権力の介入で俺のことはおとがめなしにしてくれた。

 よかった、よかった。


 ヒヨリはいつの間にか姿を消していて、行方知れず。

 タクヤも行方不明だから、きっとふたりとも某国にいるんだと思う。

 ふたりとも仲良くやってるといいな。

 俺はまた毎日普通のモブい学校生活を送っている。たまに騒動は起きるけど。



おわり


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