臨終
朝、起きて。
椛の巣におはようの挨拶をしにいく。
いつもなら独りでいたいオーラ全開で、
目だけで挨拶を返してくるのだが。
この朝は違った。
仔猫みたいに甘えた声で鳴いて、
撫でてくれとせがんできた。
ひさしぶりに、清拭以外で椛に触れた。
椛の毛皮はゴワゴワで固くて、男性的でかっこよかった。
それがこの数週間の闘病のせいで、
まるで仔猫みたいにサラサラで柔らかくなっていた。
椛が膝に乗りたがった。
おぼつかない震える手で膝に登ろうとしてくれるから、
抱っこした。
骨と皮しかない椛の体は、まるで天使みたいに軽かった。
しばらく膝で撫でていたら、椛が顔をそむけた。
そろそろ出てってくれ、の顔。
この顔になったら隔離室を出ていかないと、
椛に叱られる。
なんとなく、今日逝くのだろうな、と思った。
独りで逝きたいから家を出ていてくれ、
と言われてる気がした。
だから会社に行った。
定時ジャストでタイムカードを叩き込み、
弾よりも早く帰宅した。
椛は隔離室で冷たくなっていた。
まっすぐに背中を伸ばして。
最後まで、ロバートデニーロみたいに雄々しかった。
たぶん私は、椛のニーズを叶えることはできたと思う。
一年だけでも極上の夢を見ることができて、
幸せだった。
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