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小康5
駆け足で会社から帰り、椛の巣をのぞく。
椛は足音が聞こえていたのか、
可愛くお座りをして、私を待っていた顔。
遅かったじゃないか、という顔で私を見てから、
血の混じった泡を嘔吐する。
それから、さあ掃除しなさい、と言いたげに一歩引いて、
寝床がきれいになるのを見ている。
私がいない時に吐いたら巣が汚れるから。
帰りを待ってから吐いた。
そして清潔になった寝床に横になり、
もう消えていいよ、の顔をする。
たぶん椛は、隔離扉のむこうで私が待機しているのも知っている。
扉を数センチだけ開けてこっそり巣をのぞく。
病状は惨々たるものだが、
椛はほんのり機嫌がよさそうにみえる。
ガリガリに痩せこけてアバラの浮いた体から、
今日もおしっこが出た。
さぞ苦しいだろう。それでもまだ生きていてくれるのが、
嬉しくて哀しい。
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